悪役令嬢は婚約破棄がしたい!
温故知新
第1話 前世を思い出しました!
「ううっ……ハッ!」
――ここって、もしかして!?
長きに渡る魔王との戦いが勇者パーティーの勝利で終わり、1年後に勇者達が我がバドニール王国に帰ってくると、国中で連日連夜大騒ぎしていたある日の朝。
いつもの時間に起きた私ティナ・エーデルワイスは、魘されて目が覚めたのと同時に前世の記憶が蘇り、この世界が前世で夢中になって読んでいた小説の世界だと思い出した。
そして、その小説で悪役令嬢だった私が、既に積んでいる状態で破滅寸前であることも。
「マズイマズイマズイ!! このままじゃ私、婚約者兼勇者の婚約者に殺される!」
筆頭公爵家の長女である私は、幼い頃にこの国の第2王子であるアルベルト様と婚約した。
ちなみに、王太子殿下は隣国のお姫様と婚約している。
婚約が結ばれてからは王子妃教育で忙しかったけど、穏やかで優しくて、けれど常に王子然としている凛々しいアルベルト様に好意を抱いていた私は、彼の妻になることを信じて疑わなかった。
けれど、私が17歳で学園に通っていた頃に流行り病でお母様が亡くなった直後、魔王が復活し、アルベルト様に勇者の力が目覚め、聖女の力に目覚めた当時平民で16歳のアリアが、王命により母と共に我が公爵家の養子として迎え入れたことで状況が一変する。
銀髪に赤い瞳でお母様譲りのキツイ顔立ちのいかにも悪役令嬢顔の私とは違い、ピンク髪に蜂蜜色の瞳の可愛らしい顔立ちのアリアは、正しく愛されヒロインだった。
そんな彼女の素直さや可愛さは、瞬く間にお父様やお兄様、使用人達の心を掴み、学園に通い始めてからは私の友人やクラスメイト……ついには婚約者と親しい関係になってしまい、私の周りにいた人達全員がアリアの味方になってしまった。
小説では、それが物凄く腹立たしく思い、アリアに対して事あるごとに過度な嫌がらせをし、周囲にいた人達から罵声や冷たい目を向けられていた。
「小説を読んでいた時は、聖女として健気に頑張るヒロインのアリアに、意地汚い嫌がらせをする悪役令嬢が心底嫌だったけど……こうして本人になってみると、嫌がらせをしたい気持ちは分からなくないわね」
何せ、親しくしていた人達が突然、たった1人の……それもどこの誰だか分からない平民に味方についたのだ。
そりゃあ、八つ当たりもしたくなるわよね。だからといって、実際にしてはいけないけど!
「というか私、小説と違ってアリアを虐めてなんていないわ! むしろ、彼女と親しくなろうとしていたのよ!」
確かに、元平民が我が公爵家の一員になるのに対し、不満が無いと言えば嘘になる。
けれど、筆頭公爵家として王命に逆らうわけにはいかないし、彼女が筆頭公爵家の一員になるからには、少しでも彼女と仲良くなり、他貴族に付け入る隙を与えてはいけない。
そのためにも彼女と仲良くなりたかったのだけど……
「そもそも、聖女教育で忙しいから中々会えなかったし、周りで『私がアリアを虐めている』って噂が立って、鵜吞みにした使用達から見放されてからは食事や掃除や着替えも全て自分でしないといけなくなって……結局、話す機会が無いまま、アリアはアルベルト様や天才魔術師や騎士団長の息子と共に、魔王討伐に行っちゃったんだよね」
――というより誰よ! 根も葉もない噂を流した奴は! 今すぐ出てきなさい! お陰で屋敷にも学園にも社交界にも居場所が無くなって本当に大変だったんだから!
「って、呑気に前世を思い出している場合じゃない! 勇者達が帰ってくる前にお父様に会わないと! 1年の猶予があるとはいえ、聖女を虐めたと噂されている悪役令嬢を助けてくれる人なんて誰もいないんだから!」
――それに、うかうかしていたら、あっという間に勇者達が帰ってきて、小説の通りに大勢の前で断罪されてそのまま破滅まっしぐらよ!
急いで身支度を済ませた私は、部屋を出るとそのままお父様がいらっしゃる執務室へ向かった。
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