いただきます ごちそうさま ――美味しいアプリの小さな奇跡【加筆修整版】
加藤伊織
プロローグ
皿の上に乗ったカレー風味のチキンソテーを青年はじっと見つめて、箸でゆっくりと持ち上げた。
皮の部分が見るからにパリッとしていて、湯気と共に香ばしい焼いた肉の香りとカレーのスパイシーな香りが漂ってくる。それだけでじゅわりと口の中に唾液が湧いてきた。
口に入れて噛みしめると、程良い焼き加減の鶏肉からはうま味を閉じ込めたような肉汁が流れだし、癖のない肉にカレー粉のアクセントが効いている。薄すぎもせず、濃すぎもせず、ちょっとご飯が欲しくなる程度の味の濃さは絶妙だ。
思わず頬が緩んでしまうのは当然だろう。一切れ、二切れ、食べ進む度にはっきりと笑顔になっていく。
「うまい」
言える言葉はそれだけだった。その言葉を聞き、青年の表情を見た人間なら誰でも、彼が食べた一皿の美味を想像できる。
画面の中ではその青年の顔の下に、「
レシピアプリ・クレインマジック。新リリースの初心者向けアプリ。
楽しく作り、美味しく食べる。自然と料理がうまくなる。
そんな謳い文句でクレインマジックは人々に魔法を掛け、小さな奇跡を起こすことになる。
これは、時給につられてアプリ開発会社でアルバイトをすることになった青年が、「美味しい魔法」と出会って自らも小さな奇跡を起こした物語である。
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