仕事で成功すればこそ!
崔 梨遙(再)
1話完結:1100字
30代の前半、僕は求人広告屋(採用コンサルティング会社)で働いていた。僕がお客様ゼロからスタートして、早期に申込書をもらった企業の中に、凜としているというか、毅然としているというか、接客の神様みたいな人事責任者のいる会社があった。責任者は女性、僕よりも20歳くらい上だった。
女性責任者は、接客のプロでもあるので、新人研修など、各種研修の講師としても素晴らしい評価を得ていた。会社から必要とされる人材だった。頭もいい。人を見る目もある。他社からも、“研修講師を頼みたい”と言われるくらいスゴイ人だった。なので、そうでなくてもスグに緊張する僕なのに、その人の前では更に緊張した。言葉遣いや立ち居振る舞い、そして提案内容をじっくり見られているからだ。
最初の提案から手応えは良かった。波長が合うというのか? 小さな企画ながら、スグに申込書をもらうことが出来た。応募者も、安定して求める数と質が揃った。毎年、円満な採用が出来る会社だった。会社の魅力の伝え方も上手い。女性責任者の手腕、お見事だった。小さな申込書ながら、毎年お取引があるので、毎年、食事をしながらの打ち合わせもあった。
ところが4年目、取り引きが無くなった。
「求人票を送って学校訪問をすれば、、安定して2~3名の応募者を送り込んでくれる学校が幾つか出来たので、もう自社だけの力で大丈夫!」
とのことだった。女性責任者は、密かに学校訪問などもしていたのだ。これは、よく僕等が代行することだった。さすが、やり手の女性責任者! あっぱれ! 僕等に学校訪問の代行を任せきりにせず、応募者のいた学校には訪問していたようだ。
僕等の強みは、デジタルとアナログ、両面からのアプローチ。その、アナログな部分をご自身でやっていたのだ。これには参った。アナログを自社でやるなら、僕等の強みも半減してしまう。これは、僕等が採用に成功させたからこそ出来たことだ。良かった、採用で結果を出せずに切られたわけではないのだから。
と、喜んでいられない。取り引きが止まるのは寂しい。僕は、女性責任者に気に入られてはいたようで、アポをお願いしたらいつも会ってくれる。だが、商談ではなく、お互いの情報交換で終わってしまう。もう、申込書をもらえることは無かった。
ちなみに、女性責任者とは、僕が会社を辞めてからも会っていた。だが、それは先の話。僕がフリーになってからの話だった。
普通、採用に成功したら、翌年も申込書がもらえる。まさか、毎年採用に成功しているからこそ取り引きが止まるとは思わなかった。こんなこともあるのか? だが、ビジネスの相手として円満な関係は続いたので、まあ、いいかぁ……。
仕事で成功すればこそ! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます