第9話
一度でいいから生身の青嶺 リリに逢いたいと強く思うようになっていた。
「來斗さん。リリも一度連れて来て下さい」
「玲……」
玲が初めて人への興味を示したことに、來斗は少し驚いた表情。
「來斗さん?」
「あ、いや悪ぃ。まさかお前がそんなこと言うとは……びっくりした。でもなぁ、連れて来たいのは山々だが、お前肝心なこと忘れてんだろ?」
そう言われて気付くなんて、自分はどれだけ必死になっていたのか、自分の家のことを失念していた。
確かにこんな所には呼ぶことは出来ない。
何故なら玲の家は極道だからだ。
裏の世界では“西園寺組”を知らない者などいない程の、長い歴史をもつ任侠一家。
薬などには一切 手は出したりはしないが、所詮やくざはやくざ。
そんな強面の男たちがうろうろするような家に来たら、まだ小学生のリリはきっと怯えて泣き出すに違いない。
この時初めて自分の境遇を呪った。
玲は子供なりに、例え周りに蔑視(べっし)されようとも、この世界で生きて行く覚悟があるし、極道の人間であることに誇りさえ感じていた。
だけど、まさか自分がこの一瞬だけでも、この境遇を消し去りたい衝動に駆られたのには、驚きを隠せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます