第49話 鬼VS魔族自衛官

 音を立てないように慎重に移動し、俺は壁から覗き込んだ。

 工場の灯りに照らされた影が見える。数は一人。機敏に動いているから俺を捜しているCRAT隊員だろう。そして離れたところにも一人分の影が動いていた。


『左手の建物の二階部分に軒下があります。その上に身を潜めてください』


 スマホから聞こえるシロネの言葉に従って俺は空中移動スカイムーブで静かに移動し、位置につく。


『そこを一名通ります。私が合図したら攻撃してくだい』

「……」


 俺はコンコンとイヤホンマイクを二回叩いて『了解』を示した。

 さすがに緊張する。実戦は初めてだし、殺すとなると、思わず手が震えてくる。


(大丈夫だ……これくらいできないで何がCRATをぶっ壊すだ。こんなんじゃ九鬼グループも瓦解させるなんて夢物語だろ)


 影から妖刀・鬼切景光を取り出した。壁面から飛び出した軒下で俺は片膝をつき、シロネの合図を待つ。


「来ます……三、二、一――今」

「……ッ!」


 俺は飛び降り、黒い刃を振るった。


「ぐ……っ!?」


 隊員がちょうど角を曲がった瞬間、肩口から脇下にかけて斬りつける。エネルギーシールドが淡い光を瞬かせて消え、装甲服のアーマーから火花が散った。その衝撃で隊員が体勢を崩し、よろめく。


(食らえ!)


 装甲服の急所である首に切っ先を突きたてた。隊員がごぼごぼと喉を鳴らし、その震えが鬼切から伝わってくる。

 命が消える生々しい感触に俺が顔を歪めると、シロネの声がイヤホンに響く。


『ターゲットダウン。続いて建物を挟んだ向こう側から来ます。死角を利用して空中から奇襲してください』


 俺は飛び上がり、空中移動スカイムーブを使って建物に隠れながら動く。

 動揺している暇はない。ここでらなきゃ俺がられ、そしたら美亜を護れる奴がいなくなる。そんなのは絶対に許容できない。

 緊迫した状況で何かのリミッターが振り切れたのか、俺は冷静に敵を見つけた。


(今だ……!)


 さっき倒した隊員に合流しようと近づいてきた奴の頭上で身体を捻って真下を向くと、俺は空を蹴る。その勢いで背中を斬りつけ、着地した。

 斬撃でエネルギーシールドが過負荷になって消える淡い光を散らせると、隊員がよりめきながらこちらに振り向き、ライフルを構えてくる。

 斬り込みが浅かった。やっぱりシールドと装甲服があると一撃では厳しい。

 だが遅い。俺は隊員が撃ってくるよりも早く鬼切で首を斬った。


「うぐっ! ……っ!」

「こいつ……っ」


 隊員が首を押さえながら銃口を向けてくると、俺はその銃身を咄嗟に蹴り上げた。射線が俺から外れたところで高速徹甲弾が吐き出され、工場の壁を貫く。


「ふっ」


 回し蹴りを入れて吹き飛ばすと、隊員が地面を何度か跳ね、地面に転がった。

(首を切ったのに反撃してくるなんて……CRATはほとんどが魔力を持った人造人間ホムンクルスで構成されてるらしいけど、こんな奴らをあと何人倒せばいいんだ?)


 俺がそう思うと、シロネの指令が飛んでくる。


『今の銃声で周囲の隊員に気づかれました。離脱してください』

「……っ」


 空中移動スカイムーブで即座にこの場から離れる。

 工業区画を駆け、数百メートル移動すると、俺は人気のない建物のそばに身を潜めた。


『近くにCRATはいません。小声なら話しても問題ないです』

「お前の言った通りにしてみたが、やっぱり不意打ちだとしても鬼の力を解放しないと、奴らと戦うのは厳しいな」

『仕方ありません。できるかぎり電子的に撹乱していますが、魔力を探知させるわけにはいきませんから』

「そうだな……でもこれをあと何回続ければいいんだ?」

『五回ほどです』

「そうか……」


 これからは不意をつくのは難しくなるだろう。仲間の死体から俺の武器が刃物であると知られているだろうから、近接戦に備えてライフルから高周波ブレードに武装を切り替えてるかもしれない。そうなったら面倒だが、勝算は十分ある。

 こっちのアドバンテージは、鬼の力を解放しないことで得た隠密性と、シロネのオペレートとによる不意打ち。それと空中移動スカイムーブでの機動性だ。あとは電子的に撹乱してくれているらしいが、そっちの方はよくわからない。

 このままいけば普通の隊員と戦うなら問題ないだろう。


「問題は、グレーヘアの男だな」

『左様でございますね』

「奴の情報はわかるか?」

『名前は、本郷明人ほんごうあきひと。階級はCRAT一佐、四百年ほど生きている蛟竜ミズチです。魔族ランクはSで、装甲服を着た彼の戦闘能力はSSランクに匹敵します。能力は水を操る力で、無から水を生み出すことも可能です。現在は久遠くおん市長、九鬼清くききよしの側近として任務に従事しています』

「俺より強いって予想はしていたけど、まさかSランクが装甲服でSSランクって……」


 そんなの勝ち目がないじゃないか。ただでさえSランクは次元が違うのにその上、装甲服で強化されてるなんてふざけるなよ。

 そう言ってやりたかった。だけどこの状況でそんな泣き言を言っても仕方ない。


(倒すしかないんだ。本郷を倒さないと、俺と美亜に未来はない。もう俺の顔は知られてるし、このままじゃいつか捜し出されて殺される)


 とはいえ、Aランクの俺じゃ最初の一撃で致命傷を負わせるしか勝ち目がないわけだが、完璧に不意をつけて、それでいて保険として俺が有利に立ち回れる場所が必要だ。


(本当に勝ち目はあるのか? いや……弱気になるな。今わかることだけ考えるんだ。種族が蛟竜なら爬虫類に近い生き物だろうし、それで水を操るんだから……あそこはどうだ?)


 俺はふと思いついた。


「シロネ、本郷に勝てそうな場所と条件に心当たりがあるんだが……」

『そうですか。私もこの状況で勝率が高い場所を割り出しております』


 その言葉に俺はにやりと笑う。


(やっぱり勝算がないわけじゃなかったんだな。よし……これならいけるぞ)


 シロネの言葉にほっと息を吐くと、俺は作戦を伝えたのだった。


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