第9話 ドラゴン

「クロミツ、お前の力を見せてやれ!!」

「ガウゥゥゥ!!」

「GRUAAAAAAA!!」


 クロミツがドラゴンに飛び掛かる。

 ドラゴンは迎撃をしようと腕を振るうが、クロミツはぬるりと最小の動きで攻撃を避けた。

 ズドン!!

 クロミツの頭突きがアゴにヒット。ドラゴンはアッパーカットでも食らったようにのけ反る。


「GRUUAA!?」

「ガウゥゥゥゥゥ!!」


 そのままクロミツは空に飛びあがると、口から光を漏らした。

 先ほど赤いドラゴンも見せた予備動作。ドラゴンのブレスである。


「ガァァァァァァ!!」


 白い閃光が迸った。

 クロミツのブレスはドラゴンの背中へ直撃すると、バラバラと鱗を飛ばした。


「GRUUUU!!」


 しかし、鱗で威力が減衰していたらしい。

 本体にダメージが入っている様子はない。人間で言えば、殴られた程度の痛みなのだろう。

 ドラゴンは空を舞うクロミツを追って、翼をはためかせた。


「GRUAAA!!」

「ガウゥゥゥ!!」


 二匹のドラゴンが戦場を空へと移した。

 ドラゴンは拳、牙、尻尾、あらゆる武器を使ってクロミツを落とそうとする。

 しかし、クロミツはその全てを避けて、カウンターのようにドラゴンへ攻撃を食らわせていた。


 空を飛ぶドラゴンたちの戦闘をコントロールするのは、二匹のさらに上空を飛ぶハムスターの目と地上で冷や汗を流している人間だ。

 夏樹は両目を開けながらも、虚空を見つめるように焦点があっていない。


(僕を含めて三つの視点からの情報を処理するのはキツイ。だけど、僕がミスったら傷つくのはクロミツだ。なんとしてでも、攻撃を避けきらないと……!!)


 夏樹には三つの視点が見えている。夏樹、チュー助、クロミツの視点だ。

 今までチュー助と二つの視点を利用することには慣れているが、それに一つ追加されるだけでも処理する情報は爆増していた。


 例えるなら、一つのパソコンで三つの高グラフィックゲームを起動しているようなモノだ。

 そんなことをしたら、CPUが熱暴走をしてぶっ壊れてしまう。


 現に夏樹の脳みそは危険信号を発している。だらだらと冷や汗が流れて、寒気が止まらない。

 今にもぶっ倒れそうなのを、気力だけで耐えていた。


「ヒール」

「……心海さん。逃げてなかったの?」

「馬鹿にしないで。友だちを置いて、逃げるわけないでしょ」


 心海は夏樹に手をかざして、回復魔法をかけてくれている。

 本来ならば回復魔法は傷などを治すものだが、不思議と夏樹の気分が楽になった。


「ヒールは頭や心の疲れにも、ちょっとは作用するから楽になったでしょ?」

「うん。ありがとう」

「本当は無理して欲しく無いんだけど……あなたは言っても聞かなそうだから、こうやって支えてあげる」


 心海のおかげで、さらに視界がクリアに見える。

 夏樹にはドラゴンの動きが手に取るように分かった。

 ドラゴンへの理解は、クロミツが攻撃を避ける効率に繋がり、効率的に避ければ攻撃のチャンスが増える。


「ガウ! ガウ! ガウウウ!!」

「GURAAAA!!」


 ドラゴンの攻撃は一切クロミツに当たらない。

 なのに、クロミツの攻撃はドラゴンに必中する。ドラゴンが避けようとすれば、それを察知したようにクロミツの攻撃が変化する。


 今のクロミツは、ゲームで言えば回避率と命中率が爆増しているような状態だ。

 絶対に攻撃は避けられるのに、クロミツの攻撃は確定でクリティカルヒット。

 まさに無敵状態である。


「G、GRUUUUU……」


 ドラゴンもそのことに気づいたのだろう。

 悔しそうに歯噛みして、クロミツを睨みつける。

 このままでは負ける。それを察知したドラゴンは、打開策を探るように目をキョロキョロと動かした。

 その目線は、地上に居る夏樹たちに止まった。にやりと笑うように、ドラゴンの口が尖った。


「ッ!? マズい!!」


 ドラゴンは一気に急降下。クロミツも後を追うが、追いつかない。

 ズドン!!

 ドラゴンは夏樹たちの目の前に降り立つと、腕を振り上げた。


「心海さん、逃げて!!」

「友だちは置いていけないって、言ったでしょ!!」


 そもそも、逃走が間に合う距離じゃない。

 ドラゴンの拳が風切り音を縦ながら夏樹たちに迫る。

 ズガン!!

 拳の軌道が逸れた。夏樹たちの前には、英里が立っていた。その手には剣がキラリと光る。

 ドラゴンの攻撃を剣撃によって逸らしたのだ。


 英里はだらりと腕を下ろす。からりと剣が転がった。

 ドラゴンの一撃を、学生が逸らすのは無理があったのだ。

 英里の腕は折れていた。


「もう一度は無理だから……決めてね」

「ッ!? クロミツ!!」

「ガゥゥゥゥゥ!!」


 ドラゴンを追っていたクロミツの口から光がこぼれる。

 狙いはドラゴンの背中。一度ブレスを当てた場所。

 鱗のない背中に、ドラゴンを守る物は無い。


「ガウウウウウ!!」


 空から閃光が落ちた。

 光の柱はドラゴンを貫くと、小さな爆発を引き起こして砂ぼこりを上げた。


{GRUAAAAAAAAAAAAAAA!?」


 ――ズシン。

 背中を貫かれたドラゴンは、ばたりと力なく倒れた。

 夏樹たちの勝利だ。

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