それぞれのやるべき事
ブレイブが跳びはねたせいで、心なしか地面がドスンドスンと振動する。
その振動に、シルバーが眉をしかめた。
「……うるさいですわ。なんの騒ぎですの?」
「ブレイブだ。あんたの生存を喜んでいる」
エリックが淡々と告げると、シルバーはゆっくりと目を開けた。
「生存? 私が生き延びましたの?」
「疑うのなら頬でもつねってみるといい。あんたは命を救われた」
「え……?」
シルバーの両頬が赤らむ。
「今生の別れだと思って告白しましたのに?」
「それは……その、悪かったな。あんたの気持ちに気づいていなくて」
エリックは視線をそらして自らの頬をかく。
シルバーは両肩を震わせて、両手で顔を覆った。
「ひどすぎますわ。本当に」
「お詫びと言っては何だが、俺の家で休め。ドレスの溶けた部分は、帰ってからなんとかしてもらえ」
「休んでなんかいられませんわ!」
シルバーはガバッと勢いよく起き上がった。エリックと視線を合わせてまくしたてる。
「自分の担当地方を荒らした相手に家を貸してお咎めなしなんて、どうかしておりますわ! あなたに地方担当者としての自覚はありますの!?」
「あんたにはいつも迷惑を掛けていたからな。俺の判断で不問とする」
エリックは立ち上がり、ブレイブに視線を向ける。
「出発はいつにする?」
「僕はいつでもいいよ」
「それならすぐに行こう。ダーク・スカイの気分が変わらないうちに」
エリックの提案に、シルバーは両目を見開いた。
「ダーク・スカイがどうかしましたの?」
「サンライト王国の跡地でブレイブと話し合う事になった。ロクな事にならない気はするが」
エリックが説明すると、シルバーは意味深な笑みを浮かべて立ち上がった。
「移動手段なら任せなさい。可愛い獣たちを召喚してさしあげますわ。獣たちは私の言う事しか聞かないから、私も当然付いていきますわ」
「ありがたいが、いいのか? あんたは東部地方担当者としてやるべき事があるはずなのに」
「安心なさい! 私の部下たちは優秀ですから」
シルバーが胸を張ると、エリックは胸を撫で下ろした。
「あとは、この区域の後処理だな」
エリックが辺りを見渡す。
シルバーの召喚した獣や猛毒のせいで、無残な瓦礫が広がっていた。
「……後処理くらい任せてくれ」
野太い声が聞こえた。
シルバーの召喚した獣たちの攻撃で、気を失っていた男たちだ。ブレイブの治療で命を取り留めたようだ。ゆっくりと立ち上がって決意に満ちた表情を浮かべる。
「エリック様の足を引っ張ってばかりだが、できる事をやらせてくれ。瓦礫の片づけや大工の手配をやっておくぜ」
「自分たちの事を卑下しないでほしい。あんたらを仲間と感じる俺の面目が丸つぶれだ」
エリックが真顔で言うと、男たちは腹を抱えて笑った。
「確かにな!」
「あの……良い雰囲気のところ申し訳ないのですが、よろしいでしょうか?」
メリッサがおずおずと口を挟む。
「シルバーさんのお洋服は直してあげたいです。女の子ですし」
「お気遣い感謝いたしますわ。ですが、今は時間がありませんの。ダーク・スカイは気が短いのですわ」
シルバーは腰に両手を当てて、南の方角を向いた。サンライト王国の跡地がある方向だ。
メリッサはワタワタと両手を振った。
「そ、それじゃあせめて上着を羽織りませんか? エリックさんも」
「俺はいい。この服装で充分だ。着心地がいい」
エリックは寝間着をつまむ。
メリッサは首をブンブンと横に振る。
「ダメです! 二人ともおそろいの上着を羽織ってください!」
「え、おそろい……?」
シルバーの顔が耳まで赤くなった。
一方でエリックは両目を白黒させた。
「なんか意味があるのか?」
ブレイブはエリックの背中を軽く叩く。
「いつか分かる。それまで生き延びてくれ」
エリックは不思議そうに首を傾げていた。
「そういえば、今更なのですが……エリックはどうして寝間着になっていますの?」
シルバーの疑問に、エリックは銀髪をポリポリとかいた。
「俺が聞きたい」
「え、詳しい状況を教えなさい! 場合によってはブレイブをこらしめなければいけませんわ!」
「気を失って気づいたら寝間着にされていた」
「えええええ!?」
シルバーは仰天した。
「ブレイブ、あなたという人は!」
「違うよ、アリアが服ごと武器を取り上げると言って着替えさせたんだ!」
ブレイブの弁明に、アリアが力強く頷く。
「ブレイブ様に襲い掛かったからだ。命を奪わなかったばかりか、寝間着を貸したブレイブ様の寛大さに感謝しろ」
「感謝するつもりだが、命令されると嫌だな」
エリックのこめかみが怒張した。シルバーも不満そうな表情を浮かべている。
しかし、二人とも襲ってくる様子はなかった。
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