第4話 過去
そして次の日、もう一つ先の宿についた。レオニスがいるからか、だいぶ進むのが楽になった。
おかげで今日進めると思ってた距離の1.2倍の距離をすすめている。
「お疲れ様」
「うんお疲れさま」
部屋が一つしか空いていないということで、私たちは同部屋に泊まった。だけど、ベッドは流石に違う。底は安心するところだ。レオニスとはいえ、男性と同じベッドは普通に怖いし。
そもそもまだ完全に信用できる相手という訳ではない。
ただ、もうかなり信用はしているが。
「今日は助かったよ。だいぶ楽に進めた」
一人より二人。
魔物に囲まれずに済むというところが大きい。
おかげで無駄な魔力を消費せずに戦える。
しかも戦闘も早めに終わらせられる。
いいこと尽くしだ。
それにレオネスさんはレッサージャガーを瞬殺させられる実力者だし。
「それは良かったところだ。俺の方こそ、一人旅は寂しいからな」
「それはこっちも一緒。レオニスさんと一緒に旅するの楽しい」
喋りながら進めるというところが大きい。
戦闘も孤独だと怖いし。
旅も一人で寂しく孤独に歩くしかやることがないから。
「それは良かった。明日もよろしくな」
「うん、よろしく」
「そう言えば明日からは余裕がなくなるだろう。そろそろ楽しい話がしたい。という事で、お前の過去の話が聞きたい」
絶対楽しい話というくくりに入らない気がする。
「暗いからあまり聞かない方がいいと思う」
「……それでも俺が聞きたいんだ」
「絶対囀ったり罵ったりしないでよ?」
「リスリィは俺の事を何だと思っているんだ。俺は神に誓ってそんなことはしない」
「絶対だからね」
「お前は俺を怖がりすぎだろ」
そう言って笑うレオニスさん。これなら安心だ。
「私の記憶は、三歳の時が最初だった」
あれは寒い寒い日の事だったと記憶されている。
「周りに誰もいないから、一人で生きていくしかなかったの。店から物を捕ったりしてね。でも、ある日転機が訪れた。それは、私が初めて捕まった日」
あの時は、騒々しい騒ぎになった。
町の人々が私を糾弾しようとして、私を罵りまくった。
やい、店の売り上げが落ちた、とか、もう子供とはいえ容赦しないとか。
こいつは邪悪だとか、魔族じゃないのかとか。
「その時に憲兵が来て、私に言ったの。こいつは大魔王の器だって」
その時の目は怖かった。悪魔を見るような目だった。
「そこからは酷かった。三か月間くらい処遇が決まるまで牢に閉じ込められてた。……ひどく寒い牢で」
それもまた、地獄のような日々だった。
子供を泥棒の罪で𠮟るには強固すぎる牢だった。
「そして三か月後、私は開放された。学園に通わせるという事で。でもその前に色々な説明をされた。お前は大魔王の器で、危険な存在であることや、大魔王の恐ろしさを。まるで説教のように延々と聞かされた……」
その時は、私が悪魔であるかのように話され、地獄だった。
私を、私じゃなくて、大魔王として扱ってるんだと知って、恐ろしくなった。
「そこから学校に入れられた。でも、力を伸ばすのを恐れてか、学院には入れてもらえなかった。学校では、日々苦痛な日々を過ごした。周りからいじめられる日々が続き、友達もいないで、ただ、無心で授業を取った。まだ、ご飯が食べられるからまだ今までよりはましだったけど、それでも地獄の日々と形容できる日々だった」
周りの人に、なじられ、机をめちゃくちゃにされたりもした。でも、それが真に辛かったわけでもない。
ただ、周りの人から嫌悪されるのが嫌だったのだ。
「そこからは常に孤独に押しつぶされそうになってたけど、国の指示で言ってた。それで、十五になって、九年生になったときに、魔王討伐の命が出された。そして、失意の中、魔王討伐に動いた。その際に村があって、その村で私は人のぬくもりに会えた。そこに住む人たちはみんな優しかった。
だからこそ、私は人を信じられるようになったの。そして私にとって、今は魔王を討伐して、村の人たちの笑顔を守ると同時に、村に戻って、そこに住むのが今の夢なの」
「なるほどな。お前もお前で辛かったのか。……よし」
そう言ってレオニスさんは私の頭を軽くわしゃわしゃと撫でた。
「どうしてっ!?」
「そりゃ、今までの話を聞いてたら頭くらい撫でたくなるだろう。……あー、もしかしてセクハラとかだったか?」
「いえ、そんなことはありませんけど。普通に気持ちいいし」
「ならいいじゃないか」
そう言って再び頭を撫でられる。
いい人だ。私なんかに良くしてくれるいい人だ。
あくまでも私たちは利害関係からなる同盟だが、それでも人のぬくもりは感じていいはずだ。
「しかし、そろそろ夜遅いな。寝るか」
「そう……だね」
そして私たちは寝た。
翌日、レオニスに叩き起こされた。「おい! 寝すぎ」と言われて。
正直まだ寝たいので「もう少し寝させて」と言った。
だけどその願いは受け入れられずに、布団をまくられた。
思ってたよりも疲れてたのかな。
思えばレオニスさんを警戒してたところがあったから、その疲れがたまってるのだろう。
「今日はそろそろ魔王の魔力が深いところに進める可能性がある。そのときは用心しろ」
「もちろん分かってる」
ここから先は命の危機があるような場所だということも。
大魔王の魂云々じゃない。本当に油断したら死ぬ可能性がる。誰もいない場所に倒れ、そのまま自然埋葬される。
そんなのごめんだ。
そもそも私の場合、大魔王が復活するのかもしれないけど。
そして、少しずつ進むと、魔物の姿が段々と、恐ろしいものになっていく。つまり、強くなっている。二日前の私じゃあ、到底倒せなかったと思うけど、今の私なら大丈夫。倒せる。
早速現れた、レッサージャガーに向かって走り、周りを走って囲む。そして、魔物を混乱させ、隙を狙って一気に頭をたたき割る。それにより、魔物はその場に倒れた。
「本領発揮だな」
「うん。結構慣れてきたかもね」
実際、体も動かしやすいし、相手の行動も見やすい。これならもう少し強い魔物でも倒せる。
ようやくレオニスさん並の強さを得られたかもと思い、少しうれしくなる。
それに、蹂躙するのって少し楽しいし。
ただ、歩いていくうちに、闇の瘴気が濃くなって行くのを感じる。これは、魔物と魔王を強くし、人間を弱らせる類のものだと。
実際レオニスさんは少し弱っている。
だけど、私が全く影響を受けていないのは、やはり私の胸の中にある大魔王の魂の影響なのだろう。
しかし、それにしてもレオニスが苦しそうだ。
本人は気丈にふるまっているが、少しずつ瘴気の影響で弱ってきている。
多分このままだと、衰弱死をしてしまう。
私にできることがあれば……そうだ!
「レオニスさん、少し待ってて」
「何だ?」
私は闇のバリアをレオニスの周りに張る。それを受け、レオニスは少しだけ元気そうになった。
「これは瘴気を抑えてくれるの。たぶんこれで結構平気になったはずよ」
「……そうだな、ありがとう」
そして私たちは進む。そろそろ人間の村は見えなくなり、魔物だらけになってくる。
食料は大丈夫だが、こうなっては心配になってくるのは、寝るところだ。流石に無防備に寝たら襲われるだけだ。
ここから先は寝るときは互いが見張りに着かなくてはならない。イコール睡眠時間が短くなる。早く魔王を倒さなければならない。さもなければ、睡眠不足で弱ってしまうのだから。
はあ、憂鬱。
そして、私達は互いに見張りをしながら着々と、魔王城へと近づいていく。その頃には闇の瘴気をだいぶ取り込み、自在に操ることが出来るようになって来た。
さらに強くなっている、という感じがする。
このまま行ったら確実に魔王を討てる。
だが、その時に少しまた恐怖感というものがわいてきた。魔王というものは元来私の敵ではない。私が倒したいわけでもない。
魔王を倒したらどうなる。
私は村に住めると思っていたが、用無しとみなされ私は追われる身にでもなるのかもしれない。そして封印されるかもしれない。
流石にそれは嫌だ。私は平和に暮らしたい。
いいや、それは魔王を倒した後に考えればいいのか。
いざとなればレオニスさんが擁護してくれるだろう。
そしてその日、眠りについた。
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