狐の嫁入り
凛道桜嵐
第1話
くるりん くるりん くるりんぱ
くるりん くるりん くるりんぱ
狐の嫁入り くるりんぱ
天気が良くても雨が降る
くるりん くるりん くるりんぱ
狐の左目に気を付けろ
全ての罪がバレちまう
狐が来たら殺してしまえ
そしたら全部無かった事に
くるりん くるりん くるりんぱ
狐の左目潰せ
狐の身体を引きちぎり
罪を隠せ隠せ くるりんぱ
傘を持った少年が不気味な歌を歌う、俺は何だこの物騒な歌はと思いながら傘をくるりんと回す少年の事を見ていた。
俺の視線に気付かない少年は雨の中チャプチャプ水溜まりの中を長靴で歩いている。
少年がいなくなると公園は静かな雨音だけになる。
「は~」
と溜め息が出る。
俺は今日会社をクビになった。
原因は人間関係だ。
上司が何でも仕事を押し付けてくる人で自分は定時に上がるのに下っ端の俺は残業しないと仕事が終わらない。
しかも毎日残業していたら上司から上からの指示でこれ以上残業するなと言われ、仕事は家に持ち帰ってするようにと言われた。
俺は我慢が出来ずに
「じゃあ、先輩が仕事をもっとしたら良いじゃないですか!俺にばかり仕事を振り分けて、自分は定時に上がるなんて変ですよ!」
と言ってしまいクビになった。
まあ多分上司は何かと理由を付けて前々から俺を辞めさせたかったに違い無い。
異動も出来るがどうする?と言われたがこんなクソみたいな上司がいるような会社で働き続けるのは嫌だと思い自主退職した。
「これからどうするかな~」
と煙草に火を付ける。
今の部署に異動になってから吸い始めた煙草は苦いがどこか頭がボーとしてストレスが軽減出来て癖になりつつある。
何でこんな公園で一人寂しく煙草なんて吸っているんだろうと思うが雨が降っている中傘無しで歩くには少しキツく、そのまま歩いて帰ったらきっと雨でスーツがびしょ濡れになるだろう。
きっとすぐに止むに違い無いと思いながらかれこれ数十分以上経っている。
どれくらいで止むのだろうか、そう思っていると
「雨宿りですか?」
と声を掛けられた。
俺はビックリして
「え!あ、はい!」
と裏声で答え声を掛けて来た方に顔を向けると金髪の長い髪を一つに括った人が立っていた。
水色の着物を着てその人の周りだけどこか時代が違うような、せわしない東京の中にこんなレトロでゆったりした人がいるなんて俺は夢でも見ているのかと思った。
「そうですか、もうすぐ止むと思いますが一緒に雨宿りさせて頂けませんか?」
そう微笑む人の両手には大きな荷物があり、肩に傘を引っ掛けて後頭部で傘を支えていた。
「荷物このベンチに置いて下さい。」
と言って俺は座って居たベンチから立ち上がりどくと
「まあ、ありがとうございます。申し訳ありません。こんなに買い物すると思っていなくて。」
と荷物を置いてこちらを見ると、その人の左目は黄色く右目は青く色白でとても美しい顔立ちだ。
俺は少しホウッと心がときめくような感じがした。
「ご親切に座る場所を譲って頂いて。」
とベンチに荷物を置き傘を畳むと一重でつり目でとても美人な顔で俺を見ながらお礼を言ってきた。
「いえ俺は別に・・・」
謙遜なんかじゃない、本当に何もしていないのだ。ただ席を譲っただけで感謝されるとは。
「荷物が置けてスッキリしました、有り難うございます。」
「いえ・・・・」
俺は気まずさから煙草を咥える。すると
「ゲホゲホゲホ」
と咳き込む声がした。俺はビックリしてその声がする方を見ると美人な顔を歪ませながら咳き込む姿が見えた。
「すみません、煙草苦手でしたか?」
「すみません、家で吸う者が居ないので慣れていなくて・・・・咳き込んでしまってすみません。」
「いえいえ、俺こそ気を遣う事が出来ずすみません。」
とペコペコとお互い頭を下げる。
「あの、お名前なんて言うんですか?」
俺は煙草を消しながら気まずい空気を消したくて聞くと
「私の名前は絹花(きぬは)と申します。」
「絹花さん・・・綺麗な名前ですね。」
「ありがとうございます。貴方のお名前は?」
「俺は優緋(ゆうひ)と申します。」
「優緋さん、格好いいお名前ですね。」
「本当ですか?初めて言われました。」
「そうなんですか?優しそうで格好いい名前ですけれど」
「有り難うございます。とても嬉しいです・・・あ、雨段々小ぶりになってきましたね。」
「本当ですね、先程までとは大違い。こういうの狐の嫁入りって言うんですよね。」
「え?」
「こういう晴れているのに雨が降っているのを狐の嫁入りとも言うんです。」
「へ~知らなかった。」
「これくらいの雨なら帰れますね。よいしょ」
と絹花さんは大きな荷物を一つ持とうとした。
俺はもう少し絹花さんと話がしたくて
「荷物一つ持ちますよ。」
と咄嗟に言った。
「え、でもこれからお仕事とかじゃないんですか?」
「俺今日クビになったんです。」
「あら!失礼な事を聞いてしまってすみません。」
「いえ、俺が意地張って辞めただけなので」
「いえいえ、じゃあもし宜しければ私の家でお茶でも飲みませんか?」
「良いんですか?是非!」
その時雨は完全に上がっていた。
「え、絹花さんって男の人なんですか?」
俺は飲んでいたお茶が気管支に入り、むせそうながら聞く。
「何を勘違いして来たのやら。」
とはぁ~と溜め息を吐くのは絹花さんの家に一緒に暮らしている楓莉(ふうり)だ。
彼は五歳ながらにして家事全般をこなしているらしい。
絹花さんに案内された家は普通の住宅街に建つ古びた家で他の家とは違って古風だった。
また真裏には神社が建っていた。
玄関を開けようとすると中から可愛らしいオカッパ頭の楓莉君が出てきて、てきぱきと荷物を受け取っては足継ぎを使って背伸びをしながら冷蔵庫にしまったり、戸棚にしまったりしていた。
「この子は絹花さんのお子さんなんですか?」
と聞いた途端楓莉君が俺の所に戻ってきて
「絹花さんに一目惚れでもしたんですか?」
「いや、俺は・・・・」
と顔が赤くなるのと同時に
「絹花さんは男の人ですよ。」
と再び言って来て呆気なく俺の恋は砕け散った。
「はあ~」
と溜め息を吐くと
「人の家に来てから何度溜め息吐くつもりですか?そんなに絹花さんが理想なタイプでしたか?」
「そりゃ~確かに美人だなと思ったけれども・・・」
「単純な男ですね。僕は貴方みたいな大人にはなりたくないです。」
子供だからなのかグサッと来る言葉をぶつけてくる。
子供は純粋無垢だが、楓莉君位の歳の子は言葉の善悪を分からないでぶつけてくる。
「最もです・・・返す言葉もありません。」
と俺は俯くと絹花さんがお茶と小皿を持って来て
「こらこら楓莉、優緋さんを虐めてはいけませんよ。優緋さんこのみたらし団子とても美味しいので是非食べてみて下さいな。」
「・・・良いんですか?」
と楓莉君にケチョンケチョンに言われた事で涙目になりながら聞くと、絹花さんは優しい眼差しで
「ええ」
とにっこり笑いながら頷くので俺は一口お団子を口に含むと甘くてとろっとしてお団子もモチモチと食感が良い。
「何これ・・・うまい」
「でしょ?お口に合って良かったです!」
「これ何処で売っているんですか?」
「お店ですか?」
「はい!俺この団子ハマりそうです!」
「それは良かった、ここで作っているんですよ。お店ではありませんが。」
「ここで?」
「はい、趣味でお菓子作りをしているんです。」
「絹花さんが作ったんですか?」
「ええ、豆大福や草餅とかも作っていますよ。」
「全部一人で作っているんですか?」
「基本は私が作っていますが、楓莉も手伝ってくれるんです。今挑戦中なのがみたらし団子なんです。」
「へえ~、楓莉君も手伝っているんだね。凄いね。」
キッチンでガサゴソしている楓莉君を見ながら言うと
「べ、別に僕は絹花さんの手伝いしているだけですから。」
と照れくさそうに鼻の先を掻いている。
可愛いところあるじゃん、と思っているとふと疑問に思った事がある。
「どうして和菓子を作ったりしているんですか?」
和菓子好きならあるあるなのかもしれないが、手間が掛かる食べ物を何度も挑戦するなんて少し変な話だ。
「実はここ子供を預かる施設なんです。その子達と一緒にお菓子を食べる為に作っているんです。」
「施設?」
「ええ、非行に走った子や居場所が無くて困っている子が一時的にここに泊まって衣食住を共に一緒に過ごすんです。」
「それはトーヨコって呼ばれている子達とかですか?」
「ええ、そうです。NPO法人の方々がここに連れてきて一緒に暮らすんです。」
「それは凄く大変そうな仕事ですね。」
「いえ、私がしたくてしているので、それに皆さん偏見を持たれていると思うのですが、ここに来る子達は全員やりたくて非行に走っている訳では無くてそれしか方法が無いから非行に走るんです。」
「なるほど。・・・・居場所が無いと言えば俺も住む場所無くなっちゃうんだった。」
「どういう意味ですか?」
「実は俺の住んでいる所社宅でして、クビになったので出て行かないといけないんです。」
「まあ!それは大変ですね!」
「どうしよう、仕事も見つけられていないのに住む場所も無くなったら俺本当に路上で生活する事になっちゃう。」
「まあまあ!それは大変!・・・・もし良かったら私達のお手伝いとして住み込みで働いてみませんか?」
「絹花さん!」
話を黙って聞いていた楓莉君が大きな声で呼ぶ。それを制するように絹花さんは小さい声で楓莉君を諭す。
「楓莉、この人は悪い人ではありませんよ。」
「でも!!」
「私が大丈夫と言えば大丈夫ですよ。楓莉もそれは分かるでしょ?」
「でも、俺達の秘密が・・・・」
「大丈夫、受け入れてくれますよ。」
「そうでしょうか。」
「ええ、大丈夫。時が来たら告げれば大丈夫ですよ。それに何かあった時に優緋さんなら
力があって守ってくれますよ。」
とヒソヒソこちらには聞こえないような大きさの声で楓莉君と絹花さんが話している。
俺は何を話しているのか耳を澄ませてみたがボソボソという音でしか聞こえずハッキリとは聞こえない。ただ絹花さんが楓莉君を説得しているのは分かる。
俺でもそうだ、今日初めて会った人に住み込みで働くだなんて普通は考えられない。
俺がもしかしたら悪い人かもしれないのに・・・・
その時にふと思い出した。
さっき公園で歌っていた音楽を
くるりん くるりん くるりんぱ
くるりん くるりん くるりんぱ
狐の嫁入り くるりんぱ
天気が良くても雨が降る
くるりん くるりん くるりんぱ
狐の左目に気を付けろ
全ての罪がバレちまう
狐が来たら殺してしまえ
そしたら全部無かった事に
くるりん くるりん くるりんぱ
狐の左目潰せ
狐の身体を引きちぎり
罪を隠せ隠せ くるりんぱ
もしかしたら絹花さんや楓莉君に関係する事なのかもしれないと思ったが、今更狐が化けて人間になっているだのバカバカしいと思い、ただの偶然だと思って俺は気にしないことにした。
絹花さんと知り合って二日後俺は荷物を持って絹花さんの家にやって来た。
「ふーこれで荷物全部です。」
俺は絹花さんの家の二階にある一部屋を借りてそこに住みこみで働く事になった。
仕事を失い、住む場所も失った俺からしたら棚からぼた餅という程ラッキーな提案だった。
絹花さんと楓莉君の事はあまりまだ分かっていないがそれは彼等も同じで俺の事を分かっているかと聞かれたら、まだそんなに日にちも過ごした時間も無いから分からないだろう。
「これで最後ですか?」
と枕を持って来てくれた楓莉君に俺は楓莉君の頭を撫でながら
「ありがとう、これで最後だよ。」
「気安く触らないで下さい、それに枕ならここにもあるのにわざわざ持って来たんですか?」
「いや~俺枕が変わると眠れない体質で」
「そんな体質興味ないです。聞いて損しました。何かこの枕に秘密があるのかと思ったのに・・・」
楓莉君はしっかりしているように見えて大人の人と勘違いしやすいが、五歳児ながらの好奇心や探究心、それに本当は甘えん坊という所があって憎たらしい事を言っていても実際はこう言いたいんだろうなと頭の中で変換するととても可愛くて仕方ない。
絹花さんは見た目がとにかく美しい。
天女ってここに居たんだという位とても美しい。
同性愛者では無いが絹花さんは特別に感じる。
ただどこか秘密を隠しているようで少し距離を感じる時がある。
俺が昨日みたらし団子のタレを作っている時分からない事があったので、絹花さんに聞こうと思って肩を叩いたら凄い悲鳴を上げてその場で腰を抜かしてしまった。
俺は何か悪い事をしたのかと思ってすぐに謝ったが、絹花さんは
「すみません、急に触られてビックリしてしまって」
と言って本当に土下座でもするくらいに謝って来たので、何か訳がありそうだなと俺は思っている。
そしてここにはもう一人住んでいる人が居る。
まだ会った事は無いのだが今日の夕飯には帰って来ると連絡があったみたいで俺は少しドキドキしている。
理由は女性だと聞いたからだ。絹花さんに劣らない位美人だと楓莉君から聞いている。
ただ、性格がやっかいとは言っていた。
性格がやっかいとはどういう事なのか想像が出来ないが、俺は絹花さん並みに綺麗な子に出逢えるのが本当に嬉しかった。
そう考えながら段ボールに入っていた荷物を整理しているとドタバタと音が下の部屋で聞こえてくる。
何の音なのか気になって下の階に行ってみると
「どういう事ですか?知らない男性を家に上げるだなんて!子供ならまだしも大人を匿う程お金の余裕無いじゃ無いですか!」
「絢都(あやと)静かになさいな、聞こえてしまいますよ。」
「いいえ、私は黙りません!」
俺は聞いてはいけない会話をしているのに気が付いて部屋に静かに戻ろうとしたが、ギギと階段の音がして二人に気付かれてしまった。
「盗み聞きとは良い度胸だな。」
今にも殴り掛かってきそうな女性に俺はおののく事しか出来ずその場にへたり込んでしまう。
「何か言いたい事があるなら言ったらどうだ?」
「いえ、俺は何も。」
「・・・・・はあ~この調子なら絹花さんに何かしようとかこの家の物を盗むだなんて出来そうにないね。」
「でしょう?だから大丈夫ですって言ったのにこの子は全く・・・優緋さんもすみませんね、大きな声で話していただけじゃなくて驚かせてしまって。」
「いえ、俺は別に・・・・それよりもこの人は。」
俺はへっぴり腰になりながら聞くとさっきまで殴りかかってきそうだった女性が
「私の名前は絢都。警察官をしている、何か絹花さんに危害でも加えようなものならすぐに逮捕してやるから覚悟しとけ。」
と黒いスーツのズボンの所から警察手帳を出しながら見せてくる。
そこには鈴村絢都(すずむら あやと)と書かれていた。
「もしかして、ここにもう一人住んでいるって言う人って」
「私だね。」
「えーーーー!!!」
俺は今度こそ腰を抜かした。
さっきまで絹花さんみたいな綺麗な女性に会えると思っていたのに、まさかこんなヤンキー風な人に会うだなんて。
確かに顔をちゃんと見れば目がクリッとしていて可愛い系ではあるが、さっきまでの態度とかを含めると怖い人としか思えない。
「なんだ、大声出して」
と短気なのか少しの事にも舌打ちをしてキレてくる。俺はすぐに大声を止めて
「いや、楓莉君から聞いてた内容と違う人物だったからビックリして」
「違う人?」
「美人だけれど、性格が厄介とは聞いてて。」
「あ~、私も昔は悪さしててな。まあ所謂ヤンキーみたいな感じだな、それで絹花さんにお世話になって絹花さんを守れるくらい強くなろうと思って警察官になったんだ。」
「へ~今でもヤンキー感は消えてないですけれど。」
「何だって?」
「いえ、何でも無いです!!」
「まあ、私はなんと思われても気にしないけれど本当に絹花さんや楓莉君を傷つける事があったら許さないんで。」
「はい!絶対そんな事はしないんで大丈夫です!!」
「まあ、絹花さんが見て悪い奴だったらすぐに私に連絡くれると思うけれど、それが無かったんで大丈夫だと思うけどね。」
と意味ありげに言うので気になったが絹花さんが遮るようにして
「皆集まった事だし、夕飯でも食べませんか?」
「あ~、お腹ペコペコなのでありがたいです。」
「え、あの、俺聞きたい事が・・・」
「それは後々分かってくると思うんで今はご飯でも食べましょう!」
と絢都さんに肩を組まれて俺は部屋の奥に連れてかれた。
「ふー、今日は食べすぎた。」
俺は自分の部屋に戻って床に大の字になって寝ながら今日の事を振り返っていた。
絹花さんは十年前からこの仕事をしており、楓莉君も居場所が無くて保護施設に入るも虐めに遭い家出をしこの家に辿り着き居座るような形でここに住んでいるらしい。
五歳児ながらにしてしっかりしていると思ったがそんな暗い過去があるだなんて知らなかった。
絢都さんは自分でも話していた通りヤンキーの時代があった。
実家はあるはあるが父親からの性的暴力を受けていて父親から逃げる為に夜は友人達と過ごすようになったと言う。
何事も無いかのように話す絢都さんの姿を見て俺は泣きそうになった。
絢都さんは俺が泣きそうになったのが分かったのか、泣くなと一言言って
「私は同情して欲しくて言っている分けじゃない、ここに来る子達はそれなりに訳があって来ている子が多い。これから今現在戦っている子達と対面した時の為にもそういう世界があるって言う事を頭の片隅に置かなくてはならない。分かるな?」
と真剣な眼差しで俺に言って来た。
俺は頷く事しか出来ず目から溢れてくる涙を袖で拭って聞いていた。
俺はつくづく平和な環境で生きてきたなと思った。
実家の両親はお金持ちという訳では無いが平凡な家庭で両親は共働きだったが、兄が居てくれた事もあり一人で過ごす時間が極端に少なかった。
兄は二つ歳上で優しく聡明であった。
医学部に受かった時は自分の事のように嬉しかったし、両親は俺にも同じ大学に行くように等は絶対言う人達では無かったので好きな大学に行かせて貰って居たし。
洋服も兄のお下がりだったが、兄のファッションセンスは特に良く大人っぽい服装を貰っては友達に自慢するように着ていた。
俺はこんな平凡な家庭で育った一方絢都さんや楓莉君のように居場所が無い人達も居るのだと思うと、胸がきゅうっと絞られる感じがして痛い。
「トントントン」
と襖を叩かれる音がする。
俺は寝そべっていた身体を起こして
「はい」
と答えると
「少し話したい事があるから扉開けて良いか?」
と絢都さんの声がする。
俺はすぐさま正座をして構えていると
「なんで部屋の真ん中で正座?」
と笑われた。
「いや、何か何言われるか怖くて。」
と素直に答えると
「ハハハ!!そんな真面目に考えなくても取って食ったりしないさ。」
「そうだけれど・・・・」
「いやな、今日意味ありげのままで話が終わったから気になっているんじゃないかと思ってな。」
「え?」
「ほら、絹花さんがどうしてこんな施設を経営しているのかとか。」
「確かに気になります。」
「まあ、長くなるから部屋の中に入れさせてくれ」
「ええ、勿論。座って聞かせて下さい。」
と言うと部屋の隅に俺は移動し絢都さんが部屋のど真ん中に胡座をかくように座った。
「絹花さんは昔お屋敷に住んでいたんだ。」
「お屋敷?」
「ああ、お金持ちのボンボンって感じでな。その家も変わった家で絹花さんは学校に行ったりとか出来なくて家にずっと閉じ込められていたんだ。
絹花さんは毎日ランドセルを背負った同じくらいの歳の子達が学校に行くのを見ては羨ましいと思っていたそうで、一度だけ抜け出してその子達に声を掛けたみたいなんだ。
しかし、髪の毛は美容院に行っていない為伸ばしきった髪に細い細い腕と足で白いスカート履いていたらお前ならどう思う?」
「・・・・幽霊かと」
「だろう?その子達もそう思ったんだろうな、悲鳴を上げて逃げて行ったそうだ。それから自分の姿は人を驚かせてしまうと気付いた絹花さんはこんな生活は変だと気付いたらしくて母親に自分も学校に行きたいと言ったそうだが、学校という言葉を知っているというだけでも親は誰がそんな単語を教えたんだ?って怒り狂ったらしくて、怖くなった絹花さんは本から学んだと。本当はその屋敷に出入りしているお手伝いさんが教えてくれたのを嘘を吐いて言ったら、その本を目の前で破りビリビリにした後マッチで火を付けて燃やしたそうだ。それから絹花さんは逆らうことが出来ず過ごして居たそうだが、ある日事件が起きたんだ。」
「事件。」
「あれは絹花さんが二十歳の時、両親を含めて屋敷の者が全員殺された。」
「え」
「殺した犯人は、今は裁判所で死刑の判決を受けて刑務所に居るが、絹花さんはその時の事を今でも夢でみるらしい。」
「その犯人は何で絹花さん一家を殺したんですか?」
「それは雇われたとしか答えなくてな、私も何度か書類を読んだが誰に指示されたのか最後まで言わなかったそうだ。ただ、絹花さん一家に対して恨みを持った人の犯行だろうと警察は判断している。ただ、一つ疑問なのが絹花さんだけが助かった事だ。それを調べているうちに一つの事が分かった。それは」
「それは・・・・」
「それはその犯人は絹花さんと同い年で絹花さんが昔声を掛けた少年の一人だった事だ。只の偶然だったんだろうが絹花さんの姿を見て犯人は何かをする訳でもなく、ただお辞儀をして逃げていったと当時の絹花さんは警察に話していた。」
「何でお辞儀なんて・・・」
「犯人は警察に対して昔酷い事を言ってしまったから謝っただけだと答えたそうだ。それで一人になった絹花さんは保護されたもののすぐに施設を出た絹花さんは住んでいた家を売り払って残った財産を持って今のこの家を買ったそうだ。」
「どうして俺にその話をしてくれるんですか?」
「ここに住む以上最低限の事は知っていても良いと思って。」
「絢都さんはどうしてここに来たんですか?」
「私か?私は渋谷で今で言うパパ活だなそういうのをしていて警察に未成年という理由で保護されてな、何度か家に帰させられたが家出を繰り返しその時にふと辿り着いたのがこの家で家の中からご飯の良い匂いがするからそれに連れられてフラフラ土地に入ったら絹花さんに見つかって保護されたって言うのが始まり。」
「絹花さんは子供達を見ているって言ってましたけれど、今は誰も泊まってないですよね?」
「ああ、この間までは一人男の子が居たんだが里親が決まってな今は新しい両親の元で暮らして居ると聞いて居る。」
「なるほど」
「他に聞きたい事は?」
俺は正直に俺に何か隠している事があるんですよね?と聞きたかったが今はその質問をしても答えて貰えないと思って
「あのどうして俺なんかを受け入れてくれたんでしょう?」
絢都さんは少しビックリした顔をして
「そうきたか・・・いやこっちの話だ。それは絹花さんしか分からないな。絹花さんがお前に優緋に何かを感じて連れてきたんだろう。これも運命だよ。」
「運命」
「ああ、絹花さんが良く口にする事でな。世の中の縁は運命で必然なんだと。よく私には分からないが出会いは全て必然で何か理由があって人と出会い結ばれるって絹花さんはよく言っているんだ。」
「必然。」
「ああ、だからなのか連れて来た子達も何かの理由があってここに呼ばれて来たんだってね。少しオカルト的な考えだろ?」
「確かに。少し宗教的な考えですね。」
「だろう?ただ絹花さんはそう信じているんだ。」
「絹花さんらしいって感じですね。」
「昨日、今日だけでもそれは分かるだろう?」
「はい。」
「それにな、絹花さんは物を一つ一つ大切に扱う所があってな。」
「物ですか?」
「そう、物。小物のでも心があって雑に扱えばその物が夜中に泣くってよく言っているから今度耳を澄まして聞いてみろ。新しく子供が入ってきた時にきっとその話をすると思うから。」
「何で俺にはされなかったのでしょう?」
「それはもう大人だからだろう?」
「そうなんでしょうか。」
「もし言って貰いたいのであれば頼んでやっても良いぞ?」
「いや!そんな恥ずかしい事頼めませんよ!」
「そうか?遠慮なんてしなくて良いのに。」
「全力でお断りします。」
「ちぇ、つまらん奴だな。」
「絢都さんって意地悪な人ですね。」
「ハハハ、優緋が揶揄いやすいだけさ。」
そう言ってお休みと言って絢都さんは部屋から出て行った。
俺はまた大の字に寝ると色々考えた。
今聞いた絹花さんの過去、絢都さんの過去。
俺には想像出来ない過去がこの二人は経験している。
そして五歳児なのに辛い経験をしてここに住む楓莉君も。
俺は普段なら毎日使っている枕が無ければ眠れないのにこの日だけは深い深い眠りについた。
「今日からここが貴方の家ですよ。」
俺が引っ越してから数日後NPO法人の人が少女を連れて来た。
絹花さんと俺と楓莉君で迎えた。
ムスっとした顔で挨拶もせず俺らを睨み付ける様子から見て手強そうな子だなと思った。
「初めまして、絹花と申します。この子は楓莉、そして絢都さんです。これから一緒に暮らす家族です。そしてもう一人絢都という子も一緒に暮らしています。」
「・・・・」
「こちらが居間でしてここで食事を皆でとります。嫌いな食べ物とかアレルギーとかありますか?」
「・・・・・」
無視を貫き通しているのかムスッとした表情を変えない彼女に絹花さんは優しく
「苦手な物がありましたら避けて食べて下さいね。」
と言った。
「そういえばお名前なんて言うんですか?」
と楓莉君が聞いても無視。俺はその態度が気に食わなくて少し苛立って来た。
何をそんなに不満で他者を睨み付けているのか。
「・・・・・・つ」
「え?」
「律。」
「律さんって言うんですね!僕の名前は楓莉です!」
五歳児の素直な質問に負けたのか、楓莉君の質問には少女は答えた。
「知っている。さっき聞いた。」
「律さんは嫌いな食べ物とかないんですか?僕はピーマンが嫌いです。」
「嫌いな食べ物はグリンピースとキノコ類。」
「グリンピース僕も嫌いです。」
「さっきピーマンって言って無かった?」
「聞いて思い出したんです。」
「フフフ、そう。」
言葉は少ないが楓莉君に対しては素直に答える。
絹花さんはその様子を見て少し微笑みながら
「律さん、今日は何が食べたいですか?」
と聞くとまたムスっとした顔になって無視をする。
楓莉君がすかさず
「絹花さんは怖い人じゃないですよ。」
「怖いとか怖くないとかで話したくないとかじゃないから。私ここで暮らすだなんて認めて無いし。」
「でも、さっきのNPO法人の人達はここで暮らすって言ってましたよ?」
「それはあの人達が他の施設ではもう受け入れられないって言われたからここに連れて来たのであって、私は認めて無いから。」
「そうですか、でも絹花さんはとても優しいし綺麗だし美味しいお菓子も作ってくれますし、ご飯も毎日美味しいご飯作ってくれますし仲良くしておくべきですよ。優緋さんは特に何も無い人なので放置したら良いと思いますが。」
「ちょっと待って、なんで楓莉君俺に対してそんなに冷たいの?当たり強くない?」
「優緋さんは黙っていて下さい。でも、本当にここに住んでいる人達は全員意味があってここに居るのであって、この事を絹花さんは必然な運命だと言っています。」
「必然な運命?」
と律が聞き返す。
「はい、出会いも別れも必然で意味があってこの家に来たのだと神様が導いてくれたのだと考えると良いって僕に教えてくれたんです。」
「なんか宗教みたい。」
「宗教ではないですよ。ただ物事にはきっと意味があるって事を絹花さんは皆に伝えたいんだと思います。」
「へ~」
「それともう一つここの物を故意的に壊すことは禁止です。」
「何で?」
「物にも心があるからです。」
「心?」
「はい、物も雑に扱われたら痛いと思うので絶対に物を雑に扱わないで下さい。」
「雑に扱ったらどうなるの?」
「それは・・・・それは、優緋さんが泣きます。」
と楓莉君が俺の方を見て言う。俺は
「俺!?」
と驚いた声で聞き返すと楓莉君が満足そうな顔で頷いた。
その流れを見て安心したのか
「ま~あんた達が変な人達じゃないって事は分かった。私の名前は高杉律。年齢は十六。保護された理由は立ちんぼしてたから。」
「立ちんぼ?」
「楓莉にはまだ早い話だけれど、優緋さんも分かっていない顔をしているから説明すると新大久保にある公園で立っているとおじさん達が声を掛けてくれるの。それでお金の交渉をして一緒にホテルに行くって事。」
「お金は毎日どれくらい貰えるの?」
「さあ、外れを引くときもあるからね。ほぼおじさんは一万五千円で交渉してくる人多いけれど、こっちが強気に出ればもう少し高く交渉出来るよ。」
「それでそのお金は何に使うの?」
「ホスト。」
「ホスト?」
「イケメンなお兄さん達が沢山居るところ。」
「そこではどう過ごすの?」
「どう過ごすって言うと。子供に言うのは難しいな~ただお酒を飲むのが基本だからな~」
「お酒飲むのにそんなにお金が必要なの?」
「ホストってね通常の居酒屋と比べて飲み物一つでも高いんだ。だからそれを頼むのにお金が沢山必要なの。分かる?」
「なるほど、僕の全く知らない世界ですね。」
「五歳児は知らないままの方が良いよ。」
「そうなんですか?」
「大人の汚い世界だからね。」
「汚い世界。それでどのホストが推しなんですか?」
「五歳児なのに推しとか知っているの?」
「ええ、だって前に居た子もコンカフェ?にハマってて推しが居るって言ってたのでホストもそんな感じかな?って思って。推しって誰か特定の人物を応援する事ですよね?」
「そうだよ。まあ、でもその子も罪深い子だね、五歳児にそんな話するなんて。私も人の事言えないけれど。まあ、でも推しならこの人だよ。」
とサンリオのカバーケースに入ったスマホをピンクのリュックから取り出して写真を見せてきた。
「イケメンでしょ?」
「はい!とっても格好いいです!」
「でしょ~?流石楓莉君分かっているじゃん!」
「絹花さん!僕褒められました!」
とピョンピョンその場で飛び跳ねる楓莉君を絹花さんは優しく頭を撫でた。
「その彼とはどこでお知り合いに?」
と絹花さんが言うと
「立ちんぼしてた時かな。最初は客だったの、でもね私が惚れちゃって店に行くようになったんだよね。」
「へ~お客さんからそういう関係に発展するんだ。」
俺は思わず呟くと
「おじさんには分からないと思うけれど、そういうお客さんから始まってホスト狂いになる子多いよ。」
「おじさん?!俺まだ二十代ですけど。」
「私より歳上ならおじさんだよ。」
なんて生意気な子なんだと俺はカーと頭に来て文句の一つや二つ言ってやろうかと思った時に
「ただいま~」
と暢気に絢都さんが帰ってきた。
「へ~それでホスト通いになったんだ。ふ~ん」
警察官の絢都さんの前では少し恐縮したような様子の律はボソボソと話しながら今までの経緯を絢都さんに話した。
「軽蔑してる?」
と自嘲しながら言う律に絢都さんは夕飯のカレーを食べながら
「いや~、警察も力になれたら良いけれど男の人が未成年と知っていながら性的な行為を行って居たのなら現逮出来ると思うけれど、どうせ律は未成年である事を黙ってたでしょう?」
「なんで分かるの?」
「だってそういう子多いもん。未成年だって分かったらお客来なくなるからわざと未成年である事を黙っていたり、成人しているって嘘を言ったり。それにホストでも未成年なの言って無いからお酒飲めているんでしょ?」
「うん。」
「本当ならホストクラブも未成年飲酒で検挙出来るんだけれど、律はそれを望まないんでしょ?」
「うん。して欲しくない。」
「NPO法人も何を考えているのやら、ここに来たら警察官が居る事分かっているのに。遠回しに検挙してくれと言っているようなものなのに、律がそれを望まないならわざわざ問題にする事も出来ないしな~」
「なんでそんなに寄り添ってくれるの?」
「え?」
「普通の警察官ならこんな話聞いたらすぐに逮捕だ!とか検挙するとかお店に行くと思うんだけれど、どうしてそんな事をしないの?」
「どうしてって私も似たようなもんだったからかな。私も絹花さんに救われるまで渋谷で今で言うパパ活って言うのかなそういう行動していたし、ツイッター今で言うXでそういう人を探してお金貰ったりしてたからね。人の事を偉そうに如かれる程出来た人間じゃないのさ。」
「へえ~警察官でもそういう経験ある人が居るんだ。」
「居るよ。警察官になる人が全員良い事ばかりをやって来たわけじゃ無い。実際にお世話になった事ある子だって居るよ。それでなんで立ちんぼなんて始めたの?」
「それは・・・」
「言いたくなければ言わなくても良いよ。」
「うん、でもきっと何も無く立ちんぼしている人なんて居ない事皆分かっていると思うし。私の場合は親からの暴力。」
「親からの?」
「そう、お父さんが特に暴力をしてくるの。殴る蹴るは当たり前、それに性的にも。」
「性的にも暴力を受けているの?」
「うん。」
「それで逃げたくて立ちんぼしてたって事か。」
「うん。」
と神妙な顔でうつむきながら話す律に絹花さんが突然
「嘘は良く無いですよ。」
と言った。
「絹花さん?」
と俺が聞くと微笑みを崩さないまま優しく
「律さん、嘘は良く無いですよ。」
「嘘?」
「ええ、律さんは親御さんからそんな行動されていませんよね?」
と律に問いかける。律は絹花さんの方を見ながら固まって居る
「NPO法人の人から何か聞いたの?」
「いえ、NPO法人の人からも律さんが言ったような事しか聞いて居ません。」
「じゃあなんで嘘だなんて思うの?」
「見えるからです。」
「見える?何が?」
「貴方が、律さんが嘘を吐いた事が見えるからです。」
「そんな意味分かんない事で私を嘘つき呼ばわりする気?ねえ、絢都さんこの人変だよ。」
と律は絢都さんに縋り付くが絢都さんは律の手をゆっくり剥がしながら
「絹花さんは見えるんだ、人の悪行が。嘘を吐いていると言うのは本当なのか?」
「なんで絢都さんまでこの人の言う事を信じるのさ。」
「だから、絹花さんは見えるんだよ。」
「悪行がって事?意味分かんない!」
「律、今大事なのは嘘を吐いているのか吐いていないのかだと思うぞ。」
「嘘なんか・・・・」
「律。」
絢斗さんは真剣な眼差しで律を見る。
「何それ、気持ち悪い。」
律は立ち上がると玄関に行き外に出て行ってしまった。
「律!!!」
と絢都さんが追いかけて行ったが俺は動けないまま呆然としていた。
「絹花さんなんで嘘を吐いているって分かったんですか?」
と俺は絹花さんに聞くと
「私の左目は黄色いでしょう?これ生まれつきなんです。この左目には相手がどんな悪行を行ったのか、また行って居るのか分かるんです。今の律さんの話には嘘が含まれて居るのが分かったので言ったまでです。」
「嘘が見えるんですか?」
「というよりも、筋肉や呼吸の違いが鮮明に見えると言いますか。またその人が考えている事が分かると言いますか。例えが難しいのですが」
「うーん、いまいち分からないですけれど。何となくそういう悪い事が分かっちゃうって事で良いですかね?」
「ええ、そう理解して頂ければ嬉しいです。」
「楓莉君大丈夫?さっきから動かないけれど」
「はい、大丈夫です。優緋さんに心配されなくても僕は律さんが嘘を吐いていたことにショックだなんて・・・・・・」
と言うと目から大粒の涙を流し始めた。
「あらあら、そんなにショックを与えてしまったのですね。私のせいですね、ごめんなさい。」
と言いながらエプロンのポケットに入っていたハンカチで楓莉君の涙を拭いてやった。
「絹花さんのせいじゃないです。ただ、嘘だったんだって思ったらさっきまで信じて居た気持ちが全部壊れたような感じがして。」
「それは違いますよ。」
「え?」
「嘘を吐くのは良く無い事です。でも、嘘を吐かないといけない時だってあるんです。」
「いけない時?」
「ええ、何かを守る為や思い出したく無い事を違う記憶に変えるんです。例えそれに誰かが迷惑を被っても。」
「迷惑を掛けちゃうのに嘘を吐くんですか?」
「ええ、そういう時がきっと楓莉にも来ますよ。嘘を吐きたくないのに嘘を吐いてしまう事が。」
俺は二人のやり取りを黙って見守っていた。
「待って!!」
現役の警察官とは言え子供の走るスピードや体力には劣る。息を切らしながら追いかけると律は何も無いところで立ち止まった。
「律!!」
私は声を掛けると律は震えながら
「あの人何者なの?」
「え?」
「絹花って言う男か女か分からない人!!」
「絹花さん?」
「あの人雰囲気からして怖いし、そんな人の言う事を前面信じ切っているあんたらも怖い。」
「絹花さんは怖い人では無いよ。」
「何でそんな事が言い切れるの?」
「だって、私を救ってくれた人だし。」
「絢都さんはそうかもしれないけれど、私からしたら不気味な一家にしか見えない。」
「そうね。」
「認めるの?」
「そうやって言って来た子沢山居るからその輪に居る私達には分からないけれども、きっと第三者の立場からしたら怖いんだろうなと思って。」
「他の人達にも言われたの?」
「ええ、言われたわ。」
「そんな時はどう返すの?」
「さあ」
「え?」
「何とも返さないわ。だって変だって言われても私達には変では無いんだもの。」
「何それ。」
「だってどんな事を言っても結局は私が心の底から絹花さんを信じているからって事以外何とも言えないもの。そんな答え望んでいないでしょ?」
「まあね、そんな言葉じゃ信用出来ない。」
「でしょ?まあ、でも絹花さんは怒って律に嘘を吐くなって言った訳じゃ無いと思うよ。」
「何でそう分かるの?」
「だって、絹花さんは人に怒ったりしないもの。」
「それだけの理由?」
「それに嘘を吐く事に何か理由があるって分かってくれる人だし。」
「嘘を吐くに理由?」
「そう、誰しも嘘を吐く時には何かしらの理由があって吐いているんだって、絹花さんはそういう事を言う人だから。」
「絢都さんは?」
「私?」
「絢都さんは幻滅した?」
「何に?」
「私が嘘を吐いて幻滅した?」
「するわけ無いじゃ無い。だって今日初めて会ったのよ?幻滅も何もこれから知っていく関係なのに。」
「フフフそうだよね。」
「そうよ?それに私だって嘘を吐くときあるわ。」
「本当?」
「ええ、本当よ。」
「・・・・・・実の親に暴力や暴行を受けたのは嘘。どっちかって言うと真反対の性格。心配性で窮屈な家だった。鳥かごの中の鳥のように大切に可愛がってくれる人達なんだけれど、それが窮屈で。逆に私は早く外の世界を知りたかったし鳥かごから出たかった。でも、親がそんなんだから未だに門限とか決めてくる人達で嫌で家出してさっき言ってたホストの家に転がり込んで立ちんぼしたり風俗の一歩手前の事をしたりしてお金を稼いでたの。」
「なるほどね、家族が原因なのは変わらないって訳ね。」
「うん。嘘だと思う?」
「いいや、嘘だとは思わないよ。」
「そう。」
そう言うとトボトボと来た道を律は戻って行った。
私は、まだ十六と言う年齢で親が心配する気持ちはよく分かるし何て言ってあげたら良いのか分からなかった。
「おはよう。」
俺は起きて来たばっかりの律に声を掛けた。
「はよ。」
とまだ半分眠っている状態の律に絹花さんが
「ご飯出来てますから食べて下さいね。」
と言って朝ご飯を机の上に並べて居た。
「有り難うございます。」
と小さい蚊のような声でお礼を言う律に俺は少し安堵した。
昨日あれから律と絢都さんは帰ってきて律は嘘を吐いた事を謝って来た。
絹花さんも嘘を吐いた事に対して指摘した事を詫び問題は解決したかと思ったが、まだ律は絹花さんが怖いのか距離を置きながら話している。
一方楓莉君はというと律に嘘を吐かれた事にプンプン怒りながらそれでも帰ってきてくれた事に喜び、感情の起伏が激しかった。
俺は相変わらずその変のおじさんとして接しられている。
ただ、律は絢都さんにだけは素直に従っていた。
昨日二人に何があったのかは俺は知らない。
「それにしても、十六なのに昨日の顔はバッチリ化粧だったのね。」
すっぴんになると昨日までの大きな目が一重で小さくなり眉毛も半分までしかなく、そばかすが鼻の辺りにあり昨日見た女の子と同一人物とは思えない程の変わり様に俺はつい言ってしまった。
「それが何よ。アンタに迷惑でもかけた?」
「いや、迷惑は掛けてないけれど。余りにもの変わりようにビックリしただけ。」
「ねえ、優緋ってモテないでしょ。」
「え」
「絶対モテないでしょ?もしかして童貞?」
「童貞じゃないし!何だよ、急に。」
「違うんだ、フフフだってそんな事を女性に言ったら普通はひっぱ叩かれるか振られるのがお決まりじゃん。」
「そうなの?」
「そうだよ、普通ならそんな事を言ったら失礼だもん。」
「知らなかった。」
「優緋は童貞だね。」
「だから違うってば~!!」
俺達の関係は律が上で俺が尻に敷かれている状態だ。
年齢も十は違うのにおじさん扱いされるのは仕方ない事かもしれないけれども、こう扱われると俺のプライドがズタズタにされている気分だ。
「それで、律は今日はどう過ごすの?」
「今日はトー横に行きたいけれど、どうせ許されないと思うからどうしようかな~」
「確かに十六で立ちんぼやらホストは許されないわな。」
「絢都さんが絶対許してくれなさそう。」
「確かに、あの人は元ヤンキーとは言え根は警察官だからな。」
「だよね~」
と律は小さく頂きますと言いながら朝ご飯を食べる。
「トー横でしたらお昼に行けば良いのでは?」
「え?」
俺達はその声にビックリしてその声の主の方を見る。
その声の主は絹花さんだった。
「トー横行っても良いの?」
律はビックリしながら聞いた。俺も同じ気持ちだった。
「ええ、行くなとは言えませんし。」
「でも、私一応補導されてここに居るんだけど。」
「ええ、ですから私達が一緒に行けば問題など起きないのでは?」
「そんな簡単に言って良いの?私前の所では軟禁状態だったんだけど。」
「軟禁だったなんて!まあ酷い!ここは出かけるのも自由ですよ。まあ、場所によりますが。トー横でまた前一緒に居た人達に絡まれてしまうのが心配なので一緒に付いて行く事はありますが、他の場所でしたら一人でお出かけされても構いませんよ。」
「何ここ、天国じゃん。」
「そうでしょうか?ただ門限はあります。夜の十二時までには帰って来る事です。未成年なので本当は九時とかが安心なのですがそれではストレスも溜まりますでしょ?ですから十二時までに帰ってきてくださればこちらとしても安心かと。」
「十二時とかシンデレラじゃん!本当にそんなルールで良いの?」
「ルール?」
「うん、だってここの決まりみたいな物でしょ?」
「いえ、ここにルールなどありませんよ。ただお願いをしているだけです。もしその約束が守れないとしても私達は怒ったり等しません。それは信頼関係のような物ですから。」
「信頼関係」
「そうです。規則など設けなくても私達の間に信頼関係があれば何が起きても大丈夫です。それに私から見て律さんは何か危険なことを繰り返し行う可能性は低いかと。」
「何でそんな事分かんの?」
「私の左目は黄色いでしょう?」
「うん、それが?」
「私の左目はその人の悪事を見る事が出来ます。」
「どういう事?」
その事は俺も律と同じように頭の上にハテナマークが出ていた。
「私達は妖怪の子孫なのです。」
「「は?」」
俺と律の声が重なる。
「突然言われても驚きますよね、でも本当なのです。私は狐一族の子孫で楓莉は小豆洗の子孫、絢都はオオカミ一族の子孫なのです。」
「なにそのオカルト的なファンタジー笑えないんだけど。」
「ふざけて言っているのではありません。本当なのです。私の左目は代々伝わる呪いで人の悪事隠し事が見えてしまうのです。」
「なるほどね、だから私が嘘を吐いているのが分かった訳か。」
「ええ、ご気分悪くされてしまうと思いますがあのまま止めなければ嘘にまた嘘を重ねては信頼関係が成り立たないと思いましたので。」
「ふーん、それで私がどこに出かけても場所が分かるっていう訳?」
「いえ、場所は分かりません」
「え?だって妖怪の子孫なんでしょ?だったら私がどこに居るかとか何をしているかとか分かるんじゃ無いの?」
「いえ、そんな事は分かりません。ただ帰ってきた時に何か悪い事をしていれば分かると言う感じです。ただこれも相手が悪い事をしたと自覚があればの話です。悪い事をしたと自覚が無ければ私は見る事も出来ませんから。」
「なるほどね。見るためには相手が罪悪感を持っていないと見えないっていう訳か。」
「ええ、そうです。」
律と絹花さんが話している一方俺は話に着いていけず置いてけぼりになっていたので
「ちょ、ちょっと待って。律は何でそんなすぐに今の話信じられるの?」
「え?優緋知ってたんじゃ無いの?」
「知らないよ!今始めて知ったよ!」
「そう、それで?」
「それでじゃないよ!なんで今の話を全て受け止められるの?」
「だって、絹花さんがそんなデタラメな嘘をいきなり言うと思う?それに私が父さんに暴行受けてたってNPO法人の人は信じ切っていたのに絹花さんだけは嘘を見破った。普通は嘘だと思っても本当だったら被害者の人に対して傷つけてしまうかもしれないって思うのが普通でしょ?でも絹花さんは言い切ったもん。あの時私はなんであんな風に言い切れるのか不思議だったけれど今の話を聞いたらなんか納得出来ちゃったんだよね。」
「そうか?」
「そうだよ。だって私がもし優緋に父さんから暴行受けてたって言ったら信じるでしょ?」
「まあ、そうだな」
「例え痣が無くても普通は信じるんだよ。父さんに実際に会ったとしても子供が言っている以上は被害者の話を信じるんだよ。」
「確かにね」
「それにもし嘘かなっと思ってもそれを指摘するのはもの凄く勇気が要るじゃない?」
「確かに、もし本当だったとしたら本当の事を勇気出して話してくれたのに否定してしまうのは勇気が要るよね。」
「そう、だから私が嘘を吐いた事を最初に否定した絹花さんには何か特別に分かる何かがあるんじゃないかって私指摘された時から考えてたから、今の話を聞いて納得しているの。」
「なるほどな。確かにそう考えたら納得するよな。」
「うん、それで今更だけれど優緋は何の子孫?」
「え?俺?」
「今更隠し事したって仕方無いでしょ?ついでだから聞いてあげるよ。」
「律、最初から思ってたけれど俺に対する態度凄く雑じゃないか?」
「そう?親切に聞いているだけだけど。」
「親切ってな~・・・・俺は何の子孫でも無いよ。」
「え~嘘だ~」
「本当だよ、何の子孫でも無いよ。両親も普通の人間だし、特別感は無いよ。」
「その言い方絹花さん達が普通じゃない言い方になっているけれど。」
「違う!絹花さん達が普通じゃ無いって言うわけじゃ無いよ。ただ特別感が俺には無いだけ。」
「そう?絹花さん、優緋の言っている事正しいの?」
俺等の話を静かに聞いてた絹花さんに律が聞く。絹花さんは急に話を振られたからなのかビックリしていたが俺の事をジッと見て
「ええ、優緋さんは嘘を吐いてはいませんよ。」
「何だ~つまんない~」
と律はその場に大の字になって寝転がった。
「つまらないとは何だよ。別に何も無い人間が居ても良いじゃ無いか!」
「つまんないよ~優緋も一反木綿とかさ~鬼女とかさ~なんかあっても良いじゃん。ここに住んでいるんだから何かしらあっても良いと思うのに~」
「期待に応えられなくてごめんなさいね~」
「優緋のくせにムカつく。」
「何でだよ、俺歳上だぞ?」
「それハラスメントになるんじゃないの?」
「ハラスメント?」
「パワハラとか」
「まさか~」
「でも、歳が上でも優緋はつまらないって事は変わらないね。」
「それは仕方ないだろ、俺だって何かの妖怪の子孫だったらよかったけれど何も無いんだもん。」
俺達が言い合っているのを黙って聞いていた絹花さんが急に
「妖怪の子孫なのは良い事では無いですよ。」
「え?」
「妖怪の子孫というだけで虐げられる事もありますから。」
「え、妖怪の子孫っていうだけで?」
「ええ、聞いた事ありませんか?子供達の中で流行っている歌を・・・」
「あ」
「何?優緋聞いた事あるの?」
「確かここに来る前に小学生の子が歌っていたような」
「どんな歌?どんな歌?」
「ええと・・・」
俺が思い出そうとした時に透き通った声で
「くるりん くるりん くるりんぱ
くるりん くるりん くるりんぱ
狐の嫁入り くるりんぱ
天気が良くても雨が降る
くるりん くるりん くるりんぱ
狐の左目に気を付けろ
全ての罪がバレちまう
狐が来たら殺してしまえ
そしたら全部無かった事に
くるりん くるりん くるりんぱ
狐の左目潰せ
狐の身体を引きちぎり
罪を隠せ隠せ くるりんぱ」
と絹花さんが歌った。
「何その不気味な歌。」
ウヘーという顔で律が言う。
「この歌前住んでいたご近所さんが最初に子供に教えていた歌なんですよ。」
「近所の人が?」
「ええ、私の事が気に食わなかったのでしょう。子供に教えては私の前で屈託の無い子供が歌ってきたのです。」
「何それ、酷すぎ。」
「酷いと思ってくれるのですか。前私が居た場所は変わった所でした。
牢屋のような畳がある部屋に私は物心をついた頃から暮らしていました。
その頃私は外の事を全く知りませんでした。家の中の事が世界の全てだと思っていたのです。ただ一度だけ外に逃げ出した事があります。
その時に出会った少年達が私の事をお化けだと怖がりました。
髪は伸びきってボサボサで太陽の光に当たらないので青白い顔で手足も筋肉が無くガリガリの姿に驚いたんでしょうね。
今私がその姿を見ても驚きますもん。
その後は自分が化け物なのだと思って塀の中でひっそり暮らしていました。
暫く時が経つと家の中で今まで聞いた事が無い物音が聞こえて騒ぎが起きているのが分かりました。
騒ぎがおさまった後一人の男が私の塀の前に立っていました。
その人は私を化け物だと騒いだ人でした。
その人が私の家族を殺したことをその男性を見た時にすぐに分かりました。
理由は返り血が付いていただけでは無く、その人を見た時に人を殺していく姿が見えたからです。
私は黙って殺されるのを待っていました。
ですがその人は一言すみません、これで自由になれると言って牢屋の鍵を外してどこかに去って行ってしまいました。彼は後から警察に出頭した事を警察官から聞きましたが。
その後私は行く場所を失い殺人現場だった家に籠もっている時に近所の人が歌を歌い始めたのです。
前から私の家は奇妙な家だと評判だったそうで私はただその歌を歌われるのを黙って聞いていました。」
「そんな過去があったんだ。酷い。」
「ええ、ただ何が酷いと思うかは人によって違うと思います。人によっては監禁状態の生活を虐げられた事に対して酷いと思う人も居れば家族を殺された事に対して酷いと思う人も居る。そして家族を殺され一人になった私に対して残酷な歌を教えた人に対して酷いと思う人も居る。どの酷いに自分の気持ちが当てはまるかは人によって違います。ただ私は酷い事をされたとは思っていません。
私の過去は運命だったと思うようになったからです。
今の生活に対して不満はありません。むしろ幸せだと思っています。
お団子や草餅、美味しい和菓子を作ったり料理をしたり、こうやって人と話せる事がもしあのまま監禁されていたら味わう事が出来なかったと思うと解放されてよかったと思うようになったのです。
ただ一つ心残りなのは自由にさせてくれたあの子が私の代わりに自由では無い場所に居ることです。
それだけが私の心残りなのです。」
「今分かった気がする。どうして絹花さんが私みたいな子達を預かって一緒に暮らしたりするのか。」
俺も少し分かった気がした。
俺みたいな行く手が無い人をどうして部屋の一つを分けてくれたのか。
きっと絹花さんの罪滅ぼしなのだろう。
そして自分と同じ不自由な人を見たら助けたい、あの時自由をくれたあの人のように。
ただ一つだけ疑問があった
「どうして俺達にそれを話してくれたんですか?だって俺達が本当は妖怪の子孫て事に対して批判的な気持ちを持っていたら誰かに話すかもしれないし、そうしたら楓莉君や絢都さんまで住む所無くなっちゃう。絹花さんは俺達が誰かに話すと思わなかったから話したんですか?」
「いえ、そこまでは見る事は出来ません。ただ信じたかっただけです。律さんがトー横に行きたい、そして他の場所に行くことに対して私が止めないのも信じたいからです。これは私のただのワガママでしかありません。信じたいと言う気持ちを律さんに押し付けているだけだと思います。
だから律さんがこの思いに重いと感じた時はいつでも言って下さい。」
「重いだなんて・・・・」
「俺も重いだなんて律は思わないと思う。」
「優緋のくせに生意気。でも本当に重いだなんて思わないよ、確かにここって他の場所に比べて変だと思う。だって監視員さんは妖怪の子孫だし出かけるのも自由で未成年なのに十二時に帰って来れば良いとか。本当ならもっと厳しくても変じゃないのに。だって私オーバードラッグしたり未成年なのにホスト行ったり立ちんぼしたりしてたんだよ?またするかもしれないじゃん。それなのに信じたいって言われたらその気持ちに応えたいって思いたくなるじゃん。絹花さんは私がこう思うって分かってて話をしたの?」
「いえ、全く。私が話したところで態度が変わらない子も居ましたし、門限だって破る子だって沢山居ました。それでも私がこの活動を辞めないのは一人でも多くの人が自由にのびのびと生きても良い事を知って欲しかったからです。トー横にしか居場所が無いと思っている人達に居場所はここにもある事を知って欲しいからです。」
「じゃあさ、もしここを出た時には戻ってきても良いの?」
「戻ってくる?」
「ここにいつでも帰ってきて良いの?って事。」
とボソボソ恥ずかしそうに話す律の姿は歳相応に見えた。
「もちろん、いつでも帰ってきて良いのです。ここを実家のように思ってくれて良いのです。もちろん、これから生活していてまた帰ってきた子達が居たら出来れば人見知りせずに出迎えてあげて欲しいです。」
「出来るかな~私結構人見知りなんだけど」
「フフフ大丈夫ですよ、きっと帰って来た子達も同じですから。」
「そうかな~でも私絹花さんの話を聞いて絹花さんが妖怪の子孫でも怖くないよ。だってこんなに弱そうって言ったら失礼かも知れないけれど、筋肉マッチョとかじゃない人が妖怪の血を受け継いでも何か私に危害加えるとか考えにくいし。
最初は妖怪の子孫って聞いてふざけているのかと思ったし、有り得ない世界だと思ったし、なんなら宗教か何か?って思ったけれど、話を聞いているうちに心開いても良いかもって思えたよ。きっとここに来た子達はこの気持ちを理解出来ると思うし帰って来る子達も心から絹花さんを慕っている事だもんね。だったらきっと仲良く出来そう。」
「ええ、皆さん良い子達ばかりでしたから。」
「中には門限守らない子も居たんでしょ?その子達はどうしているの?」
「今は昼職をしていて時々長期の休みが出来た時には夏にはスイカ割をしに来たり秋にはキャンプに行こうと誘ってくれたりしてくれますよ。」
「夏ってもうすぐじゃん。」
「ええ、きっと今年も海に行こうと誘いに来ると思います。」
「海とか日焼けするじゃん!しかも水着私持っていないんだけど。」
「そうしたら今度一緒に買いに行きましょうか。」
「うん、そうする。」
「ちょっと待って、絹花さんこの見た目だけど男だからな。せめてもの絢都と行けよ。」
と俺が口だしすると
「えー、別に絹花さん男って感じしないし大丈夫じゃない?でも絢都さんの水着の趣味も知りたいから絢都さんも誘ってみようっと。」
「絢都さんもってお前な~」
「何?もしかして優緋も一緒に行きたいって思っているの?」
「誰もそんな事言って無いだろ?」
「だったら口出ししなきゃいいじゃない。絹花さんはどんな水着着るの?」
「私は泳げないので水着は着ません。」
「えー、そんな事言わずに絹花さんも水着買おうって~」
「フフフ今までも水着を一緒に着ようって言って来た子達は居ましたが今回は手強そうですね。」
「そうだよ、私ってワガママなんだから。絹花さんが今まで見てきた子達よりも手を焼くよ?」
「これはこれは、大変ですね。フフフ」
「よーし、早速アルバイト探して水着さがさなきゃ。まあ、パパに買って貰っても良いんだけど。」
「パパ活まだやるつもりかよ。」
「だって、手っ取り早くお金が貰えるのパパ活なんだもん。」
「全く、何かあってからじゃ遅いんだからな。きっと絢都さんにも言われるぞ。」
「ねえ、絹花さんここってパパ活って禁止なの?」
「おい、無視するな!」
「ちょっと優緋は黙っててよ、絹花さんどうなの?」
「未成年ですので基本は大人の関係を持つアルバイトは禁止しています。ただお茶を飲むとかくらいは許しているので自由にお金を稼いだら良いと思いますよ。」
「ほら~絹花さんだってこう言って居るじゃ無い。優緋は少し頑固親父みたいな所あるよね」
「絹花さんもっとルール厳しくした方が良いっすよ。律はそうじゃなくても危なっかしいのに。」
「大丈夫ですよ、身の危険を感じたらすぐに私達が気付きますし。何かあれば絢都がなんとかしてくれます。」
「警察の権力を使う気なんだ・・・」
俺はそれ以上怖くて何も言えなくなった。
「それでさ~この間会ったおじマジでやばいの!優緋聞いてる?」
「・・・・」
「だってさ~、こっちは未成年って言っているのにルイヴィトンのバッグ買ってあげるからホテル行こうとか言い出してさ~バッグ如きで誰がジジイに抱かれなきゃいけないんだよって思うじゃん?」
「・・・・・」
「優緋聞いてる~?」
「あ~もう聞いてるよ!!今大事な所なんだよ!」
「何?」
「高校野球だよ!!甲子園!!」
「あ~野球ね~」
「今七回表一球一球が試合の勝敗に関係してくる大事な場面なんだから。」
「それよりも私の話を聞いてよ!!」
「何回も聞いたよ、その話!!」
「優緋にはまだ言っていないけど!!」
「さっき絢都さんに話してた奴だろう?」
「え~聞いてたの~?」
「わざとらしいな、あんな大声で話していたら誰でも聞こえているだろう。」
「え~聞き耳立ててたんじゃないの?」
「誰がそんな話に聞き耳立てるんだよ。」
「だって、絢都さんは面白いって言ってたよ。」
「絢都さん~警察官ならもっと厳しくしないと~」
俺は扇風機を独り占めしている絢都さんに話しかけると
「え~?なんて~?」
と夏の暑さでバテているのかのんびりした声が返ってきた。
「全くだらしないですね。大人は・・・」
と楓莉君がクーラーの電源を入れて窓を閉める。
「やっと涼しい風が来る。」
と絢都さんはその場にへたり込んだ。
「ねえ、優緋聞いてよ~」
「も~聞いているってば~暑いんだからしがみつくなよ~!!」
「だって、つまんないんだもん。パパ達からの連絡も途絶えてつまんないんだもん。」
「皆仕事中だからな。」
「優緋は?優緋は仕事しないの?」
ぎくり
「俺は、あれだよ今探し中なんだよ。」
そうだ、俺は今無職なんだ。
絹花さんの優しさに甘えて家賃も光熱費も絹花さん持ちで実家に帰っている気持ちでいたけれど、今の俺はパパ活をやっている律よりも立場が危うい。
すっかり忘れていた。
さーと血の気が引いていく気持ちで俺は答えたが律は
「だって今だって野球見ているじゃん。」
「今は今!あーハローワーク行かなきゃな。」
「ハローワーク?」
「知らないのか?仕事を紹介してくれる所。」
「紹介してくれるの?」
「まあ、基本は自分で調べるんだけどな。」
「ふーん。それで優緋はどういう会社に勤めるの?」
「どうしようかな~前はさ~IT系だったんだよ。」
「うん、なんで辞めたの?」
「パワハラ」
「え?」
「だからパワハラだって!」
「そんな怒んなくても良いじゃん。」
「怒って無いよ!ただ思い出したくない事を思いだして自己嫌悪に陥っているだけ!」
「何それ~優緋も女の子だったら一緒にパパ活出来たのにね。」
「パパ活って。・・・てかさお茶一回でいくら貰ってんの?」
「え?五千円。」
「お茶一回で五千円も貰えるのか?」
「そうだよ、しかもその時に食べたり飲んだりした物は全部パパが払ってくれるから無料で美味しい物とか食べられるんだよ。」
「へえ~確かにその世界知ってしまったら普通の生活には戻れないわな~」
「でしょ?でもいつまでもこの世界に浸って居られないからいつかは昼職しなくちゃなんだけどね。」
「ふーん、確かにパパ活って若い子がやっているイメージだもんな。」
「そうなんだよね~二十代までのイメージが強いよね。」
「三十代でも出来そうだけどな。」
「出来る子は出来ると思うけれどそういう会社に所属してないと大変かも。個人でパパを捕まえるはよっぽど会話が上手とかじゃなければ難しいんじゃ無いかな。」
「へ~パパ活でも苦労はするんだな。」
「そりゃね~顧客捕まえるのが一番大変だよね~」
「どういう所でそういうパパを捕まえるんだ?」
「私はね~このアプリ!!」
「何?」
「このマッチングアプリ!このアプリでプロフィールの所にPJって書いてお茶いくらって書いておけばそれを見た人が連絡くれるっていう訳。それにこのアプリはメッセージのやり取りをするだけでポイントが溜まっていって現金に換えられるからお得なんだよ。」
「へ~!!!そんなアプリがあるのか!!」
「そう!気持ち悪いやり取りでもポイントになるから良いかって思えるし、本当に会いたい人には会える日を伝えて会えば良いし。」
「は~こんなアプリがあるなんて知らなかった。マッチングアプリなのにパパ活用のアプリがあるなんて」
「これパパ活用のアプリじゃないよ。普通のマッチングアプリだよ?」
「え?でもこれでパパ活しているんだろ?」
「うん、でもこれはパパ活やっている女子とおじさんの間で暗黙の了解でやっている事であって表上は普通のマッチングアプリ。でもメッセージはポイント付きでポイントが増えれば増えるほど換金出来るよって言うシステム。」
「なるほどね~凄いな。俺みたいに出会い求めている人からしたらたまったもんじゃないけれどな。」
「普通に出会い求めている人だったらこんな底辺なアプリを使わないで大堂のアプリを使うでしょ。」
「例えば?」
「タップルとかペアーズとか」
「あ~よく広告で出てくる奴か。テレビでも流れているよね。」
「そう、そういうのは普通のマッチングアプリだと思うよ。ただ詐欺もあるから気を付けないとだけどね。」
「へ~詐欺ってどういうのがあるの?」
「例えばロマンス詐欺とか既婚者詐欺とかかな。」
「何それ。」
「ロマンス詐欺は外国人が翻訳機を使ってアピールしてくるの。写真とかはインスタとかから引っ張り出して来たやつを使ってたりして、最近だとTikTokのネットショッピングを一緒にやってみないかとか勧誘してお金を振り込ませて詐欺したり。
既婚者詐欺はその名前の通り既婚者なのに独身って偽ってアプリをやって結婚詐欺する事。」
「へ~そんな詐欺があるんだ。」
「優緋みたいに知らない人が餌食になるんだよね。」
「コワッ」
「私が立ちんぼしてた時に一緒に立ちんぼしてた子がマッチングアプリしていたんだけれど、その子はホストなのに接客業って言ってた子にBARに行こうって言われて連れて行かされたのがそのホストが所属しているホストクラブで初回なのに指名料とって二万も二時間いただけなのに請求されたって言う子も居るからマッチングアプリって闇深いんだよね。」
「怖すぎだろう。」
「そう?他にも宗教等の勧誘とかもあるから気を付けないと。」
「何その世界。怖すぎ。」
「絢都さんともさっきその話してて盛り上がってたんだよ。」
「それであの盛り上がってたのか~・・・あ!!打たれた!!」
「試合動いたの?」
「ホームラン!!これは負けるぞ」
「どっちを応援してんの?」
「どっちも!!」
「それってどっちよ~」
と律の声が部屋に響くとガラガラと玄関を開ける音がした。
「たっだいま~!!!」
「この声は!!」
と絢都が起き上がる
「皆!!ただいま~!!」
と色黒の女の子が居間に上がってきた。
「あら、見慣れない顔も居る。」
とサングラスを外しながら大きな目をクリクリ動かしながら
「絹花さん!ただいま!!」
台所に居る絹花さんの所に行って
「あら!!お帰りなさい!桃香!」
「ももか~?」
と律が不思議そうに声を上げた。
「あれ、やっぱり初めましてだよね?」
と桃香が絹花さんに抱きつきながら居間にやって来た。
「もしかして門限を破った事がある子?!」
「わー!絹花さんまだその話しているの?あれはごめんって~」
「例えの話で出しただけですよ。根に持ってませんよ。」
「その言い方根に持っている言い方なんだけど~絢都~絹花さん根に持っているって~怖いよ~」
「桃香~絹花さんのお団子作り邪魔したら今度こそ怒られるぞ~」
と絢都が言う。
「優緋この人知ってる?」
とコソッと律が聞いて来た。
「いや、俺も2ヶ月ここに居るけれど初めて会った。」
「だよね。やっぱあの人だよね?」
「ああ、あの人だな。」
とやり取りしていると
「そこの二人~聞こえて居るぞ~」
と桃香さんが大きな声で言ったので俺達は二人して飛び上がるかと思うくらい驚いた。
そんな俺達を見て桃香さんは笑いながら
「よし!!全員でこれから海に行くぞ!!」
と片手を上げた。
「暑い、暑すぎる。」
「大丈夫ですか?優緋さん」
「絹花さんは変わらず涼しそうですけれど暑く無いんですか?」
「暑いですよ。私も人間ですから」
「妖怪の子孫って言っても人間は人間なんですね」
「ええ、ほぼ人間です。」
「へー、血液検査しても何か違いって無いんですか?」
「少しは変化があると思いますが今の所そんな話はされた事ないです。」
「じゃあどうして自分が妖怪の子孫って分かるんですか?」
「そういう検査があるんです。」
「検査?」
「ええ、妖怪の子孫かどうかと言う特別な検査があるんです。それを受けて特定出来るんです。」
「楓莉君もその検査を?」
「ええ、絢都もその検査をしています。」
「俺もその検査しようかな。なんか俺だけ省かれている感じがして寂しいし。」
「検査ならすぐに受けられるので受けてみますか?」
「すぐに受けられるんですか?」
「知り合いの刑事さんに頼めばすぐに警視庁管轄の病院で受けることが出来ますよ。」
「そこは絢都さんを通さないんですね。」
「絢都が警察官になったきっかけをくれた方なので。」
「そんな人が居るんですか!!」
「ええ、吉武さんという方でとても頼りがいのある方なんです。」
「へー」
「後で連絡してみますか?」
「良いんですか?」
「ええ」
「これでただの人間だったら辛いな。」
「フフ」
「何か?」
「だってそんなに妖怪の子孫になりたい人って初めて見ました。」
「そうなんですか?」
「ええ、羨ましいという声も掛けてくださる事もありますが話した所でふーんという風にどこか他人事のように聞いて居る人の方が圧倒的に多くて。ここまでなりたいっていう方初めてです。」
「へー、絢都さんは自分から検査受けたんですか?」
「私が勧めました。何となく同じ感じがしたので」
「じゃあ、俺はどうですか?どう見えますか?」
「それは、検査を受けてからのお楽しみにしてはどうですか?」
「そんな~!!」
「フフフ意地悪してしまいましたね」
「絹花さんって何気に弄ってきますよね。あ、そうだ俺家賃払っていないんですけど大丈夫なんでしょうか。光熱費だって全然払ってないし。」
「ええ、我が家は一括で購入したのでローンも組んでませんし。優緋さんを引き取ると決めたのは私の勝手ですから。自由に使って頂いて良いんですよ。」
「そんな、実家みたいな甘え方して。律だってパパ活とは言え働いているのに俺だけ何もしていなくて肩身狭い思いしてて。」
「就活はされているのですか?」
「しようと思っている所です。前職がIT系だったのでその系統で転職出来たら良いなって思ってて」
「そうですね。同じ系統だと働きやすいですよね。」
「ええ、全く初めての所よりかは分かりやすいかと。」
「そうですね、Indeedとかはやっているんですか?」
「ええ、マイナビも登録してあります。何カ所か良いなと思った所があったのですが、今の家から通えそうに無くて。」
「家から出ても桃香のようにいつでも帰ってきても良いのですよ?」
「いや、絹花さん達と知り合ってから俺この家から出たく無いって思っちゃって。」
「居心地が良いって事ですか?」
「ええ、恥ずかしながら」
「何が恥ずかしいんですか!凄く嬉しい事ですよ!」
「そうなんですか?」
「ええ、私からすればこれ以上無い褒め言葉です。」
「本当ですか?」
「ええ、だって私の仕事は家の空気を居心地が良いようにする事ですし。その事で家出を繰り返す子やトー横にしか居場所が無い子でも、我が家に居ることで気持ちが楽になるのであれば私はこれ以上無いくらい嬉しい事です。」
「なるほど」
「だから優緋さんが我が家を居心地が良いと言ってくれた事は私にとってはとても褒め言葉なんです。」
ぱあと顔を明るくさせながら話す絹花さんはいつもより子供っぽく見えた。
「俺まだあの家に居てて良いんですか?」
「ええ、勿論!!」
「よかった~俺本当に肩身狭い思いしてたので安心しました。」
「それで妖怪の子孫の検査も受けたいって言ってたんですか?」
「ええ、もし妖怪の子孫だったら一緒に居る理由になるんじゃないかと思って」
「なるほど!そういう考えだったんですね。」
「甘い考えですけどね。でも俺は律の為にも前に進んでいかなきゃいけないんですよね。」
「律のため?」
「ええ、身近な大人が前を向いている姿みたらもしかしたらパパ活辞めてくれるんじゃ無いかって思って。」
「優緋さんは律のパパ活を辞めさせたいんですか?」
「だって、危ないじゃ無いですか。この間だって無理矢理ホテルに行こうって言われてしつこく絡まれたって・・・律はしっかりしているように見えて実は危なっかしい子だから」
「フフフ」
「何で絹花さん笑うんですか?」
「だって本当の兄弟みたいで」
「え?」
「なんだか妹のやっている事に対して心配しているお兄さんみたいだったので。いつの間にお二人が本物のご兄弟みたいな関係になったのか想像したら面白くって」
「確かに妹のように思ってますけれど、律はあいつは俺を尻に敷いていると思ってますよ。絶対に。」
「そうですか?そんな風には見えませんけれど。」
「いや、アイツはそうなんです。俺に対してだけ態度が雑なんですよ。」
「それは心を完全に開いているからなんでしょうね。」
「え?」
「だって最初あの家に来た時は敵対心剥き出しだったじゃないですか。」
「確かに」
「それから比べたら今は表情豊かになって楽しそうです。」
「確かにそうかも」
「それもこれも優緋さんが手伝ってくれたお陰です。」
「俺は何も・・・・」
「兄のように保護者目線で接してくれた事がとても律にとって良かったのです。あの家に来る子達は色んな経験をしている子が多いです。敵対心剥き出しの状態から解すにはとても時間と労力が必要になります。それを手伝ってくださった事は私達はとても助かっているのです。」
「そうなんですか。」
「ええ、だからこれからも優緋さんは家出をして出てきた子達に対して律さんにしているようにお兄さんになった気持ちで接してあげてください。そうすればきっとあの家に居る意味が分かってくると思いますから。」
「はい。有り難うございます。俺なんかフワフワしている感じがずっとしてて、あの時絹花さんが俺を拾ってくれた時から夢心地に居るような感じがしてて。あの時俺パワハラしてくる上司に偉そうな口を聞いて反抗してやった後で何か今なら何でも出来そうって感じで凄くパワーが満ちている感じって言うか。そんな感覚だったんですよね。
でも、本当はまだちっぽけな一人の人間でしか無くて俺に残された物が無い事に気が付いてからはこれから先どうなるんだろう、この家にいつまで居て良いんだろうってそればっかりで。だから律が俺の存在で助かっているって言ってましたけれど、俺の方が助けて貰っていると思います。律の手前上俺もしっかりしないといけないし」
「そうですか、お互いに助け合っているのですね。」
「ええ、多分そんな感じです。上手く言葉に出来ないですけれど」
「いえ、分かりますよ。お互いがお互いを必要としているという事は誰にでもある事ですから。」
「・・・・よし!俺ちょっと皆の所で遊んで来ます!」
「ええ!!気分転換に皆と一緒に遊んで来て下さい!」
俺は絹花さんを置いて波打ち際ではしゃぐ皆の所に向かった。
「俺も混ぜて~」
と叫ぶと
「いやーーーー!!」
と律と楓莉君が叫んだ。
俺は
「何で嫌だなんて言うんだよ!!入れてくれよ!」
と言うと桃香さんと絢都さんが大笑いした。
「俺人間でした。」
「吉武さんの所から結果来たの?」
と顔を覗かせてくるのは絢都さんだ。
「ええ、俺も皆と同じく妖怪の子孫だったらと願望を掛けて挑んできたのですが結果普通の人間でした。でもついでだからって健康診断もしてくれて助かりました。」
「優緋さん人間だったんですか?」
と楓莉君が聞いてくる。俺はションボリしながら
「楓莉君、実はそうなんだ。俺も格好良く妖怪の子孫って名乗れたら良かったんだけれど、そうじゃなかったみたい。」
「優緋さんは妖怪の子孫になりたいんですか?」
「うん」
「妖怪の子孫って格好いいんですか?」
「そりゃ格好いいよ。」
「ふーん、僕格好いい?」
「楓莉君は格好いいよ!」
「絹花さーん、優緋さんが僕の事格好いいって!」
とはしゃぐ姿は五歳児そのものだ。
可愛いなと思っていると横から
「いつの間にそんな検査受けてきたのさ。」
と絢都さんの後ろから顔を覗かせてきたのは律だ。
俺は
「内緒」
と言いながら夕飯を作っている絹花さんの所に夕飯の用意を手伝う為に台所に向かう。
「そういえば、仕事も見つかったんだって?」
と絢都さんが言ってくる。
「絢都さんそうなんですか?」
と律は目をまん丸にして絢都さんと俺を交互に見た。
「律知らなかったの?」
「聞いてない!優緋どういう事よ!!」
「あーもう煩い煩い!!!そんなに騒ぎたいのなら机にお皿を並べてからにしろよ!」
「あー、優緋が意地悪するー。隠し事なんて意地悪だ~!!」
「まあまあ」
「絹花さん甘やかしすぎなんだよ、優緋のくせに」
「何だと?」
「こら~そこ喧嘩しない~仲が良いのか全く分からない二人だな全く」
と呆れる絢都に
「絢都さん~」
と泣きつく律。
俺は笑いながら周りを見回した。皆が笑っている。
俺の絹花さん一家と過ごした初めての夏の事だった。
「それじゃあ仕事頼んだよ。」
「はい、教えて頂き有り難うございます。」
俺はペコリとお辞儀をするとワシャワシャと頭を撫でられた。
「新庄さん何するんですか!!」
と避けようとするが俺の頭を撫でる手から逃げようが無い。
「優緋って犬みたいな奴だよな~」
と言いながら撫でる手を緩めない。
「俺人間ですけれど~」
と言うと
「知っているさ、ただ大型犬みたいな奴だなと思って」
と笑いながらまだワシャワシャしてくる。
「新庄さんの目には俺が犬に見えるんですか?」
「ああ、時々実家に居るゴールデンレトリバーに見えてくるんだよ。あの何て言うの?でかい図体で喜びを表現したり悲しみを表現する仕草がそっくりで」
「俺そんなに感情表現していますか?」
「優緋は感情表現豊かだと俺は思うぞ。」
「本当ですか?自分では気付かなかった。」
「ハハハ、自分で気付く奴なんて計算している人だけだよ。普通の人は気付かないさ。」
まだワシャワシャとしてくるので俺はたまらず
「そろそろ解放してくださいよ~せっかく朝髪の毛セットしてきたのにグシャグシャになっちゃったじゃないですか~」
と言った。
「そうかそうか、セットしてきたんだな。寝癖で来たのかと思ってた。」
と大笑いした。
俺は堪らず
「え、寝癖だと思われていたんですか?」
と聞くと
「ああ、何かピョンピョン跳ねているなとは思っていた。」
と答えが返って来る。俺は
「そんな~」
とその場でしゃがみ込むと新庄さんは腹を抱えながら
「何時間その髪型にするのに時間掛かったのさ」
と聞いて来た。
「一時間は掛けてきました。同居している律って言う女の子にもアドバイス聞いて、アドバイス通りに来たのに~騙されたんだ~」
と泣くと
「律さんってこの間言っていた人か?」
と聞いて来た。
「新庄さんに話してましたっけ?」
「俺面接官だったの忘れたのか?」
「新庄さん俺の面接官だったんですか?」
「気付いていなかったのか!通りで初対面なフリをするなとは思っていたけれど、気付いていなかったとは!」
「す、すみません!!あの時緊張していて何を話したのかも覚えていなくて」
「そうか、あの時今住んでいる家の事について話していたんだよ。絹花さんという綺麗で優しい男の人と楓莉君て言う五歳児だけれどしっかり者の子供が居る事と絢都さんっていうヤンキー上がりだけれど頼りになる姉貴的な存在の警察官が居る事、そして妹的な存在の律っていう子と一緒に暮らしていて毎日がとても楽しいことを話していたよ。毎日が刺激的で大変だけれどそんな毎日に感謝しながら過ごしているって言ってたぞ。」
「そんな恥ずかしい話をしていたんですか?!」
「恥ずかしいのか?」
「絶対に家の者に会ってもその話しないで下さいね!約束ですよ!!恥ずかしすぎて・・・・」
「そんなに恥ずかしいか?俺は羨ましいと思ったけれどな。俺はさ一人暮らしだから家に帰っても誰もおかえりも言ってくれないし、リモートワークの時なんて誰とも話さない日なんて当たりまえになっていたけれど、優緋みたいに家に帰ったら誰かが居る生活楽しそうだなっと思ったんだよ。それに優緋がその話をしている時とても楽しそうに話していたし。」
「そんなに楽しそうに話していましたか?」
「ああ、とてもキラキラしていたよ。」
「確かに今の生活とても楽しいですけれど」
「だろう?今度その絹花さんに会わせてくれよ、優緋が一目惚れしたって言う噂の美男子に」
「一目惚れってそこまで俺って話しましたっけ?」
「してたよ、最初絹花さんに一目惚れしてホイホイ着いていったら男性だと知ってショックを受けたって面接の時に話してたじゃないか!本当に覚えていないんだな。」
「相当緊張していたもので」
「ハハハ!そうか!!あの時上司が隣に居たから笑うのを堪えるのに必死だったの今でも覚えているよ。」
と言うと新庄さんは大笑いしたのだった。
俺は顔を真っ赤にして面接に何て恥ずかしい話をしたのだろうと思っていた。
「へ~そんな事を話したんですか」
と夕飯時に今日あった話をしている時に楓莉君が言った。
今日の夕飯はクリームシチューで俺の大好物だった。
律は出かけているのか夕飯の席には居なかった。
それだから話が出来たのである。律が居たら恥ずかしくてそんな話なんて出来なかった。
「優緋がそんなにこの家を好きだなんて知らなかったな~」
と意地悪そうに言う絢都さんに俺は顔を真っ赤にしながら
「虐めないで下さい!!俺もそんな話を面接で言っただなんて覚えていなかったんですから!!」
と言った。
絹花さんは嬉しそうに
「でも、優緋君がこの家を好んでくれたなんてとても嬉しいです。居心地が良いと想って貰えている事は私にとってとても嬉しい言葉です。優緋さん有り難うございます。」
と言った。
「そんな!!お礼を言われることなんて俺言ってませんから!!むしろ、恥ずかしすぎて明日からどんな顔して会社に行ったら良いのか。」
「そのままで良いんじゃ無い?」
嫌な予感がする。この声は・・・・と思って振り向くとブランドの紙袋片手にニヤリ顔でこっちを見る律が居た。
「律!!いつの間に居たんだ!!」
「さあ、いつからでしょう~」
「お前何処から聞いて居たんだ?」
「さあ~何処からでしょう~」
「絹花さん~律が虐めるよ~」
と泣きつくと
「まあまあ」
と口元に手を当てながら笑う絹花さんに
「大人が泣きつくんじゃ無いよ、みっともない」
と絢都さんに怒られた。
「この家の人達皆俺に対して酷くない?」
と言うと皆がドッと笑った。
数ヶ月前までこんな生活を送るだなんて考えても居なかった。
前の職場ではいつも怒られていたし、あんなに気さくに先輩と話せる機会だなんて無かった。
それに毎日コンビニ弁当とか少しでも節約する為にスーパーで割引になった弁当とかを食べていたし、家に帰ると真っ暗の部屋が出迎えてくれてただいまもいつの間にか言わなくなっていた。
しかし、そんな毎日から一変し今じゃ家に帰ると暖かい空気に美味しい手作り料理が待っている。そして何よりいつの間にかただいまと言う様になっていた。
ただいまの返事におかえりと言う声が色んな音になって重なって出迎えてくれる。
そんな毎日にいつまで続くのかと不安もあるが今はその毎日に甘えても良いかと思う優緋であった。
「あの子は何処かしら」
ふと女性が窓の外を見る。
「私達の子は何処に行ったのかしら、ねえ貴方。」
そう涙を浮かべる女性に男性が
「施設に戻ったじゃ無いか」
と答えた。
このやり取りは何度目なんだろうと男性は溜め息を吐く。
「施設?じゃあまたあの施設に行けばあの子に会えるのね。妖怪の子孫だなんて嘘に決まっているわ。」
「もう何度も検査して妖怪の子孫だって分かったじゃないか、それに今はあの施設から違う子を引き受けただろう。もうあの子の事は忘れなさい。」
「嫌よ、あの子は私の子だもの。きっとあの子も寂しがっているはずよ、あれだけ私に懐いていたんだもの。妖怪の話もきっと嘘よ、そうやって言えば私達に注目して貰えるから嘘を吐いたんだわ。きっとそうよ、あの子は悪戯好きだったもの。よく悪戯をしていたじゃない、壁に絵を描いたり夜中に私達の寝室に入ってきたと思ったらベッドでジャンプし始めたり沢山悪い事してきたじゃない。今回もきっとそうなのよ、だって施設の人も言っていたでしょう?最初は悪戯をして気を引かせようとすると思いますが怒らないで下さいって言ってたじゃない。きっとこれも悪戯の一つなのよ、貴方明日にでもあの子を連れ戻しに行きましょうよ。」
「・・・・あの子はもうあの施設には居ないよ。」
「何て?」
「あの子はもうあの施設には居ないんだ。」
「どうしてよ。私達の子供なのよ?」
「施設でも虐めにあって何処かに行ってしまったって何度も言ったじゃ無いか。良い加減にしてくれないか。何度同じ話をすれば気が済むんだ。」
「どうしてよ、貴方があの時あの子を施設に返さなければ今でも一緒に居られたのに。どうして」
「お前だってあの子の事気味悪がっていたじゃないか!」
「私は愛していたのよ。それがどこの医者か分からない人に妖怪の子孫ですって言われて頭の中がごっちゃになっていたのよ。それくらい貴方だって分かるでしょ?」
「それは、俺も同じだったが・・・」
「ほら、見なさいな。貴方だって同じだったじゃないの。今の子は大人しすぎるわ。本当ならもっと悪戯をして私達の事を気を引かせる為に行動するはずよ?それが毎日笑顔で頷くだけの子だもの。あの子の方がよっぽど気味が悪いわ。」
「おい、そんな大きな声を出して聞こえるぞ。」
「聞こえても良いわ。だってあの子は私達の事なんて何とも思っていないはずよ。甘えても来ないあの子は私の知っている子供じゃないわ。」
「お前に子供の何が分かるんだ!」
「分かるわよ、私は母親だもの」
「今でも母親だろう?」
「私の子供はあの子だけよ。あんな子は私の子供じゃないわ。」
「なんて事を言うんだ!!あの子も立派な俺達の子だ」
「知らないわ、だって貴方が連れて来た子だもの。私が選んだ子じゃないもの」
「俺はお前があの子を失って抜け殻になっていたから新しい子を契約したのになんて言い草なんだ。」
「私頼んでないわよ。」
「なんだその態度は!!」
男性は手を振りかざして女性の顔をビンタした。
女性はビンタされた頬に手をやると
「貴方はいつもそう、口で言い返せないからすぐに手を出す。だからあの子もこの家を出て行ったのよ。貴方のせいよ!!!!」
と言った。
男性は
「なにを!!!!」
と言ってまた女性を殴る。その度に女性は痛みに苦しむが次第に大声で笑い始めた。
気が狂ったように笑う女性に対して馬乗りになって男性は頬を殴り続けた。
そんな夫婦の隣の部屋には蹲って枕を耳に押し当てて静かに泣く子供の姿があった。
「全部アイツのせいだ。」
そう呟くが母親の気が狂った笑い声でかき消される。
子供はそんな声を少しでも聞こえないように耳を塞ぐのであった。
「楓莉君大丈夫?」
夏風邪を引いたのか楓莉君が珍しく熱を出した。
最初に異変に気付いたのは絹花さんだった。
一緒に寝ていた楓莉君の呼吸が荒い事に気が付いて額に手を当てたら熱かったので氷枕を作りに台所に立ったのを、律が深夜遅くに台所で音がするから怖いから一緒に見に行ってくれないかと言って俺と絢都さんを起こしに来たのだ。
俺と絢都さんは最初は何かの間違いだろうと思って夢の続きを見ようとしたが、ガラガラという音を聞いて律が言っている事は本当なのだと判断し、俺先頭に絢都さん・律の並びで台所を見に行くと絹花さんが慌てて氷枕を作っている所だった。
楓莉君は辛そうに額に汗を掻いてうなされていた。
よほど怖い夢を見ているのだろう。
俺の声掛けにも返事が出来ない程辛そうにしている。
氷枕を頭の下に置いて体温計で熱を測ると38度の熱だった。
「今からでも病院行った方が良いんじゃない?」
と律が言うが
「近くの病院は深夜遅いしやっていないよ。大きな病院じゃないと」
「じゃあ、大きな病院に行けば良いじゃない。」
「子供はよく熱を出すもんなんだ。熱が出たくらいでは救急外来に連れて行く事なんて無いよ。きっとすぐに熱が下がるよ。前に貰っていた解熱剤まだ残っていたからそれを飲ませたら落ち着くさ。」
と絢都さんが言う。
楓莉君は前にも熱を出したことがあるらしい。
確かに子供は熱をよく出す。俺も小さい頃しょっちゅう熱を出しては母に迷惑を掛けた事があるのを聞いた事があった。
「律大丈夫だよ。」
と絢都さんは律の頭を撫でた。
律は苦しそうにしている楓莉君が心配なのか両目に涙を浮かべている。
絹花さんが傍に来て
「大丈夫ですよ。以前も急に高熱を出して救急外来に連れて行ったら一時的な熱だと分かってお薬貰ってきたんです。その時も昼前には熱が下がりましたし、もし昼前にも熱が下がらなかったら病院に連れて行くので心配なさらなくても大丈夫ですよ。」
と言った。
「寒い、寒い。」
楓莉君が呟くように言う。
「楓莉君大丈夫?」
と声を掛けると楓莉君は起きたのか少し目を開いた。
「絹花さん痛いです。身体のあっちこっちが痛い」
「今高熱が出ていますからね。」
「僕死んじゃうんですか?」
「死にはしませんよ。もし起き上がれそうならゼリーでも食べてお薬飲みましょうか。」
「頭が痛い。」
「お薬を飲めば早く楽になりますよ、起き上がれそうですか?」
と絹花さんが言うと楓莉君は少し頭をあげたので俺が支えて起き上がらせると絹花さんは冷蔵庫からブドウ味のゼリーを取り出し、蓋を開けて楓莉君に小さいスプーンで一匙すくって食べさせてあげた。
「冷たい。」
まだ半分夢の中なのか楓莉君はいつものハキハキした話かたではなく、五歳児そのままの話し方で絹花さんが口に運ぶゼリーを一生懸命食べていた。
ゼリーを三口ほど食べるともう要らないと言って寝そうになったので、急いで絢都さんが解熱剤の薬を持って来て楓莉君に飲ませた。
五歳児だと薬は苦くて飲むのが一苦労だと思うが、楓莉君は平気なのか薬を水でゴックンと飲んだ。
薬を飲んだ後気を失ったかのように深い深い眠りについた。
俺は薬を飲んだことで安心して起こさないように静かに氷枕の上に頭を乗せるように静かに寝かせた。
楓莉君はスースーと寝息を立てて寝ている。
俺と律は安心したかのように
「ふ~」
と大きな溜め息を吐いた。
そんな俺達を絢都さんが
「心配のしすぎだよ、大丈夫きっと朝には良くなっているさ。」
と言った。
俺と律は、後は絢都さんと絹花さんが看るからという理由で寝に行くように促されてまた寝室に戻ってきた。
部屋に入る時に律が
「楓莉君大丈夫だよね。」
と聞いて来た。心の底から心配らしい
「大丈夫だよ、俺も小さい頃しょっちゅう熱出していたから。母さんが言っていたよ男の子は小さい頃はよく病気になるって。楓莉君も一過性の熱だろうしすぐ良くなるよ。」
と言うと両目に溜めていた涙を流して
「良かった。」
と言った。
俺は律の頭をグシャグシャと撫でると
「さあ、早く寝ないと明日いやもう今日も早く起きて出かけるんだろう?寝坊するぞ」
と言うと
「優緋だって会社じゃん、寝坊したら首だよ。また転職活動しなくちゃいけなくなるよ。」
と憎まれ口を言った。俺は何を~と言いながらグシャグシャと頭を撫でると律は止めて~と言いながら笑う。先程の心配そうな姿はもう無さそうだ。
俺は安心してまた後でな、おやすみと言って部屋に入って布団の中に潜り込んだ。
夜中とは言えまだ暑い。クーラーが無いこの部屋は扇風機でなんとか凌いでいる。
夏が過ぎれば秋が来て冬が来る。
最近は地球温暖化のせいで秋が来て去るのが早くなったが、暖房機が無いこの部屋で無事冬を越せるのか心配だと考えていると睡魔がやって来ていつの間にか寝てしまった。
「優緋さん!!遅刻ですよ!!」
次に起こされたのは楓莉君の声だった。
俺は飛び起きて
「遅刻!!」
と時計を見るといつもより三十分早かった。
「良かった、寝坊じゃない・・・・・あれ楓莉君もう熱大丈夫なの?」
「ええ、昨晩はお世話掛けました。もう大丈夫です。」
「それは良かった。律の奴も起こしてやって、凄く心配していたから。」
「分かりました!!早速起こしきます。優緋さんは早く下に行って朝ご飯食べて下さいね。」
「はーい」
と言うと楓莉君はいそいそと律の部屋に行き
「律さん!!遅刻ですよ!!」
と大きな声で起こしに行った。
律は
「遅刻!!」
と俺と同じ反応で起き、起こした声が楓莉君だと知って泣きながら
「良かった、熱下がって本当に良かった」
と言っていた。俺はその声を聞きながらリビングに向かうと大きな欠伸をしている絢都さんにせっせと俺と絢都さんの弁当を作っている絹花さんの姿があった。
「おはようございます。」
そう声をかけると
「おはよう」
「おはようございます。」
と返事が返って来る。
今日も良い日が送れそうだ。
狐の嫁入り 凛道桜嵐 @rindouourann
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