第2話

「ねぇ、貴方が噂の男でしょ? ここだと聞いたから」


「……」


 甘ったるいきつい香水の香りが鼻先を掠め、少年は思わず顔をしかめる。

 少年の叔父、晴輝が経営する【Rose Queen】のホテル内にある、バーのカウンターで1人飲んでる時に声を掛けてきた女。

 女は自分に自信があるんだろう。

 胸元が大きく開いた黒のシックなドレスに身を包み、余裕のある妖艶な笑みを浮かべている。


「貴方……本当に15歳? 信じられない……」


「……」


 女は答えない少年の隣のスツールに腰を掛けた。


「その歳で、こんなにスーツが似合う男見たことないわ」


 少年に熱い眼差しを向けて微笑みかけた女は、そのまま鏑木かぶらぎと名乗ったマスターにカクテルを注文する。

 少年は軽く鏑木を睨むと、鏑木は慌てて頭を下げ、女にカクテルを出すと奥に引っ込んで行った。

 高校生になったばかりの少年に、ほぼ毎日と人使いが荒い叔父の仕事の手伝いも漸く終わり、せっかくゆっくり出来る時間であったはずが、女によって壊される。


「フフ……さすが西園寺組の若様ね? 玲って呼んでいいかしら?」


 細く爪の先まで綺麗に整えられた指先で、カクテルのグラスに指を這わす。

 玲と呼ばれた少年は、興味なさげに煙草の煙を肺へと送り込む。


「玲は無口なのね。まぁ、そこが素敵だけどね?」


 女は玲の太ももに手を置き、内腿をゆっくり這わしながら耳元で甘く囁く。

 明らかに誘ってる女。

 暫く無視をしていたが、諦める様子のない女に玲は呆れたように軽く息を吐き、女の手を乱暴に取って立たせた。

 女は驚きながらも待ちわびてたかのように、玲の腕に自らの腕を絡め、2人は最上階のスイートルームへと姿を消して行った──……。

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