第5話

シャワールームから出てきた玲はバスローブを羽織り、ソファへと腰を下ろすと煙草を吸い始めた。

 その所作、仕草にいちいち目を奪われる。

 女は口元を上げ、玲を眺め堪能する。


「ねぇ……玲」


 女が声を掛けるが、興味なさそうに玲は一瞥するだけ。


「貴方は……好きな人っていないのかしら?」


 “いない”と言って。

 女は淡い期待を持って、玲の返事を待つ。

 だが……女の言葉に玲は乱暴に灰皿で煙草を消した。


「いたところで、お前に何の関係があるんだ」


 ベッドに来た玲はバスローブを脱ぎ捨て、裸体を晒す。

 今初めて聞いた玲の魅惑的な低い声と、そしてベッドの上ではなく、初めてまともに見たその見事な身体を見て、女の秘部が再び熱く潤みだした。

 身体はまだ力が入らないが、女はもう一度抱いて欲しいと熱く潤む目で玲を見る。


「玲……もう一度……」


 女は玲へと手を伸ばすが、玲はベッドの上に散らばったスーツを掻き集めると、すぐさま身支度を整えてしまった。


「玲……?」


 女の声は擦れる。


「金はいいから、好きな時にここから出ろ」


 それだけを言い残すと、まるで先程の熱い情事がなかったかのように、一切振り返る事なく部屋を出ていった。

 女は愕然と、ただ玲の出ていった扉を眺めていた。


 自分にはかなり自信があった……。

 どんな女よりも美しく、男はみんな自分にひれ伏すとまで。

 その自分が、こうもあっさりと切られてしまうなんてと、女はただ悔しくて、シーツに蹲り、声を上げて泣いた。

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