別に死んでもないし転生もしてないけどいっぺん死んだと思って人生やり直します。
渉
第1話 俺が生きてた頃。
冴嶋
20代最初のピチピチしていた頃は、この仕事について誇りを持っていた。
そしてなんでも引き受けて…自分の力にしていこうと思っていた。
だから、上司や先輩から聞いたこと指示されたことなんでもやっていくつもりでがむしゃらに働いていた。
だが、どんどんと時が立つにつれて仕事量がおかしくなっていった。
初めは、みんな同じくらいやってるからと踏ん張れていた。
だが、一人辞め。一人辞め。としていくうちに俺の仕事量はおかしくなっていった。
だが、やらなきゃいけない。
そう言い聞かせて踏ん張ってきた。
だが、ふと我に返る時がある。
俺は、何時間。この仕事と向き合ったのだろう。
もう。帰りたい…
「やる気があるだけの使えないやつ。」
「適当に仕事なげるのに都合のいいヤツ。」
「失敗をな擦り付けてもノーダメージ。」
「応用力のない教科書人間。」
以前給湯室でお局連中が話していた言葉が頭をよぎる。
はぁ。
と深い息を吐いた。
俺はふと自分の腕時計に目を向けた。定時過ぎてる…
やばい。タイムカード…きってない。
俺は上司の
上司は俺の顔をじっと見たあと、はぁ。とわざとらしくため息をついた。
「…すいません…タイムカード切るの忘れてしまいました。」
と伝えた。
上司の視線が痛い。
「…今からでもいいから行ってこい。時間の計算面倒なんだぞ。」
上司は、ため息混じりに言ったあと、俺の顔の前に手を向け、しっしっ。と手を振った。
ムカつきはしたが、いつものことと思いながら部屋を出た。
事務所へ向かい、上司の指示に従い、社員カードを機械にかざした。
事務所内にピッと冷たい機械音と紙をめくりながらキーボードを打つ音だけが響く。
「失礼しました。」
小さな
「お疲れ様でした。」
が事務所の中にこだました。
事務所から戻り、部屋に入ろう扉に手をかけた時、かすかに上司の声がする。
「タイムカードは切る時間決められてるじゃん?あいつ、忘れてましたとか言ってるけど、絶対わざとだから。
最近、ああやって残業代貰おうってしてんだよ。
だってそうだろ?周りは時間見て、タイムカードきりに行ってんじゃん。みんな。
大の 大人 なんだからさ。普通言われた通りするよな。
残業するんだったら先に押さなきゃぁ。なぁ。」
心臓がバクンと音をたてる。また…俺のこと…か…
その後もなにか言っていたが、くわん。くわん。と頭の中で反響してよく言葉を咀嚼できないかった。
俺へのあたりがきついのは今に始まったことじゃない…
…慣れるにはまだまだ時間が必要だ。
向こう側で使われている言語は日本語であるようだが、途中。異国の言語のようにきこえる。
俺は状況を飲み込まないまま扉1枚挟んだ先の声だけを聞いていた。
周りは、クスクス笑って止める人はいない。
「まぁ。あいつの仕事の遅さは今に始まったことじゃないしな。」
周りの共感に似た笑いが大きさを増す。
それに比例するかのように体は重くなっていた。
俺は、湿る手をドアノブにかけ、回した。
ドアがカチャッと音を立てたその瞬間。
ピタ と笑い声がやんだ。
その代わりにサーッと持ち場に戻る者。
「お疲れ様でした〜」
とかえっていく者。
様様だった。
俺は、聞いていなかったような素振でデスクまで向かった。
そして。机の上に置いてある資料に目を通す。
だが。それは今までしていた仕事ではなかった。
見たくもない蛍光色の付箋が貼ってある。
かわいらしい文字で書いてある文をみて俺は深く絶望した。
「この資料。訂正きてました。データはそっちにメールで送ってます。残業するならできますよね。お願いします。」
この資料は、俺作ってないんだが…
あたりを見渡すが、この資料を頼んできた奴はいなかった。
仕方ない。済ませるか…
俺は、パソコンに向かった。
カタカタと無機質に音が出るキーボード。
この音を聞きながら無になって仕事を進める。
無心で仕事をしていると、少し気分が紛れる気がした。
強制的に頼まれた仕事を終え、伸びをした。
…珈琲…のみてぇ…
廊下から音がする…俺はボーッとその音を聞いていた。
ダンダンダンダンダン!!バンッ!!!
帰ったはずのお局様がえらい剣幕で歩いてくる。
お局様と言っても10歳ほどしか変わらない。
周りからはお局様よりお局様と言われて避けられていた。
そんなお局様が、ドスドスとこちらに近づいてくる。
そんな歩き方をすれば床が抜けるんじゃないかと思うほど恰幅のいい体がズンズンドスドスと、進んでくる。
俺は咄嗟にパソコンへ目を向け、たった今まで…いや。今もガッツリ仕事してます風を装った。
だが、それも虚しく。
…俺の後ろで止まる音がした。
鼻息荒く立っているのを感じる。
俺は、仕事が忙しいアピールをするとともに無視した。
だが、無視されたことでさらにお局様に火がついてしまっようだ。
「さえじまさん!!!」
俺は、声の音量にビクッとしたあと、目を合わせないように体を向けた。
「…どうしました?おつぼ…
お局様こと尾辻
「経理に行ってレシート見せてお金貰おうとしたら経費では落とせませんって!!こんな買い物するなんて聞いてません!って言うのよ?!私、ちゃんと先輩に話したの!そしたら「わかった」って!許可もらったから買ってきたのに!!!」
お局様はフスーッと鼻息荒く話し始めた。
経理は残業組いるんだなぁ。と呑気に考えながら普通は、先輩だけに話すんじゃなくて、ちゃんと経理の担当にも話してから買ってこいよ。
とも考えた。
…思ったことを言ってやりたいところだが、
全くもって人の話をきかず被害者意識全開のお局様には何も効果がないどころか、あらぬ噂や悪口、暴言を吐き散らし、そいつが辞めるまで追い詰める…社員クラッシャーと化するのが目に見えている。
俺が勤めてから何人辞めた事か…
初めは、後輩や同僚と交流もあったが、今はもうすることも出来ない。
ここはおとなしく話を聞いて愚痴を吐いてスッキリして帰っていただこう。
俺は、目尻と眉間に神経を集中させ微笑みを維持しようと心がけた。
だが。お局様はそんなことで落ち着くような人間ではなかった。
「ねぇ!あんた。
「へ?」
俺は固まった。
たしかに、事務を通す時間がない急な謝罪の菓子折り代や接待などでお金が必要なった時用の現金(部署金)を預かってはいる。というか、お金の責任を負いたくない上司からなすりつけられたと言っても過言ではない。
ただ、このお金も経理や上司。部長に話をしてからでしか渡せない事になっている。
俺は、今仕事をしている部屋を横目で見渡した。
…俺だけかよっ!
にじりにじりとお局様がにじり寄ってくる。
まじかよ…
俺は。ダラダラと汗をかきながらお局様に伝えた。
「…尾辻さん。すいません。今。対応できる人いなくて…
今は 俺がお金もってますけど、決定権はないんですよねぇ…
この後部長に話しするんで…今日はレシートと現物を俺に預けて帰った方がいいっすよ。
この様子見られたらまずいっすよ?俺、村本さんに嫉妬されて怒られちゃいますよ。」
お局様は村本の名前を出した途端、あっそうね!なんていい出してソワソワとフロアから出ていった。
上司の村本とお局ヤロー尾辻の関係は考えたくもないが、そういう関係らしい。
プライベートと分けてくれるならいいのだが、周りも強く出れないのをいいことにいろいろとやらかしてくれる。
何故。解雇にならないのか不思議でならない。
まぁ。あの年齢で2人に昇進の話が全くないのはそういうことなんだろう。
切りたいが切れない。
会社の弱みを握っているかもしくは、上の人間とズブズブなのか…
答えは後者だろう。
二人とも。社長の奥さんと仲いいらしいしな…
俺は、肺に入っているだけの空気を口から吐き出した。
ため息というにはいささか重苦しく長ったらしい息づかいだった。
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