第5話
降車ボタンを押して、大学最寄りのバス停に降り立つ。
もうちらほらと学生らしき若者たちが通学していた。その一員になり、蒔乃は大学へと向かう。警備員のおじさんと挨拶を交わす。
「おはようございまーす。」
「はい、おはよう。」
警備員さんと仲良くしていると色々と便宜を図ってもらえるのだ。例えば制作状況に応じて校内の寝泊まりを黙認してくれるとか、早朝の制作棟の開錠など。今までに数え切れないほど、その恩恵を授かっている。
座学が行われる教室のある棟に向かっている途中、友人たちに会い合流した。
「ねえ、レポートの提出っていつまでだっけ。」
「明後日だよ。確か。」
友人の一人のみきに問われて答えると、彼女が青ざめた。
「やっば、まだ手を付けてないわ。」
「それはやばい。」
蒔乃は苦笑する。マイペースなみきらしいが、締め切りには損な性格だった。
「えー、えー。えー、蒔乃は何を題材にしたの?」
中央の席がまとめて空いていたので座る。教科書を取り出す蒔乃に、みきが縋るように聞いた。
「うん?鳥獣人物戯画だよ。」
「日本最古の漫画って呼ばれてるヤツね!良いじゃん、書きやすそう。私もそれにする~。」
みきはスマートホンで素早く検索をかける。
「いいけど、レポートは見せないからね。自分の力でやんなよ?」
「それはもちろん!ヒントをもらえただけでありがたや。」
手を合わせて拝むふりをするみきを見て、蒔乃は笑った。この妹気質の友人が本当に泣きついてきたら、渋々ながら手伝ってやるのだろうなと思った。
午前中に座学を終えて、昼休み。みきは図書館で早速レポートに使う蔵書を探す旅に出たので、蒔乃は他の友人たちと大学のカフェテリアで食事を摂ることにした。
「サラダうどんだけで足りるの?」
カツ丼とうどんのセットを前にして蒔乃が問うと、友人たちは大げさに溜息を吐いて見せた。
「普通の女子は、そのセットは頼まないよ…。」
ちなみにどちらもレギュラーサイズで大雑把に見積もっても二人前はある。
「え、嘘。私って大食い?」
蒔乃は自分の食事量に首を傾げた。
「気付いてなかったのか。」
「太らねーのがすごいよ。」
ブーイングに蒔乃は反論すべく、口を開く。
「でもでも!うちだと皆、このぐらいは食べるよ…、いや。待てよ…。朔司さんは食べない…か。」
家での食事を思い出すと、朔司は食べ盛りの若者二人ほどは食べていないことに気が付く。当たり前だ。
「ほれ見ろ。水瀬くんだっけ?大学生男子と同じ量じゃん。」
「ううー。ごはん美味しい…。」
軽く論破され、蒔乃は悔しそうにしながらもペロッと完食するのだった。
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