第2話
「よーし、それじゃ、チュートリアルミッションに出発だよっ!」
ピリカが無邪気に叫んだかと思うと、マイルームの床がぐらりと揺れた。
「お、おいっ! なに勝手に起動してんだよ!!」
俺の叫びもむなしく、足元に魔法陣みたいな光の模様が広がっていく。中心から、ぐいぐいと引っ張られる感覚。うわ、これ、完全に転送されるやつじゃん!
「リク、初ミッションだからね! 気楽にね!」
「気楽にできるかぁぁぁっ!!」
返事をする暇もなく、視界がぱっと真っ白に弾けた。
*
次の瞬間、俺は――見知らぬ草原に立っていた。
「うわっ、なんだここ……」
広がる緑。澄んだ青空。まるで絵本の世界みたいな、ありえないほどきれいな風景。でも俺の脳内は、それどころじゃなかった。
「……服、変わってる……」
さっきのマイルームで着てた、ふわふわドレス風の衣装じゃない。今の俺は、もっと戦闘用っぽい、動きやすそうなショートスカートに、ぴったりフィットするアーマーっぽいトップスを身につけていた。なんか、えろ……じゃなくて、露出多めだけど、そこは突っ込んじゃいけない空気なんだろうか。
「ふふん、これがリクの戦闘スタイルだよ! 身軽さ重視!」
「いや、普通に防御力心配なんだけど!!」
俺が盛大にツッコむと、ピリカは羽をぱたぱたさせながら、前に出た。
「それじゃあ、チュートリアルの敵、出てきてもらおっか!」
ピリカがぴょいっと指を鳴らすと、草むらの奥から、モソモソと何かが這い出してきた。
「……うおっ、きた……!」
現れたのは、頭だけで俺の胴体くらいありそうなデカい毛玉。もさもさで、丸くて、目が二つだけギョロリと光ってる。
「バグモン種〈グラスバグ〉! 弱めだけど、油断は禁物だよ!」
「弱めでこれかよ……」
じりじりと距離を詰めてくるグラスバグを前に、俺は無意識に構えた。――いや、構えたって、武器なんて持ってねぇけど!
「リク、思いっきり殴っちゃっていいからねっ!」
「いや、言うのは簡単だけどな!? 普通こんな状況で女子が殴りに行くかよ!」
「リクは"魔法少女"だもん!」
「お前のその前提押し付けほんとやめろ!!」
泣き言を言いながらも、俺の身体は自然と前へ出ていた。たぶん、さっきの【超身体能力(魔法少女補正)】のおかげだ。変に躊躇ってたら、逆に危ない気がする。
「うおおおおっ!」
気合いだけで叫んで、俺はグラスバグに向かってダッシュした。思ったよりも、すげぇ速い。軽い。身体が跳ねるみたいに動く。
「てやぁぁぁぁっ!!」
振り抜いた拳が、ゴムみたいなバグモンのボディにめり込んだ。
ドカァァン!
「うっわ、すげぇ音!!」
一撃でグラスバグが吹き飛び、草原の向こうに消えた。なんだこの火力。俺、何かやばいもんにされてないか!?
「やったねリク! フィストマジック成功だよ!」
「マジでただ殴っただけだったんだけど!!」
ピリカはにこにこと宙で回転してる。ちょっと待て、これ、絶対普通の魔法少女じゃない。というか、魔法要素がまるで感じられない。拳だ、拳しかない。
「フィストマジックはね、拳に魔力を集中させることで威力を爆発的に高める魔法なんだよ! だからリクが全力でパンチするだけで、バグモンくらい楽勝ってわけ!」
「お前、さらっとえげつないこと言ってない?」
俺は自分の拳を見下ろした。小さくて、華奢で、一見するとただの女子高生の手。でも、たった今、自分がバケモノみたいな怪物をぶっ飛ばした感触が、まだ拳に残ってた。
「……すごいな、これ……」
思わず呟いた俺に、ピリカがふわりと寄り添ってくる。
「うんうん、リクはすっごく強いんだよ! 自信持っていいよ!」
「いや、うれしくないっていうか、複雑なんだけどなぁ……」
心の中ではツッコミを止める暇もなかったけど、それでも――
俺は、自分の拳をぐっと握りしめた。
この力、たしかに本物だ。
そして、ここから先、この拳で戦っていくしかないんだろうな、って。
「よーし、次のミッションに向かうよっ!」
「……え、もう!?」
「もちろん! チュートリアルはまだまだ序盤だもんっ!」
満面の笑みで宣言するピリカに、俺は顔を引きつらせるしかなかった。
「まじかよ……まだ続くのか、これ……!」
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