久しぶりの距離
専業プウタ
第1話
「佳代子、久しぶりー! 変わらないねー」
今日は18年ぶりに大学の同級生に呼び出されて、お茶をしている。
真理は私の大学時代の親友で卒業してすぐに結婚した。
それ以来、彼女の夫が転勤族ということもあり音信不通だった。
「本当に大変だよ。転勤がさ、3年に1回はあるから。子供が中学に入ったあたりから単身赴任して貰ってるんだ」
「そうなんだ。単身赴任って大変そうだね」
私はまだ独身で子供がいないから、真理の話に共感できない。
「ほら、単身赴任中って浮気とかされそうって心配になるじゃない。全国転勤がある仕事って地方の方から見ると高収入らしくモテるのよ」
「旦那さん、国家公務員だもんね⋯⋯」
「私も自分が公務員になんて地味な職業の人と結婚するとは思わなかったよ。でも、公務員って不況知らずで意外とモテるんだよね。佳代子は良い人とかいないの?」
「う、うん⋯⋯私はもう一生1人で暮らすこととか考えているかな?」
「子供は早く産んだ方が良いよ。確かに医療が発達して40歳でも子供産めるけどね。羊水は腐らなくても、子育ては体力使うから」
「そうなんだ⋯⋯子供か⋯⋯真里の子供は今、幾つくらいなの?」
なぜ、子供の話になったのだろうか。
今、私は彼氏もいないし、一生1人で暮らすことを考えマンションを買ったばかりだ。
「高校生だよー。もう、思春期真っ只中で大変。某有名私立校に受かっちゃってお金も掛かってさ。何で受かっちゃうかね⋯⋯公立で良かったのに」
「そうだよね⋯⋯私は当たり前のように公立高校に進んだから、私立ってどんな感じかよく分からないな⋯⋯」
これは、会話なのだろうか。
一方的に私は彼女の相手をさせられているような気がしてきた。
「でも、都内だと公立出身だと馬鹿にされたりするから、私立でよかったかも。将来、結婚相手に出身学校で差別されたら可哀想だし」
「そんな出身校で差別するような人⋯⋯結婚しなくて良いんじゃ⋯⋯」
公立優位の地方出身者の私には分からない話だ。
そういえば、昔、彼女に出身校を聞かれて答えたら、地方の学校は分からないと少しバカにされたように言われた。
「女の子なんだから、結婚して出産しないとでしょ。あっ! ごめん、これから娘ちゃんの学校の保護者との集まりなんだ。周りがセレブばかりだから、美容院寄ってから行くことにしてるの」
「そっか、大変なんだね。バイバイ」
「楽しかったよー。佳代子はゆっくりしていきなよ。また会おうね」
そういうと、真理は5000円をテーブルに置いた。
このホテルのアフタヌーンティーは5000円だけれど、消費税を入れれば5500円だ。
(私がケチくさいのかな⋯⋯なんか、疲れた)
18年ぶりに会って忘れていたが、真里は元々何かにつけてマウントを取ってくる女だった。
きっとストレスでも溜まって、私にマウントを取ることで発散しようと呼びつけたのだろう。
久しぶりに旧友から連絡が来て、懐かしくなって喜んでいた自分がむなしい。
もしかしたら、出会いのない私に知り合いを紹介してくれるのではないかとも期待していた。
(会わなきゃよかったな⋯⋯)
♢♢♢
⋯⋯久しぶりにみんなで会いましょうか⋯⋯
私は地方出身者で大学生になって上京してきた。
それ以来、地元の友達とは疎遠になっていて同窓会に呼ばれることはなかった。
私は久しぶりに来た同窓会の案内のハガキに心躍らせた。
⋯⋯追伸⋯⋯佳代子に会いたくて、実家に居場所を聞きました 徳永⋯⋯
ハガキに手書きで書いてあった徳永君のメッセージに胸が高鳴った。
徳永慎也は私の初めての男だ。
「佳代子、久しぶり! 変わんないなー!」
「いや、もういい歳だよ」
「変わらず綺麗だよ。やっぱり子供産んでない女は綺麗なまんまだな」
同窓会で再会した徳永君の言葉に私の心は少しざわついた。
独身だということは、私の実家から聞いたのだろう。
「徳永君、結婚は?」
「俺も独身だよ。独り身って寂しいもんだよな。もう、抜けない? 俺の今日の目的って佳代子と会うことなんだ」
徳永君は指輪はしてなかったが、左手の薬指に日焼けの跡があった。
結婚はしていたことがあるのではないだろうか。
それでも、そんな事を言って白けさせてはいけないかもしれない。
「えっ? ちょっとホテル行くの?」
同窓会会場を出て連れて行かれたのはホテル街だった。
「佳代子と別れてから、お前のこと一度も忘れたことはなかった」
彼に熱っぽい目で見られてしまって戸惑ってしまう。
正直、私の心はそこまで温まっていないけれど、少しの期待感があった。
(もしかして、22年ぶりの再会で私たちの関係が変わるんじゃ⋯⋯)
2人で抱き合った後、徐に彼がカバンからパンフレットを取り出した。
「このウォーターサーバーが最高なんだよ。佳代子にも使ってほしくてさ、購入してみない?」
私は唐突な彼のセールスに固まってしまった。
何十万円もするウォーターサーバーを今売りつけられようとしているのだ。
「いや、私、基本ミネラルウォーターを買うようにしているからウォーターサーバーはいらないかな」
「ミネラルウォーターを買うようりも絶対経済的だから」
もしかして、私はこれを売りつける目的で彼に呼びつけられたのだろうか。
その時、彼のスマホにメッセージが来たのか、スマホの画面が光りホーム画面が見えた。
(子供の写真⋯⋯子供いるんじゃないの?)
「子供⋯⋯」
「そうそう、赤ちゃんのミルク作りにも直接お湯が出てくるから便利だよ」
彼がパラパラとパンフレットを捲りながら、説明をしようとしてくる。
「ウォーターサーバーも、あんたもいらないわ!」
私はそのパンフレットを思いっきり、彼に叩きつけホテルの部屋を出た。
そういえば、私たちが別れたのもの彼の浮気が原因だった。
それ以前に、彼は元から私に友達と趣味でやってるダンスのイベントのチケットを売りつけたりしていた。
(普通、彼女のことはチケット売らずに招待するだろーが!)
今、思うとあの時も私は彼の彼女ではなく浮気相手だったのかもしれない。
(あーいう奴だって分かってたのに22年前の記憶を勝手に美化してたわ!)
♢♢♢
⋯⋯久しぶりだね。東京に出てきているんだけれど、会えない? 美香⋯⋯
どこから私の連絡先を聞いたのか、ショートメッセージで送られてきた誘いにため息をついた。
美香は私の小学校の時の同級生だ。
小学校5年生で不登校になった彼女は、その時から引きこもりになっている。
私はそれまでは彼女と親友のように仲良くしてきた。
「久しぶりに会いたいって⋯⋯何が目的よ⋯⋯」
私は真理と徳永君と会った後で懲りていた。
久しぶりに会う人間とは、会わなくても毎日は問題なく過ぎていく。
それでも、わざわざ「会いたい」だなんて連絡をしてくる人間は下心があるのだ。
「忙しいので会えません」
私はそう短くメッセージを送信すると、それから1週間経っても美香からの返信はなかった。
♢♢♢
「あれ? 私、鍵閉めないで家出ちゃったっけ⋯⋯」
ある日、家に帰ると鍵を開けたはずが逆に閉まってしまった。
中に入ると、電気を消して家を出たはずなのに明かりが煌々とついている。
「うわー電気代もったいない」
独り言を呟きながら、リビングに入ると知らないおばさんがいた。
髪は白髪だらけのボサボサ髪だけれど、彼女の攻撃的な目つきは忘れることがない。
(いや、私、彼女を知ってるわ!)
「お久しぶり、佳代子ちゃん。あなたのせいで、美香が自殺したわ」
私はそのおばさんの言葉と、彼女が握っている包丁に震撼した。
「美香のお母さん、それは、私のせいではありません!」
「助けを求めた美香を無視したでしょ! 許さないから!」
突進してきた美香の母親に私は刺されて、倒れた。
彼女が私へ暴言を吐いている声がどんどん遠くに聞こえる。
私は美香の母親がこういう女だということを思い出していた。
もう、30年も前、美香が不登校になったのは母親が原因だった。
美香の母親は些細な子供同士のトラブルも、学校にクレームを出した。
そうする内に周囲は美香と関わるのを避けるようになった。
私は美香から母親の過干渉がきついと相談を受けていた。
彼女は「学校にいる時が1番楽だ」とよく漏らしていた。
そんな彼女も小学校5年生から学校に来なくなった。
それを、美香の母親は周囲が美香を無視して虐めたせいだと主張し学校で大暴れした。
30年も前のことで彼女がどういう人間だったか、忘れていた。
どうやら私はこのまま死ぬみたいだ。
天国で、30年ぶりに親友の美香と久しぶりに再会する。
そうしたら、彼女に言ってあげようと思う。
「久しぶりの距離って良いよね!」
逃げられない距離に、怪物のような人間がいた彼女を慰めたい。
久しぶりの距離 専業プウタ @RIHIRO2023
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