第2話 聖女の侍女兼護衛

「ねぇ、お父様。この子、地味だけどそれなりに容姿は整っているし、頭も良いみたいだから私の護衛兼侍女にしても良いわよね?」



 ジェフリー公爵家の使用人として働き始めて2年、嫌だった仕事にも慣れ、誰にもこの家で生まれたことを知らせないまま12歳になった私は、ジェフリー公爵家の娘であり、この国の王太子殿下の婚約者であるアイリーン様に目を付けられた。


 私の双子の妹であるアイリーン様は、くすんだ金髪に茶色の瞳で地味な顔立ちの私とは似てもつかぬ、ハニーブロンドの髪に空色の瞳で天使のような愛らしさと、大人びた妖艶さを兼ね備えた絶世の美女だった。


 そんな彼女は、この国では珍しい『聖魔法』が使え、『聖女様』を崇められていた。

 そんな彼女の容姿端麗さと完璧な立ち振る舞いは、家族を含めた周りの人達を魅了し、つい先日、王太子殿下の婚約者になった。



「もちろんさ、愛しい我が子であり、この国の聖女様であるのアイリーンよ!」

「ありがとう~、お父様~! 大好き~!」



 12歳にしては豊満な過ぎる体躯のアイリーン様に抱き着かれ、満更でもない顔で笑っているこの人は、私の生みの父でありこの屋敷の主である旦那様。


 そんな2人を冷めた目で見ていると、旦那様が険しい顔で私の方を見た。



「そういうことだから、貴様はアイリーンの護衛兼侍女になれ! いいか、命懸けでアイリーンを守るんだ!」

「かしこまりました、旦那様」



 ――既に、王宮から聖女様の護衛役の騎士が派遣されているのだけど……使用人である私に拒否権などない。


 こうして私は、使用人の仕事をしながら騎士達から護衛としての厳しい訓練を受けて3年後、15歳になられたアイリーン様の護衛兼侍女として魔法学園と王宮に通うことになった。




 ◇◇◇◇◇




「こんにちは、アカーシア嬢」

「これは、アドルフ様。ごきげんよう」



 護衛として学園に通い始めて3年の時が経ち、卒業も間近に迫ったある日の昼休み、アイリーン様の護衛として少し離れた目立たない場所で立っていると、同じクラスのアドルフ様が声をかけてきた。


 彼は、隣国レスティア帝国の辺境伯家次男で、我が国に留学していうる皇太子殿下の側近候補の1人。

 紺色の髪と金色の瞳、凛々しい顔立ちで騎士らしい逞しい体躯をしている彼は、私と同じ護衛という立場もあってか、よく私に話しかけてきた。



「それにしても、聖女様の護衛って大変だね。聖女様が数多の貴族令息達を誑かしても彼女の身を守らないといけないなんて」



 そう言って、彼が冷たい視線を向けた先には、婚約者である王太子殿下を始め、たくさんの貴族令息達が、ベンチに座っているアイリーン様に愛を囁いていた。



「それが護衛の仕事ですから」

「あれっ? 誰彼構わず男達を誑かしていることは否定しないの?」

「私のような身分の者では、そのような出過ぎたことは申し上げられません」

「『出過ぎたこと』ねぇ……」



 ――だけど、学園を卒業されたら、未来の国母として自覚ある行動をして欲しい。


 仲の良い使用人仲間から聞いた話だと、私が使用人として働き始めた頃から、アイリーン様は目に付いた男性が既婚者だろうが婚約者持ちだろうが関係なく迫っていたらしい。


 そして、王太子の婚約者になってからは拍車がかかり、気に入った男性は自分のものにしないと気が済まなくなった。


 ――そう言えば、最近では王太子妃教育の座学を一緒に受けたり、アイリーン様が行うべき書類仕事を押し付けられるようになったりしたわ。全て『聖女様の采配』ということで済まされているけど。



「ところで、皇太子殿下はどちらに?」

「あそこのガゼボで本を読んでいるよ。たまには息抜きをしたいんだと」

「そうでしたか」



 そう言って、誰もいないガゼボで1人静かに本を読んでいる皇太子殿下を一瞥すると、複数の男性に体を弄られて喜んでいる聖女様に視線を戻した。



 それから数日後、学園を卒業したアイリーン様と王太子殿下は、国王陛下が退位すると同時にこの国の王と王妃になられた。


 これで、私の役目も終わり……と思いきや、アイリーン様に呼び出された私は、彼女の自室に入った瞬間、突然、私の首に禍々しい首輪をつけらえた。



「ウフフッ♪ あなたはこれからも私の下僕として死ぬまで働くのよ♪」

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