第102話 力の謎
ジークにアプロムの力について問うて返ってきた答えから、おそらくテルマの力と同等のものだということは確定した。
長く探索者をやってきたジークやヴァンツァーをしても、同じような力を持った者を見たことは今まで一度もない。ここ十数年の間に急激に力を持つものが増えたのか、あるいは今までは隠していたものがいたのか。
「ジークさんはそういう力に心当たりはないんですよね?」
「ない」
これだけ強いジークだから、実はそんなことがありましたと言ってくれた方が納得できる。聞かれなければ言わないタイプなので、一応テルマが質問してみたがあっさりと否定された。
ジークがただの理外の存在であるところが、改めてはっきりしただけだった。
話はとりあえず終わり、とにかくジークがアプロムを脅したということもまた、はっきりとした。屋敷の中にいるヴァンツァーですら鳥肌が立つような殺気であったから、目の前で食らったアプロムは相当プレッシャーを感じたことだろう。
ヴァンツァーは、まぁ、あまり心配せずともアプロムは仕掛けてこないだろうと判断し、明日以降もこれまでと同じように塔の攻略を進めることに決めた。
探索を続けてさらに数日。
暫く一人で研究室に籠っていたクエットが、出かける前のジークに小さな球をいくつか渡してきた。大あくびをしていることから、早起きしたのではなく、眠っていない可能性がある。
大きさは手のひらに乗るくらいで、紐がついており腰にぶら下げられるようになっている。
「なんだこれは」
「あー、ほら、地面に黒い石が落ちていて、足元気にしながら戦わなきゃいけないって話だったじゃないですか」
「そうだな」
「強そうな敵が現れたら、これ、地面にたたきつけてください。そしたら風がぶわっと広がって、その黒い石に衝撃を与えて爆発させてくれると思いますから。ジークさんには必要ないかもしれませんけどねぇ……」
「いや、いる」
「そうですか、よかったよかった」
実際敵がいるとわかった瞬間に、見える範囲全体に目を配るのは相当面倒くさかった。そもそも薄暗く目を凝らしても見えないような場所もある。
足元を気にせず戦えるようになれば、今よりも幾分か動きが良くなるはずだ。
何をやっているのかと思えば意外と真面目に働いていたらしいクエットである。
「ヴァンツァーたちには多めに渡しておけ」
「えぇえぇ、そのつもりでもう量産してますからねぇ。渡したら私は寝ますよぉ。しばらく寝てなかったんで。それじゃあ行ってらっしゃい」
目の下にクマを作ったクエットはだるそうな体を引きずるようにして、勝手に実験室に改造した部屋へと戻っていった。
装備は十分。
ジークは今日から九十階に挑む。
薄暗い坑道を抜けて、広場に出たところで試しにクエットから預かった風の球を使ってみる。
地面にたたきつけると、カシッ、という軽い音がして、直後床を這うように突風が四方に吹き荒れる。
床の小石を飛ばして進んでいくのを目で追っていくと、小石が壁にぶつかると同時に他の場所で壁をえぐるように爆発が起こった。なる程、遠くではなく自分の足元に投げないと、飛んできた黒石が自分にぶつかることもあり得そうだ。
扱いには少しばかり注意が必要だろう。
さて、九十階に着いてからは、喋る魔物との遭遇率が増えた。
一階層を攻略する間に三人と戦うことになるのは想定外だった。
これはそれだけこの塔の侵蝕が進んでいると捉えるのが適当だろう。
喋る魔物は大抵顔中にごわごわとしたひげを蓄えており、獲物は斧であることが多い。小細工は黒い爆発する石くらいで、それ以外に関しては正々堂々真正面から勝負を挑んでくる。
小賢しさはなく、戦士と言って過言でない戦い方だった。
どちらかと言えばアイオスの獣人たちに近い気質を持っているが、それよりもさらに人に近い戦闘技術が磨かれている。
そりゃあ少しばかり背が小さいだけで、構造自体は人とさほど変わらないので当たり前だ。
ジークはそれを怪我一つなく撃破。
ただ、階層が広い上、上の階へ上がる階段がどこにあるかわからないため、結局しらみつぶしの探索となり、すぐには攻略ができなかった。
結局その日は丸二日かけても攻略が進まなかった。
本来はもう少し時間をかけて攻略をしたい。
せめて階段が見つかるまで帰らずに探し回った方がいいのだ。
そうすれば余計な戦闘は避けて、次に塔へ来るときは、新しい階層から探索をはじめられる。
しかし約束は約束だ。
ジークは振り返って、薄暗い坑道を睨んでから転移の宝玉に手をかざすのであった。
風呂屋へ到着すると、例の三兄弟がちょうど中から出てくるところだった。
「ジークじゃんか。この間から俺たちも塔の帰りには風呂行くことにしてるんだよな」
「案外すっきりしていいんだよなぁ」
「そういや聞いたか?」
順番に喋ってはいるけれど次々言葉が繰り出されるので、三兄弟と話す時は少しばかり頭を使うことになるジーク。どれに返事するべきか迷ってから、「何がだ」と答える。
「ほら、この街にアプロムって奴いるだろ。あいつらの一部が塔でやられたらしいぜ」
「ああ、知ってる」
この間のジークが絡んだ一件についてだろう。
ジークが頷くと、三兄弟は顔を見合わせた。
「ってことはその時にいた怖い探索者っての、やっぱりジークか。どうせ助けてやったんだろ?」
「行ったら逃げられた」
「へぇ、魔物が逃げることなんてあるのか」
「喋る奴はな」
「喋る奴……? そういや、俺たちのいたシャンワラでもそんな話聞いたことあるな」
「……そうか。見かけたら逃げろ。お前らじゃ死ぬだけだ」
三兄弟はまた顔を見合わせてから、揃って頷いた。
「ま、ジークが言うならそうなんだろうな」
「そんじゃ、なんかあったら伝えるわ」
「そっちもなんか変わったことがあったら教えてくれよな」
三人は互いにぺちゃくちゃと喋りながら去って行った。
話が終わったところで風呂屋へ入っていくと、数人がジークの姿を見るなり態度を変えて、こそこそと隠れるように動き始める。
ジークからすればその方が目立って見えるので、じろりとそちらを見ると、慌ててその場から立ち去って行ってしまった。
彼らは先日塔の中でジークと遭遇した探索者たちなのだが、ジークの方は顔もあまり覚えていない。まぁ、文句を言ってくるでも喧嘩を仕掛けてくるでもないので、気にしても仕方がない。
普通に風呂で体を清め、日が落ちかけている街をのんびりと歩いて宿へと帰る。
噂が多少広がっているようで、ジークを見て怖がったり、敵意のまなざしを向ける者も多少いるようだ。
ただ、そんなことは日常茶飯事であるジークは、全く気にもせずに塔の攻略について考えを巡らせるのであった。
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