第9話

一度でいいから生身の青嶺 リリに逢いたいと強く思うようになっていた。


「來斗さん。リリも一度連れて来て下さい」


「玲……」


 玲が初めて人への興味を示したことに、來斗は少し驚いた表情。


「來斗さん?」


「あ、いや悪ぃ。まさかお前がそんなこと言うとは……びっくりした。でもなぁ、連れて来たいのは山々だが、お前肝心なこと忘れてんだろ?」


 そう言われて気付くなんて、自分はどれだけ必死になっていたのか、自分の家のことを失念していた。

 確かにこんな所には呼ぶことは出来ない。

 何故なら玲の家は極道だからだ。


 裏の世界では“西園寺組”を知らない者などいない程の、長い歴史をもつ任侠一家。

 薬などには一切 手は出したりはしないが、所詮やくざはやくざ。

 そんな強面の男たちがうろうろするような家に来たら、まだ小学生のリリはきっと怯えて泣き出すに違いない。


 この時初めて自分の境遇を呪った。

 玲は子供なりに、例え周りに蔑視(べっし)されようとも、この世界で生きて行く覚悟があるし、極道の人間であることに誇りさえ感じていた。

 だけど、まさか自分がこの一瞬だけでも、この境遇を消し去りたい衝動に駆られたのには、驚きを隠せなかった。

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