メメント

こもり

第1話「逆夢」


「やぁ、生きてる自覚ある?」


出会い頭、体を引き裂くような一言でした。

でも私は惑わされません。


「もちろんあるけど、君はどうなの」

「僕?」

「そうだよ。って君しか居ないの分かって言ってるよね」

「あはは、冗談、冗談」


口を開けて笑うという行為はしているけど、目は笑っていない。


「つまらない冗談は言っちゃ駄目って教わらなかった?」

「さぁね、どうだろ」

「まぁいいや、それで答えは?」


少し勿体ぶって焦らして惹き付けさせる。

そんな手には乗らないよ、バカ。


「僕は無いかなぁ」

「…なんで?」

「ほら、僕ってさ今まで仕分けされて、カテゴライズされて生きてきてる訳だから。僕もそれを受け入れて、名前に縛られてる感じがしてるんだよね」

「難しいなぁ…もっと簡単に言ってよ」

「僕は…いや、僕達には識別番号がある、それは知ってるよね」

「うん」

「ほら僕って最後の僕だからさ、なーんの感情も無いし、意思だって無いんだ。オリジナルがプログラムした通りの事しか考えないし、行動しない。そんな僕は生きてる自覚なんて高尚なもの、存在させることが出来ないんだよね」

「どう?分かった?」

「…それなりに」

「ふーん、まぁいいや。お話はこのくらいでいいよね」

「君から切り離すんだ」

「だって特に話したいことも、伝えたいことも無いし。所詮、僕はトランジションに過ぎない」


そう言うと直立不動のまま、受け入れるみたく装った。


「分かった」


吹くはずのない風が吹いた気がして、頬にできた擦過傷が痛む。

私は両手で銃を構え、彼の眉間に銃口を向けて狙いを定める。

引き金に手を掛けた。

準備万端だ。

もういつでも終わらせられる。

やっと終わることが出来る。

でもそれは楽になる訳じゃない。

今まで背負うことになってしまった業たちは私を殺す事でしょう。

それでも良いなら、引き金を引きなさい、私よ。


そして私は人差し指に力を込める。


「あ、そうだ」


不意に彼は言葉を発した。


「…何?」


私は銃を構えながら睨みつける。

何とも思って無さそうな彼を。


「好きな人はいる?」

「…は?」

「だから、好きな人はいる?」

「…いや、意味は分かるよ。でも今聞く意味が分からない」

「別に言わなくてもいいよ。これは僕の初めての意志として捉えてもらっていいからさ」

「それって言う意味ある?」

「少なくとも七号である僕にとってはね」

「分かった…特別だよ」


私はゆっくりと口を開いた。

その最中、まるで時が止まったみたいだった。

これで本当に最後だと自覚する。



「先生が…好きだった」



そして私は引き金を引いた。

鈍い音と彼の最後の声だけが響く。


「知っ…てた」


私の手は銃を離さず、そして私をその場へ凍らせる。


「…知ってるなら聞くなよ…バカ…」


生暖かいものが私を這って滴り落ちる。

火薬の臭いが私を燻らせ劈く。

出来ることなら伝えたい。

七年前、九キロ先、追いかけないでって。


漏れ出すパルスと眠る彼は造花みたいだった。

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