第8話
意に介さない態度の母に焦れる。
「そうじゃなくて! 可笑しくない? 誰がこんなに綺麗に手入れしたの? 不動産? 不動産屋さんってそこまでしてくれるものなの?」
「え?」
……いやいや、こっちが『え?』だよ。
私も小難しい住居事情の事なんて、さっぱり分からない。
でも、可笑しい事くらいは分かるつもり。
それなのに“この子何言ってるの?”みたいな残念な子を見る様な目で、私を見つめてくる母。もはや唖然とするしかなくて。
「あぁ……それはあれだ……俺のツレが面倒見てくれてたんだよ。それよか早く中入れ」
不意に車に積んでいた荷物を運び終えたらしい父が、私と母の肩に手を置き、中へ入るよう促してきた。
「ツレって誰?」って問い掛けようと父に顔を向けると、優しく微笑んでくる。優しい目をしてるけど……。
“この話は終わりだ”と無言の圧力を掛けてくる。
父は時々、誰かと話してる時にも威圧的な雰囲気のオーラを纏う時がある。
今年36になるが、年を重ねてもいつまでも若々しく男前な父。
そんな父に一体何者? と、時々感じる。
空気を読んだ私に、“よくできました”と言わんばかりに頭を優しく撫でてきて、促されるままに中へと入って行った。
きっと何か隠してる事があるんだ。
父の友人関係の事情。
いくら友人でも、いつ帰ってくるのかも分からない家の管理なんて、並大抵のことじゃないと思う。
どんだけ奇特な人なんだって思う。
家の中も真新しい家具や、向こうから持ってきた家具達、食器類も既にセッティングされているし。
それに、なんと言ってもあの学校。都会の学校はあれが普通なのかと一瞬思ってしまったが、そんなわけない。
『龍虎』
書かれてた文字はあれだけじゃないのに、群を抜いて見る者を畏縮させるのに十分な効果があるあの文字。
不安が押し寄せて来て、入居初日から憂鬱な気分と疲労感から、綺麗に敷かれた大好きなピンク色のシーツのベッドにダイブしたのだった。
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