前世で裏切られ死んだ俺が7年前に戻って最強になった件 ~裏切り者に復讐して、美少女たちと交わりながら自由気ままな冒険者ライフを満喫します~

絢乃

001 電光石火の復讐

『世界最強の二人組』

 それが、俺とジークに付けられた通り名だった。

 俺たちは二人だけでS級まで上り詰めた唯一の冒険者でもある。


「よし! 今だジーク! 強烈な魔法を食らわせてやれ!」


 今日も俺たちは、誰もが怖じ気づくダンジョンに挑んでいた。

 禍々しい闇の炎に照らされた邪悪な大空洞だ。


 敵はバハムート。

 最強のドラゴンであり、Aランク冒険者が束になっても敵わない。

 そんな強敵を、俺たちは二人で討つ――はずだった。


「なっ!?」


 突如として足元に現れた光のいばらが俺に絡みつく。

 これはジークの妨害魔法だ。


「おいジーク! 何をしているんだ!」


 バハムートの攻撃を盾で防ぎながら振り返る。

 後方に控える金髪の魔術師ことジークは、鬼の形相で俺を見ていた。


「お前が悪いんだぞ、ディウス」


「何を言っているんだ!?」


「俺はずっとレイナが好きだったのに! お前が奪った!」


「なっ……!」


 レイナとは、俺たちの幼馴染みだ。

 冒険者ではなく、一市民として王都で暮らしている。


 今回の戦いに赴く前、俺はレイナから結婚を申し込まれた。

 ジークの見ている前で。


「なんで俺じゃなくてお前なんだよ! ディウス! 俺はずっとアピールしていたのに! レイナは俺の全てなんだ! それをお前は奪った!」


「意味不明なことを言うな! 俺は奪ってなんかいない!」


 本当のことだ。

 俺とレイナの間には、肉体関係はおろか交際関係すらない。

 もっと言えばキスしたこともなかった。


 だから、レイナに結婚を申し込まれた時は驚いた。

 俺のことがずっと昔から好きだったらしい。


「俺のほうが先にレイナを愛していたのに! お前みたいな奴は死んでしまえ!」


 ジークが追加の魔法を発動する。

 光の手枷と足枷が俺の動きを束縛した。

 そして、目の前にはバハムートがいる。


「グォオオオオオオオオオオ!」


 バハムートが俺に向かって炎を吐く。

 手足を動かせない俺にはどうすることもできなかった――。


 ◇


「ディウス! おい、ディウス!」


 正面から聞こえてくる声でハッとした。


「ここは……」


 どこかの森だ。

 妙な懐かしさを感じる。


「何をボーッとしているんだ?」


 またしても誰かが声を掛けてくる。

 その誰かとは――。


「ジーク!」


「お、おおう。何だよ、急に大声を出しやがって」


 ジークは「びっくりするじゃねぇか」と頭を掻きながら笑った。


(ん? よく見るとなんだか……)


 ジークの顔つきが幼く見えた。

 それに何だか体の筋肉量が衰えたように感じる。


「おいおい、大丈夫か? 急に大声を出したと思ったらまたボーッとして」


 ジークが心配そうにしている。


「ちょっと考えさせてくれ」


「考えるって何を!?」


 俺はジークの言葉を無視して思案を巡らせた。

 ジークの顔付きや自身の肉体、そしてこの森。


(もしかして!)


 俺はジークに尋ねた。


「なぁジーク、今日は何年の何月何日だ?」


「いきなりなんだ?」


「いいから」


「えっと、王国歴208年の11月18日だ」


「やっぱり!」


 思った通り、俺は過去にタイムリープしていた。

 バハムートと戦っていたのは王国歴215年12月26日のことだ。


 約7年前に遡ったらしい。

 その頃はまだ冒険者になってすら――。


「ん? 11月18日?」


「もっと言えば9時40分ぐらいだろう! 太陽の角度を見る限り!」


(まずい……!)


 王国歴208年11月18日は、俺たちにとって世界最悪の日だ。

 ベヒーモスが村を襲い、村人を、俺たちの家族を皆殺しにした。

 生き残ったのは俺とジーク、そしてレイナの三人だけだ。

 この件があって、俺とジークは冒険者になった。


「なんだよディウス、険しい顔で黙りこくって」


「…………」


 俺は答えず、全力で考えを巡らせた。

 もし前世と同じ展開になるなら、ベヒーモスは16時頃に現れるはずだ。


 どこからどう現れるのかは分からない。

 前世だとジークと二人で崖に登っていたからだ。

 何も知らずに戻って、レイナ以外が死んでいる惨状を目の当たりにした。


(どうする? どうすればいい?)


 村に戻って皆に逃げるように言おうかと思った。

 だが、そんなことをしても逆効果だ。

 ベヒーモスは普段、ダンジョンの奥深くにいる。

 地上に出てくるなんて言っても誰も信じない。


(それに……)


 目の前の畜生に仕返しをせねばならない。

 今は友達でも、コイツは後に俺のことを裏切る男だ。

 やられたままで終わるわけにはいかない。


 殺された以上は殺し返す。

 ――が、果たしてそんな機会はあるのだろうか。


 現実的に人を殺すのは難しい。

 剣などで刺し殺すと、魔術師の調査でバレてしまう。

 現実的な手段は、ダンジョン内での事故に偽装すること。


 まさに前世でジークが俺にした方法だ。

 しかし、それには1年以上の時間を要する。

 そんなにもコイツと一緒に過ごしたくない。

 可能なら今すぐにでも殺したいのに。


(時間的に厳しいが、これしか方法はない)


 俺は覚悟を決めた。


「ジーク、急いで崖を登ろう」


「そうこなくちゃ! ビビリのディウスにしちゃ勇気を出したな!」


「まぁな」


 俺は前世と同じく崖登りを進めることにした。

 ただし、前世とは違って積極的且つ迅速に済ませるつもりだ。


 ◇


 13時過ぎ――。


「ディウス、何だよその動き! 怖くないのかよ!」


「余裕だろ、こんなもの」


 サクサクと崖を登っていく。

 前世では険しく思えた崖も、今となっては大したことない。

 むしろジークのほうが足を引っ張っていた。


「へっ、ビビリが成長したもんだぜ!」


 などと言っているが、実際はジークのほうが臆病者だ。

 だから俺は前線で戦う剣士になり、奴は後方で戦う魔術師になった。


「ふぅ、ようやく頂上だ」


 ジークが頂上の平らな岩に右腕を置く。

 そこに体重を掛けつつ、最後のひと踏ん張りでよじ登ろうとした。

 ゴールが見えたことで気が緩んでいる。

 その瞬間を俺は見逃さなかった。


(今だ)


 ジークの左肩をつま先で軽く押す。


「えっ」


 軽く押しただけだが、それで十分だった。

 ジークの上半身が後ろに反り、自然と崖から離れていく。


「じゃあな、ジーク」


 この高さから落下したら即死は免れないだろう。


「ディウス!」


 叫ぶジーク。

 怒りというよりも驚いている様子だ。


「皆にはワイバーンに襲われて転落したとでも説明しておいてやるよ」


「なん……で……」


 ジークの体が遥か下の森に消えていった。

 あまりに高すぎて、体の打ち付けられる鈍い音すら聞こえない。


「さて、村を救うぞ!」


 次はベヒーモス退治だ。

 両親や村の皆を死なせるわけにはいかない。


(〈神聖武器〉と〈スフィア〉がない中で何ができるか分からないが……)


 やれることはなんだってやる。

 皆を守るためなら刺し違えてもかまわない。


(俺が村を守るんだ! 俺が……!)


 俺は猛ダッシュで村に向かった。

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