第2話

3月下旬。

 まだ冬の名残の冷たい風が、母ゆずりのハニーブラウンの長い髪を、ふわふわと靡かせている。少し肌寒いけど、今の私にはちょうど心地いい。


「リリ? 気分悪くなったの?」


 優しい声音で、前に座る母がビー玉の様な綺麗なエメラルド色の瞳を陰らせ、心配そうに私に振り返ってきた。


「うん……ちょっとね。ごめん寒かったよね?」


 急いでパワーウインドウのボタンを押して、窓を閉めた。


「気にすんな。気分悪かったら開けとけ」


 運転席でハンドルを握りながら、少し顔を後ろに向けてにっこり笑った父に「もう大丈夫だよ」と、笑顔を向けておいた。


 本当はまだ少し気分悪いんだけど……。

 そんな私の返事に「そうか?」なんて言いながら、目的地に近づいてきたのか、さっきから鼻歌なんか歌っている。母も同調するかの様にウキウキとして「後もう少しで着くからね」と、嬉しそうに微笑んできた。

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