お国のために ~勇者はアサルトライフルにて世界に挑む~

何時木ウェン

曙光編

第〇話 悟

『お国のために』という言葉がある。

 が、それは兵士の覚悟だとか、決意だとかの言葉などではなく

 殺人、拷問、破壊その他の戦争時における反人道的行動を正当化する

 責任逃れの言葉なのだ。

 

 そう思いながら一人の少年が眼前に広がる幾千の死体を見つめていた。


 彼の名は晴宮正義はれみやせいぎ

 比較的整った顔つきと、ダークブラウンで全体的にラフな印象を与える髪型。

 そして顔を見た時に誰もが一度は見つめてしまう、左目の下にある「く」のような形をした特徴的な傷。

 

 彼の目に光はなく、その表情に感情はない。

 この戦場で知りたくないことを知り、見たくないものを見てきたのだから。

 それでもなお、彼は己に決めた勇者としての『義務』を果たすためこの地に立つ。

 彼の本能が自分の感情を無自覚に抑え、現実を脳に受け入れてさせてまで。

 

 正義は敵軍を壊滅させたことを報告する。

 

「こちら晴宮正義、敵を撃破した。どうぞ」


『こちらイナバ、敵の沈黙を確認。引き続き警戒に当たってください』


 通信を切り、何をすることもない正義は再びすでにこと切れた幾万の死体の海を見ながら考える。


 奴にも家族はいたのだろう。

 奴らにも信念があって戦ったのだろう。

 俺がそれを終わらせてしまった。

 殺してしまった。

 この手に持った銃で、と。

 

 ……だが彼に後悔はない。

 恐怖も、不安も、罪悪感も……もうない。

 なぜならすべては彼にとって『義務』であるからだ。

 そう。

 この行為はすべて、


「……お国のために」

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