転職したらメキシコの女子プロレスラーだった件

阿弥陀乃トンマージ

シラヌイ、次の任務へ

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 夜の闇、燃える建物を背に、黒い服に細い身を包んだ女性が頭部に付けたインカムで通信をする。口元をマスクで覆っており、声量も大きくないがよく通る声である。

「……こちら、シラヌイ、ターゲットを殲滅した……」

「……こちら、本部。殲滅を確認しました。任務お疲れ様です、ミス=シラヌイ」

 インカムの先から冷静な女性の声が聞こえる。

「大したことはない……」

 シラヌイと呼ばれた女性は労いの言葉に淡々と応じる。

「それで……」

「うん?」

「いえ、これは本部にお戻りになってからでも……」

「構わん、急を争うことなのだろう?」

「それはそうなのですが……」

「ならば言ってくれ。こちらもすぐに準備に取り掛かりたい」

「しかし、東南アジア地域での内戦停止、東欧地域での紛争解決、そしてアフリカでの反政府勢力の殲滅……任務続きでお疲れではありませんか?」

「仕事をしていない方が、調子が狂ってしまう」

「ふふっ、貴女らしいお言葉……」

「それに……」

「それに?」

「私にしか出来ないことなのだろう?」

「……ええ、我が組織の中でもっとも信の置けるエージェントは凄腕の〝くのいち〟として知られる貴女ですから……」

「……難しい任務なのだな。場所は?」

「ラテンアメリカ、メキシコです」

「メキシコ……マフィア絡みか?」

「ご名答。メキシコを拠点にして麻薬密売などを主な収入源としている巨大なマフィアの壊滅が新たな任務です」

「ふむ……了解した」

「現地での滞在ビザなどは既に取得済みです。身を隠す場所ですが……会社の事務員に扮して頂こうかと……スペイン語は?」

「まったく問題ない」

「では、どうぞご無事で……」

 通信が切れる。シラヌイの端末に情報が送られてくる。シラヌイはそれを確認して頷く。

「メキシコか……ちょうど本場のタコスが食べたかったところだ……」

 シラヌイは燃える建物から遠ざかりながら呟く。

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