第一発見者は怪しいって!?王弟殿下、助けてください!!
翠雨
第1話 犯人ではありません!!
綺麗に整えられた庭木と花壇を彩る草花が、朝露に濡れて瑞々しく輝いている。視線を上げて見回せば、手の行き届いていない部分もあり、アンバランスさを感じた。
特に、敷地の一番奥にある倉庫と厩舎らしき建物の回りは、人が通るところを除いて荒れ放題だった。朝からせっせと働く庭師の姿を見れば、あと数日もすれば素晴らしい庭が出来上がるのだろう。
ブルーベル・ウェルノは、自分が使わせてもらっている部屋の前を通りすぎて、大きく息を吸った。庭園を一周できるように作られた道を、朝の空気を感じながら歩く。屋敷に近い部分の花壇は、植えられたばかりの草花が可愛らしい花をつけていて、自然と目尻が下がった。
もうすぐ完成するであろう素敵な庭園を、どの部屋からでも堪能できるように、屋敷はコの字形に建てられている。客間がある東側の棟から、
「あれ? あれ?」
どこかが、おかしい……。
建物に近いところにある植え込み。植えられたばかりの花壇。何かがおかしい。違和感がする。
周りを見回せば、違和感のある場所はここだけではなく、南の方向に続いているようだ。
「あぁ、不味いかも……」
この違和感を感じたときは、悪いことばかり起こる。なにか変だと思い物陰を覗いてみたら、全身切り刻まれた猫を見つけたり、盗まれたと騒いでいた叔母さんのバッグを見つけたり……。
バッグを見つけたときは、本当に大変だった。大人達が探しても見つけることができなかった物を、当時14歳だったブルーベルがあっさり見つけてしまったのだから。しかも、バッグの中に入っていた貴金属や金貨が失くなっていて、ブルーベルが盗んだと疑われてしまった。
両親がずっと一緒にいたブルーベルに盗めるわけがないと説得してくれたが、その後からというもの気味の悪い子と思われている。
親戚として会えば顔をしかめ、周りの人間にバッグを見つけたときの気味の悪さを誇張して言いふらす。ウェルノ伯爵令嬢は、悪魔つきなどと言い出す始末。
それからというものブルーベルは、領地の屋敷に引きこもっていた。成人を迎え、「嫁ぐか? 働くか?」と親に迫られたが、気味の悪い娘に婚姻の申し込みなどあるわけもなく、仕方がなく王都に出てきて働くことにした。
「でも、気になるし……」
無視しろと頭の中では警鐘が鳴っているのに、好奇心が押さえられず、一歩、二歩、と進んでいく。
屋敷の角まで来たときだ。倉庫に隣接したところにある、雑草が生い茂る藪に、破れた布が引っ掛かっているのを見つけた。
「あれ? なんだろ?」
嫌な予感がするが、ここまで来て、見ないわけにはいかない。
ギリギリまで近づき、恐る恐る体を伸ばして覗き込むと、紺色の布にくるまれた細長いもの…………いや、布から突き出た、青白い足。反対側には乱れた髪の毛。
「きゃぁああぁぁ!!」
ヒト!! ヒト!! ヒトが、死んでる!!
ブルーベルがその場から動けないうちに、庭師や門番などが集まってきた。騒ぎを聞き付けて、執事やハウスメイドなども屋敷から出てくる。
「マリア!? マリアじゃない!」
ハウスキーパーのアイーダが、悲鳴を上げた。
「マリアなのか?」
庭師頭のオーランが藪を掻き分けて進み、抱えるように引っ張り出す。不自然なほどピンと延びた足が藪に引っ掛かる。直角に曲がった手が、ブルーベルを指差しているように見えて、「ひぃ!」と小さく悲鳴を上げた。
「マリアは、夜の見回り担当だったのよ。今は、部屋で寝ているものだと……」
「これはひどい……。首を絞められたのか……? これは、何に使うものだ……?」
執事がつまみ上げているのは、庭木に添え木を固定するための麻紐だ。マリアと呼ばれたメイドの首には、絞められたような跡が、くっきりと残っていた。
「物陰で、麻紐を使って、マリアの首を……」
アイーダが呟きながらブルーベルを見ると、その場にいた全員の視線がブルーベルに集まる。
無言の非難に全身が細かく震えた。「私じゃない!!」と言いたいのに声が出ず、ただ口をパクパクと動かすのみ。
このままでは、殺人犯にされてしまう。この場には、弁解してくれる両親もいない。
不味い、不味い、不味い、不味い!!
「あっ、逃げるぞ! 待て!」
気がついたときには、逃げ出していた。
行く宛など無いのに、この場から逃げ出したい一心で屋敷に向かう。扉を空けると、ドアベルの音が盛大になり、・・・・!!
思いっきり、ぶつかった!!
鼻が潰れるくらい顔面を打ち付けて悶絶していると、落ち着いた声が聞こえる。
「ウェルノ嬢、大丈夫かい? 何があったんだい?」
そこには、王弟殿下が切れ長の青い目を見開いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます