なじょだら

にゃんしー

前章

 ぱちん、ぱちん、と、命を断ち切るような音を立てて、海晴は靴を履く。藍染めの靴の、痩せたふくらはぎの辺りを長く覆う、金色のコハゼを見ていると、足がいまにも魚に食べられそうになっているのではないかと錯覚する。

「ふるえるな」

 冷や汗が無精髭まみれの顎の先から三和土に垂れ、大小のいびつな楕円を溝鼠の親子みたいに三つ塗り込めた。ばくん、と唸る左心室に促されるまま、深く息をつくと、乳白色の霧で現実感が喪われる。ふっと寝惚けた白熱灯を見上げる。

「三月……」

 明朝に怯えた夜行動物の声で、啼く。

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