公爵令嬢のわたしは、世界を滅ぼせる魔女らしい

新道 梨果子

プロローグ 黒き魔女と白き魔女

 ファラクラレ王国には、かつて黒き魔女と白き魔女がおり、彼女らの力でもって王国は繁栄していた。


 だが黒き魔女は、おのが力を振るううち、世界を手中に収めんと、その魔力で人々に暴虐の限りを尽くし始めた。

 白き魔女は王とともに立ち上がり、黒き魔女を倒すことを決意する。


 しかし黒き魔女の魔力はあまりにも強大で、王と白き魔女は苦戦を強いられた。

 長き戦いののち、白き魔女は黒き魔女の魂を、その身体の内に封印することに成功する。


 白き魔女は言った。


『私の血を絶やしてはならない。私の子孫は黒き魔女の魂が朽ち果てるまで血を繋ぎ、身体の内で封印し続けよ』


『それでもなお、およそ八百年後、黒き魔女の怨嗟の声は身体の内に収まらず、黒髪と赤い瞳を持つ、少女の姿を借りて生まれ出づる』


『私の子孫であり、かつ黒き魔女の魂のカケラを抱いて生まれたその少女は、世界を滅ぼせる力を持っている』


『少女を決して世に放つな。けれど殺してしまえば黒き魔女の魂を解き放ってしまうだろう。ゆえに封印を施した塔で育てねばならない。少女はその身を犠牲にして、生涯をかけて黒き魔女の魂のカケラを浄化し、天に昇るだろう』


 白き魔女は、八百年後に生まれるはずの少女を封印するため、塔の建設を命じた。

 王は白き魔女の言う通りに塔を造った。

 世界中に散らばった、黒き魔女の意思を継ぐ弟子たちも滅ぼされた。


 白き魔女の手によって、不安はすべて取り除かれたのだ。

 そうして世界に平穏が訪れた。


   ◇


 それが、八百年前の話。

 おとぎ話として伝えられる話。

 黒髪と赤い瞳を持つ少女が誕生するまで、誰もが忘れていた話。


 ヘイグ公爵家に女児が産まれ、その子が黒髪と赤い瞳を持っていたから、皆が急激に思い出してしまった話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る