五匹の鹿

ソルトねく

五匹の鹿

深ーい山の奥の中で、静かに暮らしている生き物を見つけたいと感じる。そんな経験はあるだろうか?



と、聞かれましても、この山で隠れて暮らしているわたくしたちには関係ないことでございます。


おっと、皆さんこんにちは。わたくし鹿でございます。わたくしも鹿でございます。我も、われも、私も、鹿でございます。


わたくしたち鹿は、五匹でこの山の中で生活をしております。

わたくしたちは、皆それぞれに色が違っています。

角の色は皆同じ白色ですが、体の色が違っているのです。

初めに挨拶をした鹿は、あか色の鹿です。

次に挨拶をした、わたくしも鹿さんは、みどり色の鹿です。

我も、と挨拶をした鹿は、あお色の鹿です。

それと、われも、と挨拶をしたのは、き色の鹿で、最後に私と挨拶をしたのは、むらさき色の鹿です。あれ、虹が作れるのでは?と思いますよね。

しかしながら、虹を作るにはあと二色必要だったはずなので作れません。


さて、この五匹の鹿たちには友達がいたのだ。カラスである。|

この五匹の鹿たちは、実は一匹の鹿の中の格の一つ一つであった。

鹿は多重人格な鹿だったのだ。いや鹿なので、鹿格といっておこう。

毎日ころころと鹿格が変わる。一日の中で何度も色が変わることもあり、カラスはどの鹿の格とも仲良しなのだ。鹿たちが、烏と一緒に川の近くで休憩していた時、川の方から



「だーれーかー、たすけてー」


という声が聞こえ、川でおぼれかけて死にそうになっている男を見つけた。

その時の鹿の体の色は、き色だった。き色の鹿は、元気あふれる性格をしている。

声が聞こえて鹿は驚き、体の色がむらさき色に変わってしまった。むらさき色の鹿はいつもは上品だが、驚いてしまうと不安を感じる性格をしている。

むらさき色の鹿は、川に向かった。そこで男を見つけた。

溺れかけて、死にそうになっている男を見つけ鹿は、助けてあげようという気持ちになった。

その時、鹿の体の色はみどり色であった。みどり色の鹿は優しさにあふれた性格をしているのだ。

男を助けようと鹿は川を泳いで近寄った。

その時の鹿の体の色は、あか色だった。あか色の鹿は情熱あふれる性格だ。

そして、男を助けた鹿は、あお色に変化していた。あお色の鹿は落ち着いた性格をしている。


男は

「助けてくれてありがてー、この恩はどう返せばいいんですかね?」

といかにも胡麻すりと言いたくなるような様子で聞いた。

鹿たちはこの言葉に大変困ってしまい、体の色を一色に保つことが難しくなってしまった。

男は、「さあ、さあ」という感じで聞いてくる。

鹿たちは、ええいままよ!と思い男の質問に答えた。


この時の鹿の体の色は、五色すべてが体に現れており、本当に虹かと思うような形で、五色が斜めに鹿の体に現れていた。鹿は男にこう答えた。


「恩返しの方法ですか?何もしなくて大丈夫です。

ただ、私たちはこの山で静かに暮らしています。だから、今日のことを誰にも話さないでください。ご覧の通り、私たちの体の色は五色です。

なので人に知られてしまうと、私たちを探しに山へ入ってくる人が出てきてしまい、きっと今の暮らしができなくなってしまいます。

それが怖くて、こういう山奥で暮らしていたのです。でも、あなたが助けを求める声があまりにも、(哀れだ〜)と思って、私たちの暮らしより、あなたを助けることを優先しました。だから絶対、絶対に誰にも話してはいけません。

いいですね、わかりましたね?絶対だめですよ。

これだけ守ってもらえれば何もいりません。」


これを聞いた男は


「はぁー、ごもっともですねぇ。わかりました、絶対に誰にも言いませんよー。大丈夫です。わかりましたー。言いません、言いませんともぉ。」


と繰り返し言って、帰って行った。男は家に帰ってからも誰にも話さなかった。


さてこの男、実は、桃太郎に憧れて旅に出たという経緯があった。

しかし、鬼など存在する訳もなく、お供の動物も見つかる訳がないと気づき、川に流されて拾われれば桃太郎になれるかもしれないと考えたのだ。

流されようと川に入ったが、男は、そもそも泳げなかった。そんな男が川に入ったら、溺れることが分かりきっているというのに、(俺は桃太郎になるんだ)ということしか考えていない。ようは馬鹿である。

鹿もびっくりするほど馬鹿な男だったのだ。


そんな馬鹿な男を鹿は(哀れだな)と思い助けた。

そして男は、命があることに感謝して、旅を諦めて家に帰り、日々を過ごしていた。しかし、桃太郎にはなれなくても、何か大きなことをしたいと思っていた。でも何がやりたいのかは、ずっと分からなかった。


そうして過ごしてうるうちに、どこかのお偉いさんが、「五色の鹿を探している」という話を聞いた。


「五色の鹿を見つけた者には、大金や宝石、更には国をも与える」


との事だった。

自分がしたかった大きなことは、これだ!と男は思った。鹿との約束もあったが、それよりなにより大きなことをしたかった男は、命も賭けなくていいと思い、お偉いさんの元に行った。


お偉いさんの元に行った男は


「俺、知ってますよぉ、あの山の奥で暮らしてますよ、その鹿。捕まえてきますので、鹿狩の方をお貸しして頂けますかぁ?」


と言ったのだ。

それを聞いたお偉いさんは、とても喜んで、一緒に探しに行くと言い、多くの狩人を引き連れて、男に案内を頼み山に向かって行った。


鹿たちは、そんなことなど露知らず静かに暮らし、巣穴の中で寝ていた。その時の鹿は遊び疲れていたので、き色だった。


友達のカラスが、(何か音が聞こえるな)と思った。夜明け前に目が覚めた烏は、音の原因を探しに行き、そこで烏が見たものは、鹿たちが助けた男が、狩人を引き連れて山に入ってくる様子だった。

これを見て、カラスは大きな声を出し、角をつつき鹿たちを起こした。鹿たちは、こんな朝早くになんだよと思った。

しかし、今までカラスが角をつついて起こすことはなかったので、少し驚きながら目を覚ました。すると烏はこう言った。


「あの男、君たちを裏切った!!!!誰にも言わないと約束したのに、金に目が眩んだのか、君たちを探してる奴に話したらしい!!!大勢の狩人を引き連れて、この山の中に入ってきた!!もう逃げ場がないよ!!!どうしよう!!!」


と泣きながら「ごめんね」と謝って飛んでいってしまった。


鹿たちは驚いた。カラスは何を言っていたのだろうと、考えた時に「がさっ!」と音がなった。音が聞こえた方を見ると、あの男がいた。男の後ろには、きっと自分たちを探しにきた奴だろうと思われる人がいた。

鹿はこの時、あお色だったのだが、恐ろしくなって、むらさき色になっていた。しかし、なぜここが分かったのか気になった鹿たちは、自分を探しに来た人に近寄っていった。

この時の鹿は、あか色だった。鹿を探しにきたお偉いさんは、大王であった。大王の近くに鹿が来ると、大王の周りにいた狩人たちは、矢をつがえて、鹿を狙った。


しかし、大王は言った


「鹿が近づいてきたのには何か訳があるのだろう。弓を下ろせ」。それを聞き、狩人たちは弓を下ろした。すると鹿は、みどり色になり、大王の前でこう言った。「わたくし達は、体の色が五色であるため、他の動物を怖がらせないように、この山の奥で隠れて、静かに暮らしています。それなのに、貴方はどうしてわたくしの居場所がわかったのはどうしてですか?」


これを聞いた大王は


「そこにいる男が教えてくれたのだ。そのため、お前の居場所がわかったのだ。」


と言った。

鹿は、大王の話した男の方を見た。その男はやはり、鹿が前に助けた男だった。

鹿はその男の方を見て


「命を救った時に、お前はこの恩をどうやったら返せるかと聞いたな?私はそれに対し、誰にも話してはいけないと、何度も何度も繰り返し約束した。

それなのに、わたくしの居場所を人に伝えたな、お前は恩を仇で返すのか。お前が溺れかけて死にそうになっているとき、我が自分の命を顧みずに助けた時、あれほど自分が生きていることに大喜びをしていたことを覚えていないのか?お前の頭は馬鹿なのか?」


と鹿たちは恨みのこもった顔で涙を零しながら言った。その時の鹿は、虹のような色であったが、表情は子を殺された親のような顔をしていた。これを聞きながら、大王も涙を零していた。


大王は鹿たちに


「お前たちは動物だが、心がある。慈悲の心だ。この心を持って人を助けた。でも、この男は欲に取り憑かれ、恩を忘れた。人間以下、動物以下の、畜生と言える。恩を知ってこその人間なのだから」


と語った。そして、男を捕まえ、鹿の見る前で処罰を下した。その時の男は、桃太郎に倒された鬼のようだった。これを見た鹿たちは、なんて馬鹿な男だったのだろうと哀れに思った。


そして、大王は


「今後、鹿を狩ってはいかぬ。もし鹿を狩る者が出たら、その者は首が飛ぶと思え」


と言い放った。その後の国の行く末など、鹿たちには興味がなかった。だが、鹿への殺生を禁じた、大王へ少しの繁栄を願い、祈りを捧げた。




その後、鹿たちはさらに山の奥へ住処を移し、神の使いになったとか、なっていないとか。


しかし、深ーい山に入ったものは皆こう口にするのだ。




「五匹の鹿がいた、色は、赤、緑、青、黄、紫の鹿だった。光の加減で一匹の白い鹿にも見えたが、あれは絶対五匹いた」と、、、



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