裏庭にドラゴンが住み着いた~ぼっちテイマーはドラゴンと青春を無双する~
こがれ
第1話 裏庭にはドラゴンが居る
「君、足手まといなのが分かってるよね?」
太陽が当たらないひんやりとした校舎裏に、冷たい声が響いた。
「ご、ごめん。だけど、僕も頑張るから――」
「頑張るって何を頑張るの? 君に出来ることって、ネズミを使って斥候をするくらいでしょ? 斥候くらいは誰でも出来るの。それしか出来ない君は要らない」
「……」
なにも言い返せなかった。
実際に『テイマー』に出来ることなんて、ペットを使った斥候くらいだ。
「先生に頼まれたから、一人ぼっちの君をパーティーに入れてあげたけど失敗だったね。さようなら」
彼女は冷たく言い放つと、長い黒髪を揺らしながら振り返った。
待って欲しい。もう少しだけチャンスが欲しい。
そう叫ぼうとして――ピピピピ!!
「……嫌な夢を見た」
『
悪夢を見たせいか、ジットリとした嫌な汗をかいてしまった。シャツが張り付いて気持ちが悪い。
夏樹はシャツをバタつかせて汗を乾かす。空気が肌に流れてひんやりとした。
(……本当にあれが夢の出来事だったら良かったのに)
ため息を吐きながらベッドから降りて自室を出る。朝から憂鬱だ。学校にも行きたくない。
こんな日は朝日を浴びて気分をリフレッシュさせよう。
一階のリビングに出ると、裏庭へと続くカーテンを勢いよく開けた。
この時間帯は綺麗な朝日が――
「がう?」
朝日の代わりに、黒いドラゴンが顔を覗かせた。
「……なんでドラゴンが居るの!?」
どたん!
夏樹は尻もちをついて、じりじりと後ろに下がった。
腰が抜けてしまった。
なにせ、朝起きたら目の前にはドラゴン。誰もが知る最強のモンスターだ。
戦後の混乱が落ち着いたころ、初めて日本にダンジョンが出現した。
ダンジョン内には未知の物質と未知の生物――モンスターが溢れていた。
モンスターとは『特殊な力』――『魔法』を操る生物たち。
ダンジョンから出てくることも多く、そのたびに警察や軍が慌てて対処していた。
しかし、ダンジョンは日に日に出現数を増やして、対処してもしきれなくなる。
そこで、当時の日本政府は、ダンジョンから持ち帰った技術によって『スキル』と呼ばれる力を開発した。
この力を国民全員にいきわたらせることで、モンスターと戦う力を普及させて、なんとかモンスターによる災害は鎮圧できるようになっていった。
だが、スキルによってモンスターと戦える人が増えた現代においても、ドラゴンは超危険なモンスターと認識されている。
固い鱗は戦車の砲撃も耐え、巨大な翼で空を制する。そして口から吐き出されるブレス攻撃はビルを貫くほどの貫通力。
まぎれもない最強生物だ。
「こ、こういう時は警察に連絡……いや、その前に俺が食われる……!?」
ドラゴンは雑食性。口に入る食い物なら、なんでも食べてしまう。もちろん人間だって例外じゃない。
ドラゴンは今にもガラス戸をぶち破って、夏樹に襲い掛かる――ような感じじゃない。
「……なんか、思ったより大人しい?」
夏樹はドラゴンを刺激しないように、そっとガラス戸へと近づく。
ドラゴンは大きな首を捻って、不思議そうに夏樹を見つめていた。
なんだか動物園みたいだった。
「がう?」
「もしかして、お前って大人しいドラゴンか?」
「がうがう」
「……言ってる意味が分かってんのか?」
夏樹が質問をすると、ドラゴンはうんうんと頷いた。
一般的に、ドラゴンは賢い生き物とされている。人間で言えば、小学生くらいの知能があるらしい。
テレビの動物番組で言っていた。
「それじゃあ、襲わないでくれよ……」
カラカラとガラス戸を開けるが、ドラゴンは襲ってくる気配もない。
改めて見ると、目の前のドラゴンは小柄だった。
テレビやネット配信で見るドラゴンは丘のように大きい化け物ばかりだ。
しかし、目の前のドラゴンはせいぜい小さめの自家用車くらいの大きさだ。馬より一回り大きいくらいである。
「小さい種族なのか……まだ成長途中なのか……。まぁ、どっちでも良いか」
夏樹には、なぜドラゴンが小さいかなんて分からない。
あっさりと思考を放棄する。
「それで、なんで家の庭に居るんだよ?」
「がうぅ……」
「翼がどうかしたのか? もしかして、折れてるのか?」
ドラゴンが翼を気にしているのでよく見ると、真ん中の辺りで不自然に曲がっていた。
もしかしたら、骨が折れているのかもしれない。
ドラゴンは翼にある器官で、魔法を発動して飛ぶ。その器官が傷ついてしまったのかもしれない。
「翼が折れて落っこちちゃったのか?」
「がう」
ドラゴンは『そうだ』と言うように頷いた。
「そうか……悪いけど俺も回復魔法とかは使えないからなぁ……」
「がうぅ……」
ついでに、保険適用外のドラゴンを病院に連れて行ける金も無い。
「回復魔法を使える友だちでも居たら頼めたんだけど……俺って友だちも居ないから……はは……」
「がう?」
友だちの価値はプレイスレス。困った時に助け合える友人関係って良いよね。
夏樹にはそれが居ないのだが。
夏樹が渇いた笑いを浮かべると、ドラゴンは慰めるように夏樹を舐めた。
ぺろりと頬を舐められる……ちょっと臭かった。
だけど、夏樹を慰めてくれるのはドラゴンだけだった。
「慰めてくれるのか? ありがとうな」
「がうがう」
「翼が治るまでは裏庭に居ても良いからな……」
などと話していると、『ぐー』と獣の唸り声のような音が鳴った。
発生源はドラゴンのお腹からだった。
「もしかして、腹が減ってるのか?」
「がう」
「晩飯の残りと……カップ焼きそばくらいしかないけど食べるか?」
「がうぅ♪」
夏樹がご飯を提案すると、ドラゴンはぶんぶんと尻尾を振って喜んだ。
「よし、ちょっとだけ待ってくれ。今から用意するからな!」
「がうがう!」
その後、食事を用意するとドラゴンはぺろりとたいらげた。
特にカップ焼きそばがお好みだったようだ。
口の周りにソースを付けながら、ぶんぶんと尻尾を振る。
「おいおい、口にソースが付いてるから拭かせてくれ」
「がう?」
「もしかして、また食べたいのか? さっきので最後だから、今は我慢してくれ。また買ってくるから」
「がうぅぅ♪」
そうして、裏庭に落ちて来たドラゴンとの朝が過ぎて行った。
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