第42話 妖狐VS魔族自衛官

 この一撃にすべてを込めるつもりで狐火を手と手の間で圧縮する。

 コンテナの後部ドアがゆっくり開く間、あたし――真綸まりんは狐火を溜めていた。

 目標は敵の戦闘ヘリ。生半可な火力じゃアレは倒せない。

 あたしの全力をぶつけてやるわ!

 後部ドアが開き、上空を飛ぶ鋭角な機体が見えた。


炎熱線えんねっせんッ!」


 光線のような炎を放つと、炎熱線が戦闘ヘリの操縦席に命中した。一瞬で機体が溶け、爆発すると、四車線ある道路に墜落する。

 戦闘ヘリは炎上し、残骸になった。だがその上空に十人分の人影が見えてきた。

 スラスターと背面の小型ジェットで空を駆けるCRAT隊員だ。


「このっ、次から次へと来るわね……あれは……」


 隊員の中に特殊なアーマーを着た者がいた。他の一般隊員はゴツイ装甲服なのに真ん中にいる者のフォルムは綺麗で藍色の頭を露出している。


「あれが部隊長ね。いいわ、やってやろうじゃないの」


 あたしはトラックから飛び降り、着地すると彼らに向かってジャンプした。手から狐火を噴き出して空中を飛び、隊員たちに接近する。


「接近させるな! 撃て撃て!」


 ダンダンダンダン! ダダダダダダダッ!


「その程度で!」

「これを避けるか……!? 化け物めッ!」


 手から出した狐火で急加速しつつ身体を捻り、あたしは銃弾を避ける。


「なぜだ!? なぜ当たらん……!?」

「来るな! うっ、うわああああああああ!」


 十丁のライフルから放たれる銃弾を避けながら隊員に接近し、妖狐の能力でひとりを消し炭にした。黒焦げになった隊員が墜落する間、あたしは空中を飛んだまま銃弾をぐっと身体を捻って避け、二人目の隊員のヘルメットをつかみ、そのまま狐火で燃やし尽くす。

 グワァァァァァァッと叫びながら燃える隊員の声が響く中、あたしの脳裏に嫌な予感がよぎる。

 反射的に車道を見ると、二人の隊員がミサイルの発射体勢に入っていた。


「シャドウファングフォー、目標ロックオン、ARMアルムA1エーワン!」

「シャドウファングセブン! ARMアルムA1エーワン!」


 隊員が同時に「発射ファイア!」と叫ぶ。銃弾の二倍以上の速で飛んでくる小型の対人ミサイル。普通ならこんなのに反応できるわけがない。

 だけどあたしは違った。四発のマイクロミサイルを無意識で回避する。

 まるで攻撃される運命を知っていて、それを回避するために身体が動いた感じだ。

 これが、あたしが運命を知る者フェイターと呼ばれるゆえんだった。学園でも隠してるあたしの能力――見切りの心眼はSランク相当のものらしい。おかげで銃弾もミサイルも当たらない。


「クタバレ! CRATシーラットッ!」


 あたしは両手から炎を噴き出し、急降下すると、地上に降りていた二人の隊員をすれ違いざまに狐火で燃やした。


(これで四人目! やれる! このまま返り討ちよ!)


 そう思ってあたしが空を見上げると、隊長クラスの装甲服を着た女が地上に降りてきた。


「ほらほら、下がって下がって、あなたたちは援護に徹しなさい。彼女は私が相手をするから」


 鼻から下を覆う多機能ハーフガスマスクで顔が半分隠れているけど、ふんわりとした藍色のミディアムヘアと虚ろな瞳は見間違えようがない。

 鳴宮和奏なりみやわかな。あたしの担任でCRAT三佐だ。

 怪異連合の情報によるとBランク魔族の影鰐かげわにらしい。普通ならSランクのあたしがBランクの鳴宮に負けるなんてありえない。


(不気味なのよね。あの虚ろな瞳。ガスマスクで見えないけど、きっといつもみたいに不気味な薄ら笑いだって浮かべてるだろうし、いまいち実力がつかめないのよね……)


 鳴宮といえばクズで有名だ。サボり癖があるし、人の不幸を笑うのは当たり前だ。鳴宮の悪口を言った生徒の上履きにたばこの吸い殻が入れた話を聞いたことがある。たぶん鳴宮がいれたのでしょう。といっても、たばこの吸い殻は鳴宮自身が喫煙者じゃないから私じゃないと言い張っていた。

 そんなクズが自分より強いはずのあたしの前に堂々と立っている。


(これはあたしに勝てる算段があるって考えた方がいいわね……クズは絶対に自分が痛い目に遭わないように行動するから)


 そう思った瞬間、あたしの頭にビビッと電流のようなものが走る。


「……ッ!」


 思わず飛び退くと、あたしがさっきまでいた場所に影が伸び、鰐の形になって噛みついた。

 見切りの心眼がビビッて反応してよかったわ。もし噛みつかれてたら今のでやられていたから。

 鰐の噛む力は、二トンはあるという。妖狐の身体は人間より丈夫だとしても影鰐に噛みつかれれば身動きが取れなくなるだろうし、そうなったらきっと銃弾でハチの巣にされる。


「厄介だねぇ。私の能力にも反応するなんて」

「えぇそうよ。見切りの心眼に死角はないわ。でもそっちの能力は頼りないわね。影を媒介にするもので、射程はせいぜい数メートルってところ?」

「さぁどうだろうね!」


 鳴宮の足元から影鰐が伸び、噛みついてくる。真横に飛び退いて避けると、虚空を噛んだ影鰐が霧散し、空気に溶ける。その直後、再び正面から影鰐が大口を開けて迫ってきた。


(能力の発動が早い! でも……っ!)


 飛び退いて避ける。すると再び影が伸びてきて噛みついてきた。あたしが避けると、さらに影鰐が伸びてくる。

 すさまじい迫力だ。人間を丸のみにできる大きさの顎がこんなに伸びてくるのは。


(次回に続く)


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