第3話 仲間

 村を出た後も少しずつ進む。

 まだまだ安全な地帯が続くが、数日後、魔王ラベンヌの魔力がより濃い場所に出ることになる。その時には……命の危機も考えなければならない。

 ふう、魔王討伐も楽な事ばかりではなさそうだ。


「魔物ね」


 目の前に魔物が現れる。レッサージャガーだ。赤い毛皮が特徴的な魔物で、中々の強さを持っている。

 早速私に襲い掛かって来た。

 速い。私が放つ魔法をいとも簡単に避けて行っている。

 しかも気が付いた時には私の正面にいた。


(避けなきゃ)


 だが、もう遅かった。

 私はその一撃を喰らい、後ろの木にぶつかる。


 これは、簡単には勝てない。このスピードの相手には私の魔法も通用しない。

 なら!!


 私は、一気に地面をけり、そして駆け出す。

 そのままの勢いでレッドジャガーに拳を振るおうとする。

 だが、華麗な動きで、私の拳を避けまくる。


「っ」


 そして、レッサージャガーの反撃のターンだ。私の腕がかまれた。

 何とか振りほどこうとするが、中々レッサージャガーが私の手から離れてくれない。

 こうしている間にも手の痛みは増してく。

 ああ、もう!!


 しかも近距離から魔法を撃とうとしようものなら、腕が失われてしまう。

 私は少考ののち、ジャンプし、レッサージャガーを見事に地面に叩きつけた。

 それを受け、レッサージャガーは距離を取る。

 ああ、その前に魔法でつぶそうと思ったのに。


 しかし、この機動力を潰さなければ、中々厳しいだろう。


 逃げ道を封鎖しなければ。


 ……今まで考えたことがなかったことだが、私は闇の魔法しか使えないのだろうか。

 闇は大魔王の力だが、それを別の要素に変換できれば。

 私の闇は、岩壁へと変化した。


「ストーンウォール」


 岩の壁を作り出し、レッサージャガーの周りに作り出す。

 これで、逃げ道は封鎖されただろう。

 これで、魔法が当てやすくなる。

 この狭い箱庭の中で、私の魔法から逃げ惑うがいい。


「ダークアロー!!」


 闇の弓矢を一斉に発射し、レッサージャガーを執拗に狙う。

 だが、その俊敏な以後気で全部かわされ、そのまま私の方へと向かってくる。


(逃げ道を封鎖されたら普通そうするよね)


 勿論準備なんて出来ている。


 私の面前に岩壁を作り出し、レッサージャガーの攻撃を受け、即座に岩壁を解除して、拳を突き出す。

 その攻撃を喰らい、レッサージャガーはその場に倒れた。


 だが、むくっと立ち上がってくる。耐久力も高い。

 これじゃあ……

 でも、まだ諦めるのは早い。こんな魔物に手こずっているようでは、魔王討伐なんて夢のまた夢だ。


 私は再びダークアローを放つ。レッサージャガーは相変わらず避けてくるが、少し動きが鈍っている。幸い体力は減っているようだ。

 最後の一本が動きの鈍ったレッサージャガーになんとか当たった。


 だが、また立ち上がってくる。

 流石にかなりのダメージを負っているようだが中々恐ろしい魔物だ。

 だけど、ここまで追い詰めたなら、


 私自らとどめを刺す。

 立つのがやっとな様子を見せるレッサージャガーにとどめを刺した。


「はあはあ」


 一体にかなりの魔力を持ってかれた。幸い群れではないようだが、この段階でも、ここまで強いのを見ると、魔王城付近ではどんな魔物が出てくるのか。

 流石に心配になってくる。


 そしてこの戦闘で気付いたことだが、ストーンウォールには邪悪な感じがしない。闇の魔力以外では、邪悪な魔力を発しないのだろうか。

 これはいい情報だ。

 そして、あの村での戦い。闇を使わなかったら、大丈夫だったのか。

 優しくてよかった。さもなければとんでもない悪手を打っていたことになる。

 ……そもそもあの鳥が闇の魔力無しで、戦えてたかは難しいところだが。

 やはり闇を使わないと、威力が落ちるのだから。



 それから歩きまた宿へと泊まる。そこからは、幸い強い魔物には出会わなかった。

 とはいえ、魔力の残量が少ない。

 今日は早めに宿に泊まることにした。

 とは言っても人の泊まれる村自体がそこまでないのだが。


 こうして、宿に泊まれるのもあと三日四日が限度だ。

 そこから先は魔物の領域に入る。

 そこはもう人の住める地域ではない。


 ご飯を食べながらふと思う。

 やっぱり前の村の方が、村も人も良かったなと。

 まあ、魔王の領域に近づくほど、村人の余裕がなくなるのだろうか。

 でも、この村も私の正体には気づかない。そこは一安心だ。


 それよりも、ずっと気になっていることがある。この村の宿に泊まっている人物。

 恐らく私の部屋の向かいだろう。怪しい人物がいる。


 私には大魔王の魂が宿っているからなのか、人の気配が見えやすい。そして昨日の夜からずっと着いて来ている人がいる。

 完全に怪しい、怪しすぎる。

 王国からの刺客……というのは考えすぎか、何しろ、私が死ねば大魔王が復活するのだから。


 だけど、気になることには気になる。

 最初の村では付いてきてなかったはずだ。

 だって、援護に入らなかったし、そもそも気配を感じなかったからだ。

 気になったまま旅なんてできない。

 それはレッサージャガーとの戦闘でも。


 ついてきたのは今日の昼からだ。よく私を見つけられたと思う。

 とにかく、放置したまま今日眠るのは危険すぎる。

 正体をはっきりさせなければ。

 私は向いの部屋に行く。


「ねえ!」


 私はドアをノックする。


「ずっと付いて来てるけど、何用?」


 声が返ってこない。ドアも開かれない。

 もしや、私の勘違いだと私が思う事を願っているのだろうか。

 でも、流石にこれが勘違いなんてことは無い。

 明らかに追跡してる人の動きなのだから。


「ねえ! 無視? 無視するなら、強引にドアを開けるけど」


 そう、私はドアに力を込める。



 すると、ようやく観念したのか、一人の男性が出てきた。


「ちぃ、まさかばれるとはな」

「てことは、やっぱりやましい理由があるのね」


 明らかに怪しいんだもん。


「違う違う、勘違いしないでくれ!!!」


 そう言って男は手を上げながらこちらに向かってくる。かなりのイケメンだ。

 銀髪で、顔も整っている。


 だが、信用できない。村の中だが、隙をついて私を攻撃してくるかもしれない。

 あくまでも手を緩める気はない。

 私は臨戦態勢を取りながら、彼の話を聞こうとする。


「俺は君の力を知っている。君が大魔王の器であるという事も。それを踏まえながら頼みたいことがある。俺の仲間になってくれ」

「え?」


 予想とは全く違う事を言われ、動揺してしまう。


「俺は魔族に親を殺された。所謂孤児だ。それが十五年前の事だ。その時俺は五歳で何もできなかった」

「……」


 正直仲間が欲しいのはこちらも同じだ。だけど、何か裏がありそうなのが怖い。これは、私が人を信じなさ過ぎているだけなのか、それとも……


 だが、十五年前。確かに、私が生まれ、魔王ラベンヌが復活したのも十五年前だ。

 だが、あまりにも話が出来過ぎている。

 作り話じゃないのか?


「俺の親は正確には魔王には殺されていない。何しろ魔王が生まれる一カ月前の事だから。だが、俺はこう考えている。魔物が魔王を誕生させたのだと。今は魔王が魔物を作っていると考えられているが、それにしても変じゃないか?

 なぜ、魔王がいる前から魔物が存在していた?

 ここから俺は一つの仮説を見出した。

 魔王とは、魔物の王であり、大魔王騒動の時に、魔王がやられた際、生き残った魔物がここで繁殖して、そして魔王復活のために動いているという説だ。つまり、魔王のために動いていた魔物に家族を殺されたと考えている。だからこそ、その仇を討とうと思っているのだ。それから必死に力をつけてきた。魔王を殺すための。だが、仲間がいない。いい強さのやつがいない。そこで困った俺が見つけたのが王城から出てきたお前さ。本当に頼む。俺と一緒に戦って敵を取ってくれ」


 ……なんだか説明口調を感じる。

 なんだか臭い。

 この人のことは信用できない。だけど、この人のことを拒否したままでいいのか?

 怪しいという理由で。

 一人で魔王討伐なんて出来る訳がないのだから、仲間がいた方がいい。

 それに、先程のレッサージャガーとの戦闘で、少し心配になっていた所だ。

 それに私は強い。いざとなったときに迎撃または逃走ができる程度の力は持っている。

 利用するだけ利用してやろうか。


「分かった、仲間になろう」

「そうか。ありがとう。俺は、レオニス・タティンブルグだ」

「こっちはリスリィよ」

「リスリィか。よろしく」

「ええ、こっちこそ。レオニスさん」


 そして私たちは互いの手を取り、握手をした。正直イケメンな男性の手を触るのは初めてだったから緊張した。

 なんだか暖かいな。

 思えばあの村のもこの村のも若い人があまりいなかった。というのは、若者は外に出ていたという事なのだろうか。

 とにかく、分からないことだらけだ。


 それから翌日レオニスさんの実力も見せてもらった。やはり、中々の実力だ。強いはずのレッサージャガーを一瞬で斬り去った。

 このような実力者はなかなかいないだろう。この人が味方になってくれて本当に良かった。

 だけど、これだけの実力者。大丈夫だとは思うが、警戒は続けなければ。

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