運命に翻弄される少女と心を壊した男の子の物語
@shinori_to
第1話 男の子と出会う
春先の暖かな陽射しが私の背に当たって、視線の先には長い影が出来ている。
その影を追いかけるように、肩で息をしながら私は帰路を急いでいた。
「ううぅ。母上も
大きなため息を吐いて肩を落とす。
この分なら日暮れまでには帰れるだろうと、私は歩みの速度を少し落とした。
私の名前は
さて、どうして私がこんなにもくたびれているかと言うと。何のことはない。寝坊したから――つまり、自業自得。
日頃の疲れからか昼過ぎまで寝てしまった私は、幼なじみであり義姉である鈴奈に叩き起こされた。その後、有無を言わさずに母上の下へ連行。
ゆっくり休息はできたようですね? と、母上から穏やかな笑顔を向けられた私は蛇に睨まれた蛙の如く硬直した。
そして、もはや弁明の機会すら与えられずに母上から言い渡されたのは領主様のお屋敷へのお使いでした。
勿論、拒否権はありません。
それから領主様のお屋敷までの小一時間ほどの道のりと、領主様との世間話一時間強を経て、今に至る。
「領主様も話が長いことを除けば良いお方なのに……」
領主様は大変話好きな御仁で、三日も空けば里の事や民の事、それに家族のことなど話の種は尽きない。
それだけ里の事をよく御覧になっているという事なのだけど……、聞く側となると大変。
そして、その長話をさらっとあしらう母上。やはり只者ではない。
「あ! 巫女様だー」
「巫女様ー」
そんなことを考えていたら私を呼ぶ声が聞こえてきた。
顔を上げると通りの向こうから駆けて来る子供たちが見える。
遊んでいた帰りでしょうか?
ああ、でも、走ったら危ないですよ。と声を掛けようとしたら一番小さな男の子が転んでしまった。
「大丈夫ですか?」
転んだ男の子に駆け寄って体を起こしてあげる。
ケガはしていないだろうかと観察すると、膝小僧を擦り剝いて血が滲んでいた。
「うぐぐッ……」
男の子は血の滲んだ自分の膝小僧を見た途端、表情が変わっていく。
顔が歪み今にも泣き出してしまいそうに……。
「よしよし。偉いですね」
男の子の頭を優しく撫でて、それから――
「痛いの。痛いの。飛んでいけ~」
と、擦り剝けた膝小僧を優しく撫でる。
「ほら。もう痛くない」
「う、うん……」
それから、男の子は膝小僧を恐る恐る触る。
すでに血が停まって痛みも無いことに気付いて、男の子の顔がパッと笑顔になった。
「巫女様。ありがとう!」
「ちぇッ! いいなー」
「羨ましい!」
途端に周りの子たちが囃し立てる。
「はいはい。でもあなた達はケガをしていないでしょう? それから巫女のおまじないは一日一回しか使えないのです」
えへん。と胸を張る私。
「あと、おまじないの事は私達だけの秘密ですよ? 破ったらおまじないが使えなくなっちゃいますからね」
そう言って、私は人差し指を自分の唇に当てた。
「うん。わかったー」
「はい。では、暗くならないうちにちゃんと帰るのですよ」
「うん。じゃあねー」
「またね~」
「ああ。走ったら危ないですよー」
手を振って駆けていく子供たちに私も手を振って返す。
里の子たちは今日も元気です。
さてと、私も暗くなる前に帰らないと。
ちなみに、子供たちが言っていた巫女様と言うのは、私がこの里の社に仕える巫女だから。
巫女だからなのか、先ほど見せたおまじないと言う名の治癒が使える。たぶん、たいていのケガなら治せると思う。
あと、1日1回というのは半分嘘。
この力はケガの程度に依存している。軽傷ならそれなりの回数は行えるのです。
ただし、治癒の力はなんの代償もなく行使できるわけではない。
その反動は私自身への不調となって返ってきてしまう。
でも、さっき治した子のケガくらいならちょっとした動悸、息切れ、立ち眩みなどの不調が表れる程度。
過去、潰れた腕を再生した時は数日寝込んでしまいました……。まぁ、でも、そんなことは早々起こる事では無いので大丈夫。
それから、この治癒の力はなぜか私自身には効かない。だから不調を治癒で打ち消すことも出来ない。
母上曰く、器から零れ落ちた水を元の器に戻せないのと一緒なのだとか?
「ん……?」
家まであと少しと言うところで、私はふと違和感を覚え道の先を注視した。
それは夕焼けに照らされた里外れに通じている道。
木々に覆われた先は暗く奥までは見通すことが出来ない。だからなのか、私は無意識の内に歩みを進める。
やがて、陽の光が弱まり薄暗くなった林道で私はソレを見つけた。
トボトボと力無く歩いて来るソレは、ボロボロの男の子?
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