八話

 爽やかな青空の下、広い草原にたむろする武装した集団――その一画でヴァレリウスとロアニスは支給された剣を振り合っていた。


「ふんっ……うわ!」


「駄目だ。それじゃすぐかわされる」


「はっ……やあっ…!」


「そうだ。そんな感じ。もう少し中に踏み込んで」


 戦闘も剣術も未経験のロアニスは握り慣れない剣を懸命に振り、敵役のヴァレリウスに一撃を与えようとする。それをかわしつつヴァレリウスは彼の動き方を見て指南していた。


「こう相手が動いたら、どうする?」


「ええと、剣で弾いてから、右に動いて切り込む……?」


「弾くのはいいが、右に動く間にこっちには隙ができる。だから弾いた直後に相手の懐へ飛び込んで突く……そのほうが早い」


 ゆっくりした身振りでヴァレリウスはわかりやすく説明する。


「飛び込むのか。何だか怖いな」


「相手もお前を怖がってるんだ。怯えた態度を見せれば、心理的に相手が有利になる。そうさせないためにはいつ何時も勇気を振るうことだ。躊躇はするな」


「う、うん。わかったよ。勇気、だね」


「二人とも、少し休んだら? もうずっと練習してるでしょう?」


 張られた天幕の中からコップを持ったエリンナが笑顔でやって来た。


「はい、お水をどうぞ」


 二人はそれぞれコップを受け取り、冷たい水をゴクゴクと飲んだ。


「……ふう、ありがとう、エリンナ」


「こちらこそ、兄さんに剣術を教えてくれてありがとうございます。こんな初心者に教えるのって大変じゃないですか?」


「それよりも、ちゃんと上手く教えられてるかのほうが気になるが」


「ヴァリーの教え方は丁寧だから、それは問題ないよ」


 ロアニスは額の汗を拭いながら笑顔で言う。


「ならいいが。人に剣術を教えるのは、これが初めてだったから自信がなくてね」


 剣を扱え、戦闘も経験しているため、リュデに頼まれたのがロアニスへの剣術指南だった。ヴァレリウスは自分より腕のある者から習ったほうがいいと言ったが、ロアニスからも頼まれたため、仕方なく引き受けたのだった。


「大丈夫だよ。剣術が上達しなきゃ、それは僕のせいだ。褒賞金が貰えるぐらい上手くなって見せるから、引き続き指南を頼むよ」


 そう言ってロアニスはコップを妹に渡すと、地面に置いていた剣を再び握った。


「え? もう再開するの? ほとんど休めてないじゃない」


「今の僕は戦うことが仕事なんだ。早くその技を身に付けないと皆に迷惑をかけることになる……ヴァリー、どう?」


 聞かれたヴァレリウスは水を一気に飲み干すと、エリンナにコップを渡した。


「もうちょっと休みたいところだが、そんなにやる気があるなら、やるか……」


 一息吐き、ヴァレリウスは緩んだ表情を引き締めてから剣を握った。


 彼ら傭兵部隊がいるのは次に目指していた街のある領内で、数日前に到着していたが、まだ街には入らず、少し離れた草原で待機させられていた。この間、交渉役を担う調査部隊が領主の元へ直談判におもむき、クーデターに加わるか否かの決断を迫っていた。今はその結果を待っている状況で、拒否された場合に備えての戦闘準備を整えつつ、束の間の息抜きで兵士達は思い思いにくつろぎ、休んでいた。


「……はあ、はあ……ここまでにしてもらって、いいかな。体力が、もうないよ」


 一時間、みっちり指南を受けたロアニスは、剣を置いて地面にへたり込み、肩で息をしながら言った。


「さすがに俺も疲れた……休むか」


 ヴァレリウスは剣を地面に突き刺し、椅子代わりの朽ちた切り株に腰を下ろした。頭上にはまだ青空が広がっていたが、山や森へ帰る鳥達の声が響き渡っていた。


「はい、どうぞ」


 エリンナが先ほどと同じように、また水の入ったコップを持ってやって来た。二人はそれを貰い、喉を潤して身体の熱を冷ます。


「……いい匂いがするな。そろそろ夕食か」


 ロアニスは疲れた顔をしながらも鼻をひくつかせる。


「向こうで今作ってる最中だから、できるまでもう少し待ってね」


 エリンナは空になったコップを回収すると、夕食を作っている天幕のほうへ戻って行った。


「……こんなむさくるしい場所にいながら、彼女も頑張ってるな」


 ヴァレリウスは天幕に入る背中を眺めて呟いた。戦えないエリンナは傭兵達の雑用を任され、連日のように立ち働いていたが、文句も弱音も吐かず、気丈に仕事をこなしていた。


「きっと、こういう仕事が性に合ってるんだと思うよ。誰かの世話を焼く? みたいなこと。家でも僕に注意しながら服やゴミを片付けてくれたりするし」


「前向きにやれてればいいが」


「ヴァリーは前向きじゃないよね。傭兵も、剣術教えるのも……僕のせいで、本当にごめん」


「何を今さら。もう契約した身なんだ。今は前へ進む気持ちしかないよ。剣術教えるのも、自分のおさらいになってるから悪くない」


「おさらい?」


「剣を握るのは大分久しぶりなんだ。だからお前に教えながら自分も昔の動きを思い出してるところがある」


「どのぐらい久しぶりなの?」


「二百年以上前だ」


 これにロアニスは目を丸くする。


「そ、そんなに? 想像より遥かに昔だった……」


「その時も傭兵として剣を振るって、それを最後にもう剣を握ることはないって思ってたんだが。人生はままならないな」


 遠い目をするヴァレリウスをロアニスは見つめる。


「誰かを切りたくないって思ったのは、昔に傭兵になったことが原因?」


「いや、それ以前からそういう気持ちはあった。別に何かが原因になったわけじゃない」


「じゃあ、何で剣術を習ったの? 身を守るためとか?」


「強制的に習わされたんだ。俺の意思はなかった」


「もしかしてヴァリーって、いい家の出?」


 ヴァレリウスは怪訝な目を向けた。


「……どうして?」


「だって、剣術は道場とか、腕の立つ剣士の弟子になって習うのが一般的だろう? そういうことに金を払って強制的に習わせるなんて、地方や田舎の人間じゃ余裕がなくてできないよ。そもそも教えてくれる人もいないしね。ヴァリーは子供時代、都会で暮らしてたの?」


「あ、ああ。そんな時もあったかな……遥か昔の記憶過ぎて、大分薄れてるけどな」


「そうか。不死者だもんね。生きてる時間が長いほど、どんどん昔のことは忘れちゃうか。仕方ないことだけど、何だか寂しい気もするね」


「いい思い出ならな。俺は早く忘れたいほうだ」


 遠くで剣の素振りをしている傭兵を眺めながらヴァレリウスは言った。


「あまり、いい記憶じゃなかったの?」


「多分ね。幸せな時もあったんだろうが、周りの嫌な顔や感情ばっかりが残ってる。そういうことだけはいつになっても忘れられない。困ったもんだよ」


「だったらこれからいい思い出を作ろうよ。それで悪い記憶を上書きすればいい。……あ、でも、傭兵の身じゃちょっと難しいか。戦いながらいい思い出っていうのも……」


「できないことはないさ。こうして待機してる時間に、ロアニスやエリンナと話せるのもいい思い出の内だ」


「僕達をいい思い出に入れてくれるのか? ヴァリーには引っ越して来てから世話になりっぱなしで、鬱陶しがられてもおかしくないって思ってたから、そう言ってくれると嬉しいな」


 ロアニスは言葉通り、ニコニコと無邪気に笑って嬉しさを見せた。


「鬱陶しいなんて思ってないから心配するな。……そっちはどうなんだ? 引っ越して来てから、いい思い出は作れてるか?」


「君と一緒に食事しながらしゃべったり、旅芸人の一座を見たのはいい思い出だよ。でもまさか、こんなことになるなんてね……」


 小さく肩をすくめたロアニスは苦笑する。


「……そう言えば、お前が引っ越して来たのって、親との不仲だけが理由なのか? 何か夢を持ってたり、ただ金を稼ぐためとか、目的でもあったのか?」


「え? あ、ええと……夢とか目的は、特にないんだけど、ただ、何となく、村を出たかったんだ……ほら、田舎って退屈だろう? 娯楽もないし、新しい刺激もないし。親と喧嘩してちょうどきっかけができたから、それで……」


「本当か……?」


「ほ、本当だよ。何で疑うの? 将来どうするかはこれから考えるつもりだよ。それより今は傭兵として頑張ることを優先しないと……」


 ぎこちない笑顔を作ってはぐらかすロアニスの様子は、真実を言っていないことを強く感じさせた。隠したいこと、言えないこと……おそらくそういうものがあるのだろう。それは誰にもあるわけで、聞いたヴァレリウスにもある。だからそれ以上聞くことはなかった。


 長い沈黙が続き、二人の間をそよ風が通り過ぎる。次第に太陽は傾いて、くつろぐ傭兵達の影を長く伸ばし始めた頃だった。


「夕食、できましたよー!」


 エリンナの声に、腹を空かせた傭兵達がザワザワと動き始める。それらは白い煙を立ち昇らせるかまどのほうへ移動して行く。


「兄さん、ヴァリーさんも、夕食取りに来て。今日はあったかいシチューだから冷めないうちに食べて」


「じゃあ早く食べないとな。……ロアニス、行こう」


「うん。具が多いといいけど」


「鶏肉もちょっとだけ入れたから、それは早い者勝ちよ」


「尚更早く行かないと。急ぐぞ!」


 小走りで向かうヴァレリウスをロアニスは追い、調理係がよそったシチューを受け取る。黄白色の水面に浮かぶ鶏肉を確認し、二人は一安心して口に運んだ。先ほどまでの沈黙はどこへやら、夕食はその後エリンナも加わり、談笑を交えながら和やかに時間は過ぎて行った。


 空が群青色に染まり始めた黄昏時、大半の傭兵は天幕に入って休んでいたが、ヴァレリウスは焚き火に当たりながら調理場のあるほうを気にして見ていた。そこでは数人の調理係が夕食の後片付けをしていた。その中にはもちろんエリンナの姿もあり、水を張った桶で仲間と黙々と皿洗いをしていた。夕食を食べた全員分となるとかなりの数だろうが、それを洗い終えるのをヴァレリウスはじっと待っていた。その理由は彼女と二人きりになり、より仲を深めるためだ。傭兵になった数日間はお互い慣れない環境で落ち着かない日々が続いていたが、それにも少しずつ慣れてきていた。ヴァレリウスの目的はあくまで死ぬことで、それを叶えてくれる恋人候補は今のところエリンナ一人だけだ。傭兵に加わるという思わぬ状況になっても、彼の中で本来の目的を果たす意気は少しも衰えていない。


 三十分後、ようやく片付けが終わったのか、調理係の面々がそれぞれの天幕へ散り始め、エリンナも挨拶をしながら調理場を離れた。ヴァレリウスはすかさず歩み寄り、声をかけた。


「お疲れ。エリンナ」


「あ、ヴァリーさん。もう休んでると思ってました。どうしたんですか?」


「まだ眠くなくてね。少し散歩でもしようかと思って。よかったらエリンナもどう?」


「私と、ですか? でも……」


 驚いたようにエリンナは見る。


「疲れてるなら無理にとは言わないよ。また次の機会でも――」


「い、いえ、そういうんじゃなくて、散歩するなら、兄さんも呼んであげたら喜ぶかなって……あっ、兄さん!」


 辺りを探していたエリンナの目が兄を見つけ、手を振って呼んだ。自分の天幕の側で素振りをしていたロアニスは、剣を置くと二人の元へやって来た。


「何? 何か用?」


「今ヴァリーさんが、一緒に散歩でもどうかって。兄さんも行かない? 剣の練習ばっかりで気晴らしも必要でしょう?」


「散歩? 僕も一緒でいいの?」


「いいですよね? ヴァリーさん」


 これが断られるという考えは微塵もなさそうに聞いてくるエリンナに、二人きりで行きたいなど言える空気もなく、ヴァレリウスは諦めの気持ちで答えるしかなかった。


「……ああ。ロアニスも行くか?」


「そう言ってくれるなら、行こうかな。そろそろ星も見える時間だし、たまには夜空を眺めるのもよさそうだ」


 笑顔で乗り気のロアニスを見て、決して彼のせいではないとわかっていても、ヴァレリウスは溜息の出る気分だった。


 三人での散歩は特に変化もなく、普段通りの雰囲気のまま終了した。これで三人の仲は多少深まったかもしれないが、ヴァレリウスが求めているのはエリンナ個人との仲の深化だ。その後も隙を見ては散歩に誘う努力をしたヴァレリウスだったが、彼女が二人きりで誘いに乗ることはなかった。そこには必ずロアニスを呼び、呼べない場合も兄さんが来てからでいいですか? とヴァレリウスの望み通りになることはなかった。この行動に彼は悩んだ。自分はいつの間にか嫌われ、避けられているのだろうか。あるいは兄に気を遣い、できるだけ三人で行動しようと考えているのか。兄思いの彼女ならそうであってもおかしくはないが、だとしても二人きりになる状況をことごとく避けるのは不自然にも思えた。エリンナの正直な気持ちを知るには、回りくどいことはせず、はっきり聞く必要がありそうだ――そんな機会をうかがっていた時だった。その知らせはいきなりやって来た。


「ここの領主との交渉は決裂した。よって今夜、街に入り攻撃を仕掛ける。皆、準備は入念にしておけ」


 早朝、一箇所に集められた傭兵達に向かい、連隊長の男性が険しい表情で伝えた。


「やっと戦えるな」


「身体がなまるところだったぜ」


「サクッと終わらせてやるか」


 傭兵募集に応じただけあり、誰もが腕に自信ありげに自分の出番を楽しみにしていた。そんな兵士が立ち並ぶ中で、三人だけは暗い顔を浮かべていた。


「もう、今夜から戦うのか……急過ぎて、心の準備が追い付くかな」


 ロアニスは笑おうとするも、緊張がそれを邪魔していた。


「兄さん……だ、大丈夫よ。毎日練習して、ヴァリーさんにも教わったんだし」


「ロアニス、お前の剣の腕は確実に上がったんだ。自信を持てって」


「うん。そうだね。あんなに練習したんだし……はあ、でもやっぱり、手が震えてきそうだ」


 手のみならず、足や声まで震えそうな緊張を見せるロアニスに、ヴァレリウスは努めて明るく言った。


「震えも緊張も最初だけだ。相手に一太刀浴びせれば、そんなのすぐに消える。あとは必死に剣を振ってれば、気付いた時には全部終わってるよ」


「そ、そうなのか……?」


「終わったら教えてやるから、お前はただひたすら剣を振ることに集中してればいい。ただ、間違って俺や仲間を切ってくれるなよ?」


 これにロアニスはフッと笑う。


「いくら初めてでも、それはさすがにしないよ……でも、混乱や動転をしないように気を付けるよ」


「ああ、しっかり準備しろよ」


 ヴァレリウスに励まされるように肩を叩かれると、ロアニスは笑みを返し、そのまま戦闘準備をしに天幕へ向かった。


「あの、ヴァリーさん。兄を、どうかお願いします」


 兄を思う眼差しが心配そうに頼んだ。


「初陣で死なせたりしないさ。俺が付いてるから大丈夫だよ」


「そう言ってくれると、ちょっと安心できます。兄は戦いに向かない、大人しい性格だから、誰か見ててくれる人がいないと、すぐに怪我を負いそうで……傭兵なんて絶対に向いてないけど、でもヴァリーさんがいてくれれば、心強いです」


 過去に傭兵経験があり、剣術を身に付けているヴァレリウスではあるが、実際に戦闘をするのはおよそ二百年ぶりであり、その時間から見れば彼もまた初心者に近いと言えるかもしれない。前線で昔の勘が戻るかはわからない。不意打ちを食らってあっさり捕まる可能性もあるだろう。そうなれば助けが来るまでここへは戻れなくなる。聞くべきことは、今ここで聞いておくべきか――小さな危機感に背中を押され、ヴァレリウスは口を開く。


「エリンナ、一つ頼みがあるんだが……」


「はい? 何ですか?」


 わずかに首をかしげた顔を見つめてヴァレリウスは言った。


「ここでの戦闘が終わったら、俺とデートしてくれないか?」


「……え?」


 ポカンと口を開けた顔が、言葉の意味を理解するにつれ、徐々に赤みを帯びてくる。そして耳まで赤くなると、エリンナは顔を伏せ、途端にモジモジし始めた。


「それって、その……私と……ってこと、ですか……?」


「エリンナに言ったんだ。当たり前だろう」


「デートって、それは、あの、私のことを……」


「ああ。よければ恋人になってほしい」


「!」


 ハッとヴァレリウスを見た赤い顔だったが、またすぐに伏せられた。


「だ、駄目ですよ。私なんかじゃ……」


「やっぱり、俺が嫌いか?」


「……え?」


「いくら散歩に誘っても、二人きりで行こうとはしなかっただろう。俺は何か、気に障ることでも言ったかな」


 これにエリンナは首を横に振った。


「ヴァリーさんを嫌ってなんかいません。助けられて、お世話にもなってるのに」


「じゃあ、どうして毎回ロアニスを呼んで避けるようなことを?」


「避けてたわけじゃ……ただ兄も誘ってあげたら、喜ぶと思って、それで……」


「気遣ってやったのか……それじゃあデートの誘いは受けてくれるか? さすがにデートに行くのに兄を気遣う必要はないだろう?」


 エリンナはなおも赤い顔を見せていた。照れや恥ずかしさで紅潮しているだけと思えたが、その表情には若干の気まずさも見て取れた。


「ヴァリーさんのお気持ちは、すごく、ありがたいですけど……私は、恋人には、なれません」


「他に心に思う人でも?」


 エリンナは黙り、わずかに視線を泳がせてから言った。


「……ヴァリーさんとは、できればそういう関係じゃなくて、これまでみたいな友達のままで、いさせてほしいんです」


「つまり、俺を異性としては見られないってことか?」


 薄かった気まずい表情が、今度ははっきりと浮かび上がった。そしてエリンナはコクリと小さく頷いた。


「ごめんなさい……」


「謝るのはこっちだ。戸惑わせて悪かったよ。だが嫌われてなかったと知れただけでもよかった」


「あの、デートは無理ですけど、三人での散歩のお誘いなら、受けますから……それでも、いいですか?」


 上目遣いの視線がヴァレリウスを恐る恐る見つめる。


「そうだな……じゃあここでの戦闘が終わったら、夜空を眺めながら三人で祝杯でも挙げようか」


「はい、ぜひ。兄も絶対喜びます」


 赤みの引いてきた顔は、普段見る優しい笑顔を見せた。恋人候補だったエリンナに振られたことは残念ではあったが、女性に振られる経験を幾度もしているヴァレリウスにとっては、さほど落ち込むことではなかった。いつものことで、また次の候補を見つけなければ――そんな前向きな気持ちだった。となると、女性との出会いとは無縁の傭兵でいる理由はなくなる。しばらくは戦闘に集中するだけの日々が続きそうだった。

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