おフランス神のやり直し!〜仏偉人達のしくじり先生録

ライデン

第1話大統領ナポレオン・ボナパルト

 フランスの神とは誰か? キリスト教の唯一絶対神? いな! 断じて、いな

 フランスの国民達よ、祈る神を間違えておるぞ!


 フランスの神といえば……わたくしのことであろうが!!――フリジア帽を被った美しくオシャレで、ナイスプロポーションなわたくし。自由と平等と博愛を司る女神・マリアンヌ様じゃ!

 祈る相手を間違えるから、そもそもおぬし達は失敗ばかりなのだ。



 パリ五輪?史上最悪の五輪などと評されおって、我がフランスの名声をセーヌ川の底に落とした愚行、断じて許さぬ。

 五輪後もフランスは財政難にあえいでおり、財政改革を求められている。が、少数派である与党連合は、大胆な改革をうちだせないでいる。

 そのような政治的不安定性に加えて、8%と日本の3倍以上に及ぶ失業率の高さ、社会福祉の不備、移民の多さ。環境問題、教師不足、若者の就職率の低さなどなど社会問題は山積み。


 今こそ、わたくしが右手に持ったフランス国旗と左手に持った銃剣付きのマスケット銃を振るうべき時!


 今流行りのAIとやらで、古の偉人達を蘇らせて現世に送りつけてやるのじゃ!



「来たれ、フランスの偉人共よ。そなた等の力でフランスの名誉を回復するのじゃ、まずは……大統領を任命しようかの。……コルシカ島の小貴族の次男坊から皇帝にまで登りつめた男、ナポレオン・ボナパルト!」



御前おんまえに」


 肖像画に書かれたハリウッド男優張りの美丈夫……ではなく、傲慢でメタボな感じの小さなおっさんが目の前に現れた。



「おぬし、“予の辞書に不可能いう文字はない”とか“睡眠時間は1日3時間だ”とか嘘八百を並べ立てておるな」


「いえ、決して嘘ではありませぬ」


「嘘をつけ。毎日、風呂に6時間以上入っておったじゃろ。その間、絶対、寝ておっただろうが!」


 それに。“不可能が載ってない辞書”など、どこにある!?


 「……そういえば。そなた、妻の浮気を辞めさせられなかったじゃろう。不可能、あったよな? ロシアの冬将軍にも負けたよな? 皇帝位も2回失って百日天下とか言われてるよな?2回目の失脚からは、立ち直れなかったよな?」



「それが、なにか?」

 何も悪びれずに、問い返すナポレオン。



「2度と“不可能という文字が無い”とかうそぶくな! ……まぁ、よい。にしても。そなた、肖像画と外見がかけ離れておるのぉ」


「今風に言えば、【イメージ戦略】。砕けた言い方をすれば、【盛った】というところでしょうか?」



「盛りすぎじゃ。まぁ良い。そなたを抜擢する理由の一つは、その斬新で臨機応変な発想力と類まれなる行動力。それと、嘘を論破されてもまったく動じぬ胆力もか」


 まぁ。フランス人は男女ともに胴長短足が多く、老けやすく、腹も出やすいし、ハゲやすいようじゃが。

 わたくしは、そのような無様ぶざまな事象とは無縁。ウジェーヌ・ドラクロワの絵画“民衆を導く自由の女神”以上に、美しく・勇ましく・優美で華麗でナイスプロポーションなのじゃ。



「他には?」


 (俺の才能は、それだけではないだろう?)とでも言いたげに、ニヤリと傲慢に笑うナポレオン。



(この、サイコパスめ!) 


 不快感を必死に抑える、わたくし。



「他には、そなた……ベートーヴェンに“英雄”という曲を贈られたそうじゃが……そなたが皇帝に即位したことで、そなたを褒め称えた表紙を破り捨てたそうじゃな」


「それがなにか?」


「己が権力欲で独裁政権などうちたておって!まぁ、その権力欲こそがそなたの行動力の源泉であろうし、優秀な腹心の言うことを聞ければ今度は2回も失脚もしなくてすむかもしれぬがな。1度失脚してからも民衆の支持を受けて再起したカリスマ性は評価に値する」 


「腹心?」



「いろいろ考えておるが……軍事大臣にジャンヌ・ダルクはどうじゃ?」


 ナポレオンも軍人。まずは、軍務の話からしてやろう。みんな大好き、ジャンヌ・ダルク!



国威発揚こくいはつようのプロパガンダとして、名前を使ったことがありますが……腹心としては、どうですかね?」

 

 傲慢なナポレオンには、不信感が見え隠れしていた。

 

「フランス国民に対するプロパガンダとしては使えるという認識か……まぁ。その認識は正しい。流石はナポレオン、戦略・戦術と宣伝せんでんの天才と称賛しておこう。今度は、〝オルレアンの乙女〟ことジャンヌ・ダルクの有用性と残念さについて議論してやろうか」 


「はぁ」 


 ナポレオンは、心底どうでもよさそうな返事を返した。

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