陽キャの幼馴染をNTRされた俺が学園一の美少女「氷の雪姫」と付き合えたワケ
守次 奏
第1話 腐り落ちた初恋
初恋は実らないなんて言葉がある。
だが、俺──三上圭太の初恋は順風満帆そのものだった。
幼稚園からずっと一緒だった幼馴染──柚木千佳と、そのままもつれ込むように恋仲になったのが小学校の卒業式。
誰も彼も浮かれていたから、告白だったりズッ友宣言だったりが飛び交っている中で、俺もなんだかんだでその一員になったわけだ。
千佳に告白して、OKをもらってから実に二年間。
最初のうちはぎこちなかったし、恋人らしいこともしてこなかった友達同士の延長線だった関係は、中二のときに変化を迎えた。
「ん……っ、いいよ、けーた……」
お互いにどうすればいいかわからないまま、探り探りで熱情を求め合ったことを覚えている。
一線を越えてからはもう、周りからも呆れられるほどのバカップルになったな、俺たちは。
でも、幸せだった。
お互いの心が通じ合ってるんだって信じ合えたことが、なにも言わなくたって想いだけできつく、固く結ばれているんだと思えたことが。
「あたし、おおきくなったらけーたのおよめさんになる!」
そんな幼稚園の頃の他愛もない言葉も、まるで将来のために用意された誓いなんじゃないかと感じられるほどに、俺と千佳は高校に上がった今も、愛し合っていた。
そのはずだった。
だが、思えば、いつからなんだろうな?
走馬灯のように脳味噌が思い出をなぞっていたのは、紛れもなく俺が今──精神的な意味で、死を迎えようとしているからだ。
「やーですって先輩、あたし今クタクタなんですよぉ」
「いいじゃん、足腰立たなくなるまで楽しもうぜ」
「きゃー!」
少し治安の悪い繁華街、そこにデカデカと建っているラブホから、聞いたこともないような媚声と共に、知らない男の腕にもたれかかっている千佳を見た。
……脳が理解を拒んでいるけど、これがどういうことかわからないほど、鈍感じゃない。
いっそ鈍感でいられたのなら、一周回って幸せだったのかもしれないけどさ。
「……千佳?」
誕生日プレゼントとケーキを手に提げたまま、震える声で呼んだ名前に、金色に髪を染めた幼馴染はまるで、見たくもないものを見たような目で返事をする。
「……けーた?」
このクソ治安の悪い繁華街に来た理由は、今日が千佳の誕生日で、そのためにプレゼントとケーキを買いに来たからで。
「千佳ちゃん、誰? 知り合い?」
知らない男……恐らくネクタイの色からして三年生の先輩が首を傾げる。
「え、えっと……音瀬先輩、違うんです、あたし」
「ああ……そういうことか。大丈夫だよ千佳ちゃん、おれはそういうの、気にしないから」
音瀬と呼ばれた先輩は、これ見よがしに千佳を抱き寄せながら、甘い声でその耳元へと囁いた。
どういうことだよ、と、千佳を離せ、と、声を荒らげて詰め寄るような真似ができたらよかったのかもしれない。
それでも俺は多分、心のどこかでは悟ってたんだ。
「千佳、最近化粧品買い込むようになったのも、そういうことなのか……?」
演劇部のメイクで使うから、と、部屋に用途がわからない化粧品が増えていったのも、髪を突然染めたのも、全部。
「今更なに? あたしにはあたしの事情があるって言ったじゃん」
千佳のやりたいことは尊重する。
それが付き合い始めたときから決めたルールだった。
だから、同じ高校に上がったとき、評判の悪い演劇部に入ると千佳が言い出したときも、役作りのために髪を染めると言い出したときも、俺は止めなかった。
でも、本当は止めるべきだったんだ。
どこで? わからない。
だけど、少なくとも、もっと早くに。
「まあまあ、千佳ちゃんを怒らないでやってくれよ。ケータくんだっけ? 女の子ってそういうもんじゃん」
「……音瀬先輩。これは、俺と千佳の間の話です」
「ふーん、そう? じゃあ千佳ちゃんに聞いた方が早いか。ねえ千佳ちゃん、俺とあのケータくん、どっちが本命?」
一足す一が二であると諭すように、雨粒が空には戻らないのだと語るように、音瀬先輩は千佳へと微笑みかける。
その先の答えも、わかっていた。
ギロチンの紐を引くように、リップグロスが引かれた千佳の唇が言葉を紡ぐ。
「そんなの、音瀬先輩に決まってるじゃないですかぁ。だからけーた、あたしにもう二度と関わんないでね。正直鬱陶しかったから」
思えば、些細なことで口論になるようになったのはいつからだろう。
もっと、もっと気を配っていればよかったんだろうか?
俺がなにかを見落としていたから、足りなかったから、こんな結末が待っていたのか?
それともこれは、下された罰だとでもいうのだろうか?
膝から崩れ落ちたまま、がくりと項垂れる。
どこで、俺たちは間違えたんだろう。
「……千佳……」
あんなに好きだったのに、あんなに好きだと言ってくれたのに。
それも全部、嘘だったってことなのかよ。
通行人から注がれる同情の視線が、天から溢れた雨粒のように俺の背中を打ち据える。
初恋は実らないなんていうけれど、どうやらそれは、紛れもない真実だったらしい。
腐り落ちた初恋の欠片を抱くようにプレゼントの入った箱を握りしめて、俺はただ慟哭することしかできなかった。
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