第10話 家康死す 修正版
23年に発表した「政宗が秀吉を殺していたら」の修正版です。実はPCの操作ミスで編集作業ができなくなり、新しいページで再開したものです。表現や文言を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。
空想時代小説
1616年、家康(73才)は隠居城である駿府城で伏せっていた。将軍職は息子秀忠(37才)に譲っている。そこに政宗(49才)を呼んだ。弱々しい声で
「政宗殿、今まで世話になった。お主のおかげで、日の本の平安が保たれたこと、うれしく思うぞ」
「何を申される。拙者は、上様との約束を守ったのみ。上様あっての日の本でございました」
「ありがたい言葉だ。だが、わしはもう上様ではない。ただの隠居じゃ。上様は秀忠。今後は秀忠をささえてくれ」
「わかっております。今後も日の本の平安に尽くしまする」
と政宗は答えた。その言葉にウソはなかった。
そのひと月後、家康は息を引き取った。駿府の久能山に遺体は納められた。東照宮を建て、家康は神としてまつられた。葬儀に政宗も参列したが、将軍秀忠と謁見する機会はなかった。家康が生存中は年に一度会っていたのだが、今後の見通しはなく暗雲を感じていた。
案の定、戦が始まった。信州松本に、故石川数正の息子康長(50才)が攻め込んできて、旧領である松本城を奪いとってしまったのである。信州松本は、真田の出城であった。真田信幸(50才)が治める上田城と信繁(49才)が治める松代城のほぼ中間にあり、素早い攻撃に援軍は間に合わなかった。
真田家は、政宗に現状報告とともに援軍の要請をしてきた。政宗は日の本平安の原則で「しばし待て」と真田家に命じた。そして将軍家に石川康長の退去命令を出すように依頼したのである。ところが幕府からは
「石川康長は、幕臣ではなく、賊徒である。よって征伐いたす」
という返書がきた。忍びの報告では、水野勝成(52才)率いる2万の軍勢が松本へ進軍しているとのこと。このおかしな幕府の動きに、政宗は2代目小十郎(31才)を呼んだ。初代小十郎は前年に他界している。
「小十郎、幕府の動きをどう見る?」
「おかしな動きでございまする。黒はばき組(忍び集団)の情報によると、国ざかいの韮山城や山中城に兵がぞくぞく集結しているとのこと。その数1万以上。国ざかいを越えてくるのは必定と思われます」
「戦があるか?」
「そう思った方が・・・」
「将軍は、大御所が亡くなり暴走を始めたか」
「以前より、お館さまは目の上のたんこぶ。日の本はひとつと考えておられる方です」
「やはりな。戦で手柄をたてたことがない将軍ゆえ、戦をしてみたいのだろう。戦のない世のありがたさをわかっていないのだ」
「困ったお方ですな。私は小田原にもどり、備えたいと思います」
「うむ、後ほど援軍を送る」
小十郎は、急いで小田原へもどった。小田原城には多くのしかけがしてあり、そう簡単には攻め落とされる城ではないが、兵糧攻めにあうとややこしくなる。政宗は、城内にいる支倉常長(45才)を呼んだ。
「常長、お主の出番だ。あの二人を連れてまいれ」
「ははっ、わかり申した。船はいかほど?」
「3艘かな。軍資金は用意させる」
「では、早めにもどりまする」
と言って、常長は旅立って行った。その後、政宗は幕府や家臣・諸大名に文を書いた。筆まめで知られる政宗であった。
幕府には韮山・山中城に兵が集まりつつあることを問い詰めた。すると、箱根周辺に賊が出没していて、その征伐のためだという。箱根は小田原領である。松本で火ぶたがきられれば、峠を越えて攻めてくるのは必定であった。
政宗は、水軍を擁する田村宗顕(42才)に船を用意して、浦賀へ来るように文を書いていた。宗顕は、正室愛姫(めごひめ)の従弟である。5日ほどで、宗顕は水軍を連れてきた。
「宗顕殿、いかほど用意できた?」
「安宅船が5艘に、早舟が20艘です」
「うむ、では安宅船にできる限り、鉄板をはりつけよ。火矢を防ぐのじゃ。それと無寄港でどこまで行ける?」
「安宅船ならば、浦賀から浜松程度かと。早舟は安宅船についていけば行けますが、単独では隣の浜まででござる」
「そうか、では早速補給船を造れ。海上で補給をさせるのじゃ」
「目的地は・・・尾鷲じゃ。九鬼水軍との戦いじゃ」
「やはり・・・心して用意いたします」
九鬼水軍は、徳川の中心的な水軍であった。西国を制圧するのに、とても活躍していた。当時一番だった毛利水軍を破ったのである。
その翌日、真田家から知らせが入った。松本城に水野勢2万が入城したとのこと。石川勢と抗戦した気配はなく、すんなりと入城したとのことであった。真田家は臨戦態勢に入った。
そのまた翌日、長子の秀宗(25才)から知らせがきた。岐阜城主となった兵五郎である。ちなみに政宗と愛姫との間には、嫡子虎菊丸が産まれ、前年に元服し、忠宗(16才)と名乗っていた。秀宗の知らせは、急に国替えになり、伊予宇和島に向かっているとのことだった。母猫御前もいっしょである。
「幕府は本気だな。わしから秀宗を引き離したか、もう許さん」
政宗は、意を決した。
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