魔物を食ってただけなのに?!異世界で一流シェフと間違われた俺の無自覚サバイバル

@haka_taro

第1話


「腹が減った……死にそうだ……」


 森の中を彷徨いながら、俺は胃袋の訴えに耐えていた。目が覚めたら知らない森の中にいて、現代の文明も、救いの手もない。右を見ても左を見ても木々ばかりだ。


「水はなんとか確保したけど、食い物がねぇ……」


 小川で飲み水を手に入れたのは幸運だった。だが、それだけでは限界がある。俺の体はどんどん力を失い、空腹は痛みに変わりつつあった。

 見渡せば木の実がいくつか落ちているが、どれも見たことのないものばかりだ。


「毒があるかもしれないし……いや、でも、試すしかないか?」


 意を決して一つかじってみたが、ひどい苦味が口に広がり、思わず吐き出した。

 何度か挑戦したが、結局どれも食えたもんじゃない。最終的に唇が少し腫れ、俺は危うく死にかけた。


「マジでやばいな……このままじゃ餓死する……」


 足を引きずるようにして森の中を歩いていると、突然ガサッと茂みが揺れた。慌てて後ずさると、そこから姿を現したのは──牙の生えた巨大なイノシシだった。

 体毛が逆立ち、目が赤く光っている。どう見ても普通の動物じゃない。


「な、なんだこれ……?」


 混乱しつつも、俺の脳内にある一つの思考が浮かんだ。


──あれ、もしかして、食えるんじゃないか?


 動物らしい肉体をしているし、見た目に反して脂肪も多そうだ。俺の本能が告げていた。「食え」と。


「よし……やるしかない!」





 武器はないが、近くに転がっている石や枝を使えば何とかなるかもしれない。相手の力が強いのは一目で分かるが、腹が減っている分、こっちも必死だ。


 石を手に取り、全力でイノシシの額に投げつけた。


「おらっ!」


 石は見事に命中したが、ただのかすり傷だった。それどころか、逆に魔物の怒りを買ってしまった。長い牙を向け、突進してくるイノシシ。


「うわっ!」


 俺は慌てて茂みの中に飛び込み、なんとか突進を避けた。必死に考えを巡らせながら、次の一手を模索する。


──相手は突進が得意だ。だったら、それを逆手に取るしかない。


 俺は太い木の根元に立ち、魔物が突進してくるのを待った。タイミングを見計らい、ギリギリで横に飛び退く。イノシシの巨大な体が木に激突し、その隙に俺は枝を槍のように構えて魔物の首に突き立てた。


「……やった、倒したのか?」


 地面に倒れた魔物は、ピクリとも動かなくなっていた。俺の手には、血まみれになった枝が握られている。全身汗だくで息が切れていたが、これで食料が確保できた。


「よし……これで、腹が満たせる……かも?」


 とはいえ、どうやって食べるかなんて考えたこともない。焚き火を起こし、見よう見まねで肉を削ぎ落とし、枝に刺して焼いてみた。


 ジュウジュウと肉が焼ける音と香ばしい匂いが漂う。腹の虫がますます鳴き始め、俺は期待と不安が入り混じった気持ちでその肉を口に運んだ。


「う、うまい! なんだこれ、ジューシーで最高じゃん!」


 味付けなしでも驚くほど美味かった。独特の甘みと深みがあり、まるで高級ステーキのようだ。この肉を食べれば、生き延びられるかもしれない──そんな希望が湧いてきた。


 だが、その喜びも束の間。森の奥からガサガサと音が聞こえ、次の魔物が姿を現した。どうやら香りに釣られてきたらしい。


「おいおい、次はお前か……ま、腹ごしらえの時間だ!」


――こうして俺の「魔物グルメ生活」は幕を開けたのだった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 20:00 予定は変更される可能性があります

魔物を食ってただけなのに?!異世界で一流シェフと間違われた俺の無自覚サバイバル @haka_taro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画