第3話 魔術アカデミー

「さてと、着いたな」


隼斗が立ち止まったのは周りとは時代が一世代前に戻ったような木の古門だった。裏にも表にも建物は存在していない。ただ門だけがある。

すると、隼斗は後ろを歩いていたシンの方へと振り返り、シンの頭に手をあてる。


<我、星月隼斗の名の下にアカデミアへの入門を許可する>


「僕に何をしたんだ」


何の変化も感じられなかったシンはきょとんとした顔をしている。


「アカデミアに入るための許可証みたいなものを与えたんだよ」


そう言うと隼斗はシンの襟元つかんだ。


「え、ちょまって、何する気」


隼斗は無言のままニコッと笑いシンを門に向かって思いっきりぶん投げた。


「うわぁぁぁー!」

(ぶつかる絶対ぶつかる)


痛みを覚悟してシンは目をつむった。しかしいつまで経っても痛みが来ない。


(あれ?)


ゆっくりと目を開くとそこにはまるで王城のような建物がいくつも並んでいた。圧巻の光景にシンは唾を飲んだ。そこで初めて初めて自分が地面から浮いていることに気がついた。


「すげーだろ。俺も初めて見たときは驚いたもんだよ」


後ろの門から隼斗が歩いて入ってきた。シンは隼斗を怪訝そうな顔で見る。


「浮いてるのはいいとして、投げる必要はなかったんじゃないかな」


「浮遊魔術かけてんだからいいだろ。俺の時は先生に思いっきり投げられて血まみれだったよ」


そういうことじゃないんだよと言わんばかりにシンは睨んでくるが隼斗はガン無視である。


「はやく行くぞ。俺が怒られるからな」


隼斗はそそくさとアカデミーへと入っていく。シンはブツブツと文句を言いながらも犬が如く後ろをついていく。


〜数分後〜


「ここって…」


「あぁ、理事長室だよ」


端的に隼斗は答えた。


「ここって怒られる時とかに使われるとこだよね。それも大きいことで」


「何言ってだお前」


アワアワしているシンを隼斗はアホくさと思いつつ扉を開ける。


「邪魔するでー」


「ちょっ、まっ、」


「邪魔するんやったら帰ってー」


「はいよー」


「?????」


シンはソファーに座っていた小さな黒髪の少年と隼斗のやりとりを見て脳が完全にシャットアウトしてしまっている。


「はぁ、君たちのその日本の関西ノリっていうの?それはやめなさいって言ってるでしょ。現に勇者くんも困ってる」


奥に座っているエメラルド色の短い髪を持った艶やかという言葉が似合うあからさまに偉いであろう女性が隼斗達を咎める。


「初めまして今世の勇者くん。私の名前はマーリンこのアカデミーの理事長兼学長をしている。よろしく頼むよ」


女性は美しい笑みを浮かべシンに挨拶を済ませた。シンもそれに釣られるように自己紹介をする。


「あ、初めまして。シン=ペンドラゴンと言います。よろしくお願いします。」


シンは戸惑いながらも簡単に挨拶を済ませた。すると、マーリンは黒髪の小さな少年の方へと目線を移し、お前も挨拶をしろと言わんばかりに圧力をかけ催促をする。


「はぁー、初めまして研究室室長の星月翔太です。よろしくお願いします。」


頭を掻いた後、すこぶるめんどくさそうに挨拶を済ませる翔太


「えっ、星月って、」


「あーうん、そこにいるのは僕の兄さん」


翔太は隼斗を指差しながらそう答えた。シンは翔太と隼斗を目線で行ったり来たりした後、


「えっ、あんまり似てないね」


「「よく言われる」」


息ぴったりに答える2人。こういうところは兄弟なんだなと感心するシン。それを嬉しそうに見るマーリン。ほのぼのしたどうでもいい空間の誕生である。


「さて話を切り替えて、君が欲しいのは説明で間違いなかったかな」


「あぁ、はい」


マーリンもシンも先ほどの表情から一転して真剣な表情になる。そしてマーリンが口を開く。


「まず君は、今世の勇者に選ばれた。それは紛うことなき事実だ。予言の巫女も君で間違い無いと言っているし、隼斗、君も金色の魔力を見たんだろ?」


隼斗は壁にもたれながら無言で頷く。


「すまないが君には勇者の運命を背負ってもらう。

それはすなわち魔王を討つという運命だ。現状、人類の状況は芳しく無い。君にはその現状を打ち破る切り札になってもらう」


「いや、でも僕にそんな力はありません」


シンは自信がないのではなく、自身の現状、あくまで事実を語る。


「そんなのは関係ない。君は勇者に選ばれた。それだけで運命が君をそこに導いてくれる。そこに君の意思や現状は意味を成さない。それが勇者というものなのだよ」


マーリンはまるで勇者を知るような口ぶりでシンに言葉を伝える。シン自身もその言葉を信じる以外にはなかった。なぜならそれは約束を守ることに繋がるから


「わかりました。なら僕はこれからどうしたらいいですか」




(覚悟が決まったか)


後ろからずっと光景を眺めていた隼斗にも分かるくらいにはっきりと纏っている雰囲気が変わった。間違いなくその目は希望を見据えていることだろう。


パチン


空気を切り替えるようにマーリンが手を叩く。


「そう!なら後の説明は彼女に任すわ。出てきなさい」


マーリンがそういうと扉が勢いよく開いた。そこから、これまた勢いよく明るいピンク色の短い髪を持った少女?が入ってきた。


「はーい。初めましてシンくん。

 私の名前はエンリー=ホワイトって言います。ここで教師やってまーす。

 あ、今ホワイトなのにピンクかよって思いました?それもご愛嬌ってことでこれからよろしくお願いしますね。」


エンリー先生はシンの手をとり満面の笑みをシンに向け握手をした。その後ろで隼斗は両手を頭の後ろに回して口火を切った


「そいつ、そんな可愛らしいキャラでくるけど今年で三十路のバ…」


そこまで言って隼斗は高速で背後に移動したエンリー先生によって頭から大根のように地面に埋められた。


(あぁー、多分隼斗をぶん投げたのってこの先生だ)


シンはそんな根拠のない確信?を持ってしまった。

エンリー先生はすぐにシンの方へと向き直ってもう一度手を取った。


「じゃ、行きましょうか」


「えっ、どこにぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


エンリー先生はそのままシンを連れてどこかに消えてしまった。残されたのは兄弟とマーリンのみ。


「じゃあ僕もいくわ。じゃあね兄さん。理事長」


翔太はそう告げるとどこかに消えてしまった。マーリンはそれを笑顔で見送って口を開いた。


「連れてきてくれてありがとうね隼斗」


「大したことはしてないよ別に」


いつのまにか地面から出てきて、着いたホコリを払いながら隼斗は答えた。


「で、あの子はちゃんと勇者をやっていけそう?」


「そんなの俺に分かるかよ」


隼斗は後ろを向き、部屋を出て行こうとする。マーリンは隼斗を見つめ言を発した


「あなたが分からなかったら誰も分からないわよ。

 ワルプルギスから日本を救った英雄さん」


隼斗はそれに応じることなく部屋を出る。隼斗が最後にみたのは妖しく、麗しい魔女の笑みだった。






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お知らせ

次から2話分ほど説明回に入ります。

キャラの説明や土地勘の説明などは私から、

この世界の話や今後出てくるであろう人物たちの説明はエンリー先生から。

どうぞお楽しみに。


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