ちょこきゅんショートケーキ

紗那

風邪をひいた日

「いいなぁ。紗那は。角田くんが近所で。」

言われなれた妬きもちの声。

「そんなことないよ。ただ、近いだけだよ。」

笑いながらそう返すのも,慣れたものだ。

妬きもちされ始めたのは小学3年生の途中から。小学5年生にもなるとうまくかわせるようになっていた。


角田君は、野球少年だ。夢はプロ野球選手だったかな。お習字の時間に、「夢」という1文字を大きく堂々と書いていたのを、なるほどなぁ。おおきな夢をもつ人は違うなぁと思ったのを覚えている。


風邪をひいて学校を休んだ日は、学校で配られたプリントを、角田君が持ってきてくれる。

玄関が窓から見える位置に座っておばあちゃんが作ってくれた重くてあったかいちゃんちゃんこを着て、本を読んでいたらインターホンが鳴った。

マスクをして外に出る。風が強くて、寒いはずなのに角田君は薄着でへっちゃらな顔をしていた。

「あれ,お前出てきて大丈夫なの?」

「うん,ちょっと熱下がったから平気。プリントありがとう」

「熱?」

「まだ顔赤いけど」

急におでこがひやりとした。角田君の、いつもボールを投げている大きい手が、私のおでこに当てられていた。

もう片方の手で自分のおでこを確認しつつ、角田君は、

「うーん、もうちょっとかな。ゆっくり寝とけよ」

と、診断して、「じゃあな」と、帰って行った。

部屋に戻りながら,おでこに当てられた角田君の手の感触をなん度も思い出してはきれいな折り目のないプリントを見た。やっぱり、角田君が近所で、少し得してるかもしれない。口元が自然とゆるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ちょこきゅんショートケーキ 紗那 @Mrsummer_sky1120

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画