第17話 どうして俺はこんなに運が悪いんだ!?(拓雄視点)
「毒の治療薬が作られただって!?」
「物見に出した我が子から報告があった。どうやら、あの小僧が何かしたようだぞ?」
ジュリアからの報告を受けた拓雄は、驚くべきその内容に目を見開いて叫び声を上げた。
そんな彼に対して、飄々とした態度を見せるジュリアは、他人事のように話を続ける。
「にわかには信じがたいが、あの小僧はわらわの毒を乗り越えたようじゃの。そして、あいつの血を使って医者が治療法を確立した……ということだろうな」
「嘘だろ……!? あいつ、死ななかったのかよ!?」
自分の鼻を砕き、屈辱と痛みを味わわせた龍斗が、またしても自分の野望の邪魔をしてきた。
龍斗に毒という切り札を無効化されたせいで、村の人々に対するイニシアティブを失った拓雄は、ズキズキと痛む鼻を押さえながら呻く。
「あいつのせいで何もかも滅茶苦茶だ。折角、ここを拠点に王になるための道を踏み出そうとしたのに……!!」
この近辺でジュリアの餌を集め、戦力を強化する。
その中で気に入った女の子を『捕獲』してハーレムを築き、ガチャを回せるタイミングが来たらそれも使ってどんどん力を付けていって……という自分の構想が、龍斗の登場によって脆くも崩れ去っていく。
毒に感染させた時には確実に勝ったと思えたのに、まさかそれを乗り越えて逆にこちらの目論見を潰してくるだなんて……と拓雄が悔しさに歯軋りする中、ジュリアはそんな彼を煽るように言う。
「あの時、撤退したのは間違いじゃったな。あそこであの小僧を殺しておけば、こんなことにはならなかった。お主の判断ミスじゃぞ、拓雄」
「うるさい! 俺が失敗したんじゃなくって、お前の毒が弱いからこうなったんだ!! 全部お前のせいだ!」
自分のミスを指摘するジュリアへと反発する拓雄であったが、正しいのは彼女だ。
ジュリアが援軍として駆け付けたあの場面、実は龍斗は絶体絶命のピンチであった。
毒を受けた龍斗はほどなくして動けなくなるところだったし、ダンも一日一回しか使えない技を蜘蛛怪人たちの掃討に使ったことで、実質彼らには戦力が残っていなかったのである。
しかし、蜘蛛怪人たちを一瞬で撃滅したダンの強さと、まだ戦えるように装った龍斗の姿を目の当たりにした拓雄は、気弱になって撤退を選択してしまった。
師弟のハッタリにまんまと騙された彼は、絶好のチャンスを自ら投げ捨ててしまったのである。
「お前がもっと早くに駆け付けてれば数で圧倒できたし、毒がもっと強ければあいつだって死んでたんだ! やっぱりお前のせいじゃないか!」
「ふぅ……わかった、わかった。なら、お主の好きにせい。今、わらわができる限りの力を使って、お主が考えた通りの子供を産んでやるから、そやつらに指示を出して好きに戦ってみよ」
呆れた様子で拓雄へとそう言ったジュリアが、やれやれと首を左右に振る。
そんな彼女の態度にも苛立ちを感じる拓雄は、怒りの形相を浮かべながら吠えた。
「どいつもこいつも俺を見下す! 折角異世界に来たのに、全然楽しくねえ! あ~っ! どうして俺はいつも運が悪いんだ!?」
(……悪いのは運ではなく、お主の頭と性格じゃ。小童が)
拓雄が元の世界でも上手くいかなかったのは、その他責思考かつ自己中心的でプライドが高い性格が原因だと、彼に召喚されてから今日までの短い期間で理解したジュリアが心の中で毒づく。
あとは自分自身に原因があることに気付かない知能の低さも理由かと追加した彼女は、運が悪いと悲劇のヒロインぶって嘆く拓雄のことを軽蔑の眼差しで見つめながら小さく鼻を鳴らす。
拓雄とジュリア、仮初の主従の間にある亀裂は、徐々にだが、確実に広がりつつあった。
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