サンライト王国の朝日

 サンライト王国の跡地に昇る太陽は、暗闇に打ち勝つような、力強い光を放っていた。

 人々は、ようやく長い夜が終わったと実感した。恐怖と絶望に支配された暗闇の時間から脱出できたのだ。みんなで安堵の表情を浮かべた。

 美しい朝日を浴びながら、ブレイブを笑顔を輝かせた。


「みんなが生き残って良かったよ」


「……ダーク・スカイを逃がしましたけどね」


 アリアがおぼつかない足取りで溜め息を吐く。

「あの男が今後何もしないとは考えづらいです」

「そうですね」

 メリッサがふらふらと立ち上がった。

「今は休んで備えましょう。もう眠くてヘトヘトです……」

「早急に対策を練るべきですね、ブレイブ様」

 メリッサの提案を遮って、アリアがきっぱりと言った。

 ブレイブは頷いた。

「行動は早い方がいいはずだ。東部地方にエリックが行っているから合流したいし」

「あの、エリックさんなら簡単にやられないはずですし、たぶん大丈夫かと……」

「離れ離れのまま襲撃されたら大変だ」

 メリッサの言葉が聞こえていないのか、ブレイブは決意を込めた表情で両手で拳を作った。

「彼にこれ以上迷惑を掛けられない……おっと」

 ブレイブはその場でバランスを崩した。ゴッド・バインドがあったとはいえ、限界以上に戦ったのだ。身体に残る疲労は重いはずだ。

 アリアとメリッサが支える。

 メリッサはくたびれた笑顔を向ける。

「ほら、やはり休みませんと……」

「ブローチも預かっておりますし、早急に出発したいですわ。可愛い獣たちを貸しますわ」

 シルバーが口を開いた。

 紫色の薔薇のブローチを大事そうに見つめている。エリックのものであるが、シルバーを信頼して預けていたのだ。激戦の中で返す機会はなかった。

 ブレイブはアリアとメリッサを離す。

「ありがとう、もう大丈夫だよ」

 ブレイブはよろめいた。辛うじてバランスを取っているが、不安定だ。

「シルバーが猛獣を貸してくれるのなら、すぐに出発できるね」

 その場にいる全員が、ブレイブに不安げな眼差しを向けるが、ブレイブは微笑みを返した。

 シルバーは曖昧に頷いた。

「東部地方に行くことはできますわ。でも、よろしいのですの? サンライト王国の惨状を放っておいて」

「それは……そうだな」

 ブレイブは辺りを見渡した。

 焼け焦げた瓦礫に、中身が丸見えの王城。戦いの跡が色濃く残っている。


「サンライト王国の国民が見たらどう思うか……」


「おい、まさかとは思うがブレイブ王子ですか!?」


 急に野太い声が聞こえた。

 振り向けば、何人もの男たちが手を振って歩いてきていた。

 かつて作業場で働かされていた人間たちであった。猛獣に乗ってきたブレイブたちは、いつの間にか追い抜いていたようだ。

「やっとたどり着いたと思ったら酷い有り様ですね」

「そうだね……戦いを防ぐ事が出来なかったよ」

 ブレイブは悲し気に辺りを見渡した。

「ダーク・スカイは強かった。僕たちへの恨みも深かった」

「ダーク・スカイ!? リベリオン帝国中央部担当者ですか!?」

 男たちは仰天していた。

「ローズ・マリオネットの中でも残忍で、狙った獲物は絶対に逃さないと言われるのに!」

「生き延びただけで奇跡ですよ!」

「ブレイブ王子万歳!」

 男たちの笑顔は輝き、歓声をあげた。


「さすがはサンライト王国最後の希望!」


「やめてくれよ、僕はそこまで立派じゃないから」


 ブレイブは照れて後ろ頭をかいた。

 男たちは両手を天に突き上げた。

「サンライト王国を、ブレイブ王子を迎え入れても恥ずかしくないようにするぞ!」

「瓦礫の撤去からだ!」

「王城も直したいよな!」

 男たちの活気に満ちた表情に、ブレイブは勇気づけられた。


「任せていいのか?」


「もちろんですよ! 今まで不本意にも奴隷にされてきました。これからは祖国のために頑張れると思うと心が躍ります!」


 男たちは長旅で疲れているはずなのに、元気いっぱいに活動を始めた。

 バルトやニーナも駆け寄る。

「俺にもやらせてくれ」

「ブレイブ王子の為にできる事は何でもする」

 男たちは親指を立てる。

「人数は多い方がいいからな!」

 無理矢理戦わされた人たちも、人質にされていた人間たちも手伝い始める。

 互いに協力して瓦礫を運ぶなど、作業を進めていく。

 ブレイブは安心して頷いた。

「ここは任せよう。僕たちは僕たちにできる事をやろう」

 ブレイブは東の空を見つめた。その先ではエリックが戦っているはずである。

「シルバー、悪いけど猛獣たちをすぐに召喚できるか?」

「もちろんですわ。デッドリー・ポイズン、ヴェリアスビースト」

 シルバーがあくびをしながらワールド・スピリットを放つ。

 虚空から数匹の猛獣が現れた。ブレイブたちは乗り込んで、出発する。

 盛大な見送りを受けて、ブレイブは手を振って応えるのだった。

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