リトル男の行方は......?
付喪紙 洸(ホノカ)
繧ウ繧、繝ォ男
リトル男の出会い
「今日からオカルト研究部の研究対象をリトル男にします!」
啖呵をきったようにアヤノが叫び、部室と言っていいかも分からない小さな部屋に甲高い声が響く。どこからそんな
この爛々とした宣言に、一応部員である私とコタロウは、反応もせず各々の行動を何も無かったかのように続ける。私はちょっとした小説を書き、コタロウは機械いじり。コタロウはどうやら自作ラジコン戦闘機に六脚をつけているようだ。戦闘機は蟲では無いのだが......。蜘蛛のような細長い脚が、キシキシといいながらも地面を踏み鳴らしている。ただ果たして飛べるのだろうか?ラジコンには興味無いが、駆動系が気になる。
「ちょっとシズク、コタロウ......はいいか。聞いてよ!ここは文芸部じゃないし、化学部でもないオカルト部だよ。ほらこんな事してないで、リトル男の話しよ」
そう言いながら、アヤノが私の書きかけの原稿用紙を取り上げる。
あぁ、行き場を失ったシャーペンは空中に文字を書いている。コタロウに対しては特にアクションもなく、コタロウもそれに呼応するように機械いじりを続けている。
あっ、脚折れた。
なんか羨ましいっちゃ羨ましいけど、アヤノに「コタロウはいいか」という超冷たい発言をされるのは嫌だ。仮にも中学からの
「何回も言ってるけど、私はここが文芸部だって言われて入ったの。だからオカルトにも興味無いし。というか、もしかしてだけどコタロウも同じように騙したの?見るからに、興味無さそうだけど」
とりあえずテンプレの悪態をつき「うぐっ、そんな事ないよ。」と明らかに狼狽を見せるアヤノを無視する。普段はもっとおとなしい、淑女という言葉が似合う人なのに、どうもオカルトになると変になる。
コタロウはというと、いったん自作機に六脚を付けるのは諦めたようで、私でも知ってるような機体に、BB弾を詰めている。墓場のように、無数に存在しているガラクタのようなコイツらを、攻撃できるように改造したようだ。
私の知っているコタロウの改造劇は、自作機の作成と、自作カメラをくっつけた偵察機仕様、爆竹を搭載した軽爆撃機仕様。今のところいたずらにしか使えないかもしれないが、使い方によっては有用なのだ。
例えば......。まあ、それは置いておいて。
コタロウは重い腰を上げるように呟いた。
「俺は騙されてあげたんだよ。アヤノがあまりにも可哀そうだったから」
確かにあの時のアヤノは悲哀に満ちていた。そりゃ自分の作った部活に誰も入ってくれないのだから、騙したくもなる。
「でも今回の件は気になるな。そのリトル男とやら」
「どうせ名前の響きが良いとか言うんでしょ」
「大正解」
コタロウも機械以外は頭の中が寂しいのか、リトル男という響きだけで、今回はアヤノの味方になってしまった。こうなれば多数決で部活が始まってしまう。ここには少数派の尊重もなければ、拒否権もない。なんだかリトル男とやらに、私は少々不快感を覚えている。何故だか知らんけど、どうしてもやりたくない。
「まずサンダーバードはどうしたのよ。あの件は永久凍結なの?」
「サンダーバードは遠い地での研究の為、現地の方々に任せることにしました!こちらでの研究は終了です!」
「はぁ、要は新大陸に行く費用がないだけでしょ。とにかく私は、リトル男とは関わりたくない」
どう説得したって、アヤノともう一人は聞かないようだ。というかこの人達は、私がぐずぐずしている子供を見るみたいな目をしてやがる。これが
「じゃあどうしたいのシズクは。なにか案をplease!」
「そうだな、帝都って、中心部はメカニックでサイバーチックなサイエンスに満ち満ちてるじゃん。なのに何でこの辺はこんな寂れてるの、とかあそこに立ってる鉄塔と、その下の豆腐みたいな、いかにもなLABはなにとか」
「却下いたします」
聞いておいてそれか。実際気になっているんだけどなぁ、地域格差と数百メートルの鉄塔に、ディストピアに出てきそうな研究施設。小説にしたら面白いだろうに。
「駄目だねシズク、実用的すぎるよ。オカルト部はもっと面白おかしく、そしてくだらない物の方がアツい!」
「言ってて悲しくならんの?今まさに、存在意義が疑われたわけだけど」
「まあまあ見てみてよ二人とも。今日、登校中に貼ってあったポスター剝がして持ってきたんだけど、このおぞましいリトル男の写真に、おどろおどろしい文字。先生たちに聞いても、皆知らないとか、話そらしたりするの。きっと何か帝都がひっくり返るぐらいの、真実が隠れてるんだよ!どう?気になってきた?」
リトル男の写真はノイズまみれの中に、輪郭とかろうじて口が見える不気味な写真。文字もとぎれとぎれで唯一読めたのは「リトル男の行方は......」だけだ。そして教師陣も、何かを隠している状況。
とても気になった、アヤノの窃盗行為にだが。
「何を言われたって私は嫌だ。今回は申し訳ないけど、参加しない」
そう切り捨てたのを、アヤノは露骨に落胆している。きっと彼女の頭の中は、ピアノソナタ第8番でいっぱいだ。その横でコタロウは、攻撃機を使って遊んでいる。
「今日は帰る。もともと部活も休みだったし、私は興味ないから」
「ふふん。明日には絶対に興味持って、一緒に研究させてって泣きつくんだから。楽しみにしてるよ」
「じゃあ俺も帰ろ。どうせなら今から調べたいし」
「あっ、ちょっと待ってさすがに一人は寂びし、」
部室をでて、扉を活用して言葉を切る。コタロウもついでに部屋を出ていたが、私が階段を降りようとして、チラリと部室を見た時に丁度アヤノに引っ張られていた。可哀そうに。
そのままの勢いで学校を出て、帰路につくことが出来た。だが、何かおかしい。普段ならここらで、アヤノが引き留めに来るはずなのだが。そして視線を感じる。
「ふふふ、私からは逃れられんのよシズク」
「お願いだから壊すなよ。試作機だし、カメラも高いんだから」
耳を澄ませると、蠅のような、蜂のような羽音が聞こえた。学校の校門近くに落ちている石を拾い上げ、どうせこの辺、と天高く後ろに投げつける。
「やっぱり。まずコタロウの
怒る理由がズレてる気もするが、正直それが気になってしょうがなかった。引き留める方法が変わった程度だから、ストーカーは別に気にならない。でも、ちんたら動く戦闘機は私的には許せないんだ。多分コタロウもだけど。
ろくにコントロールも効かない私の石は、どこか彼方に飛んで行ったし、アヤノの空中戦闘機動がボロボロだったため、コタロウが無理やり戦闘機を引き返していた。
私は小走りで、校門を抜ける。この案件は引き受けたくない。だけどアヤノの私に対するお誘いがちょっと楽しみである私が、少し怖い。これじゃあツンデレみたいではないか。不毛なこと考えながら、鉄塔がそびえるサイバーチックな街に踏み入った。
「なんで引き返すの。あの娘を追って!」
「はいはい、ドラマは終了。お前に触らせるとろくなことにならん。俺ももう帰るから、ラジコン改修しないと」
「ふっ、刺さったんだ」
──私の家庭は恵まれているらしく、住居は帝都中心に近く、郊外ではあるがサイバーチックの面影を残している。なので、帰路は寂れた
電線まみれの夕焼けから、無機質な白黒の高層ビル街に途端に変わるこの街は、いったい?
そんなことを家に帰ってからも、しぶとく思い悩んでいるのだ。高層ビルの一部屋、経済状況は恵まれてはいるけども、家族との関係は芳しくない。両親はいつもいない、総括省?みたいな所の公務員だから、私が寝ている間に帰って、出勤している。私は、いつも空虚で伽藍堂な部屋での生活だ。実に面白くない。だからこそ小説に想いを馳せているというのもあるのだろう。
そして、なによりも私の悩みの種というのが、
「―――─」
始まった。22時の警告音。
鉄塔から放たれる奇怪な言葉は、寝る前の最悪な睡眠導入剤だ。アヤノ曰く単なる時報で、未成年がこれ以降睡眠をとらなければいけない一つの指標なだけだと、言葉も偉大な
22時の警告音は、3フェーズに分かれてると勝手に思っている。最初はさっき聞いた心臓に響く低いノイズ音。このノイズが数秒続いてから、初めて音声が流れ始める。
「列ろてしてわじ従順ぬこむべこくあねたほつ知らべこ」
と、放送されるが、いかんせん反響が大きいもので、正直何を言っているか、本来の言葉はわからない。指導者の言葉だろうけど、理解できないものはどう解釈したって恐ろしい。
この反響が十数回繰り返されたあと、脳内に直接シナプスがあふれるように、言葉が一音一音紡がれていく。
「善き事の為に為せ」
ふうっ、やっと終わった。10分程度の音声の垂れ流しだが、これを大真面目に聞いているとどっと疲れ、喉の渇きを覚える。シナジーの渇きが思い起こされる。
日課と化した水道からの水分摂取を行い眠気に誘われていた時、私のスマホが鳴っていた。
「見て!UFO!これはきっとリトル男にも関係があるよ!」
という文とともに未確認飛行物体と、あからさまに驚くアヤノの写真が添付されていた。今回はこんな感じか。そう考え、仰々しいベッドに潜り込みながら返事を返し、床についた。
「寝ろ」
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