第18話 勝機


 リュー、ポンと共にいつもの駅前に到着しました。今日は駅前での求人スカウト活動。リューの店で働いて貰えそうな人間を見つける事が目的でした。




にしま「リュー、この見えにくい掲示板見てみ。」




 掲示板の前に立つ3人。





リュー「あっ駅に隣接してる複合施設のトイトイブラザーズの求人チラシですね。」




にしま「トイトイの横にほら、・・・オーラス興業のチラシも貼らせて貰ってんだよ。まぁ、みなみだけどな貼ってんのは。」




リュー「えっほんとですか?・・・それ凄いじゃないですか・・・。普通はこの駅に付随したチラシしか貼らせて貰えないもんだと俺は思ってましたが・・・・。みなみさんは本当に顔が広いですねぇ・・・・。」




 みなみとここの駅員がズブズブの関係であり、特別に貼らせて貰っていました。みなみとその駅員とはたまに一緒に飲みに行くほどの仲だそうですが、もしその駅員が転勤や退職などしてしまった場合はオーラスのチラシは撤去される可能性が高いと、みなみからは言われていました。


 こういう活動が出来るのも今のうちです、今のうちなのです。今のうちに私達は勝機を掴んでおかないといけないのです。




 掲示板の前で3人で話していると、丁度掲示板のチラシの貼り替えに来た職員さんが来ました。




職員「ごめんなさいねー、・・・お邪魔して・・・直ぐ終わりますからねぇ・・・。」





にしま「・・・・・・ん?・・・・」




リュー「・・・どうしたんですかにしまさん。」





 ガシッ・・・・




 やってきた職員の肩を掴むにしま・・・・。





にしま「もしかして・・・・平場(ひらば)さん?・・・じゃないですか?・・・・」




職員「え?・・・・・もしかして・・・・・に・・・・にしまくん?!・・・・え!?こっち帰って来てたんだ!!」




 笑顔が素敵な人の良さそうな、スポーツ刈りで中肉中背のお兄さんでした。




リュー「あっお知り合いの方ですか?」




にしま「俺の兄貴の友人の平場さんだわ。俺が子どもの頃大変お世話になった方だ。・・・本当にお久しぶりです。びっくりしましたよ。兄から市内に出られたって事は聞いていましたが、そこのトイトイブラザーズで働いてたんですね。それは知らなかったなぁ・・・。」




平場「そうそう、色々と職探ししているうちにいいとこに受かっちゃったよ(笑)にしまくんはどちらでお勤めなの??・・・なんだか見ないうちに顔つきも変わって・・・今の僕とは違って高そうなスーツ着てるね(笑)皆さんもなんだかかっこいいですねぇ(笑)・・・営業マン?」




にしま「はい、営業やっています。俺はここで働いてます、オーラス興業です。」





 トイトイのチラシの横にある、小さなチラシを指さしました。





平場「・・・・オーラス・・・興業・・・。オーラス興業・・。あっ人材派遣業なんだね。なんか聞いたことあると思ったら、チラシが常にうちのチラシの横に貼ってあるからか(笑)偶然だねぇ同じ所にチラシ貼ってるなんて。そういえば・・・・お兄さんは元気してる??もう随分会ってないなぁ・・・。」





にしま「兄貴は出世して、県外に出ました。仕事ではもう当分こっちには帰ってこれないと思います。平場さんと会った事は兄に言っておきますよ。」




平場「そうなんだ、じゃあまた地元帰ったらご飯でも行こうって伝えといてよ。」




にしま「はい、必ず伝えておきます。」




 リューが恐る恐る会話に入ってきます。




リュー「あの・・・求人用ポスターを張り替えてるってことは・・・平場さんはこのトイトイブラザーズの人事担当の方ですか?或いは庶務とか。」



平場「えっ?・・・・」




 一瞬かなり真面目なリューの顔を見て少しビックリした様子でしたが、リューが慌てて表情を変えるとそれを見て安心したのか、平場さんはゆっくりと話し始めました。




平場「・・・ええ、もうここで何年もやってますよ人事を。・・・・ここだけの話ね、不況で私の会社の人事課自体が無くなる方向に向かってるんですよ。課員も私を含めてたった3名しかいません。しかもそのうちの1名は定年再雇用者ですし、もう一人は兼務者なので普段は他の仕事をやってます。・・・私も早く現場に戻りたいって気持ちもありますし、人事課無くなるなら早く無くなれって正直思っちゃってますよ(笑)」



 リューはにしまの兄の友人である平場の話を聞いて急に笑顔になります。




リュー「・・・・にしまさん、答えがもう出てます。」



にしま「え???・・・何が?・・・・なんのこと??・・」



リュー「トイトイブラザーズのアルバイト求人部門をオーラス興業が引き継げばいいんですよ。」



 リューがいきなりとんでもない事を言い始めます。



にしま「えええええ?!・・・それって・・・すごいな(笑)」




平場「えっ、にしまくんとこががやってくれるの??いやそりゃこっちも手間が省けるって言っちゃあれだけど・・・・。助かるっちゃ、助かるなぁ・・・。」



ポン「はぁーい!!こっちも人事のプロですから!!・・・・・・ホームページに求人欄がありますよね??」



 ポンは携帯でトイトイブラザーズのホームページを平場に見せました。



平場「・・・・そうですね。このページに入って貰って・・・クリックして・・・そうそう・・・Eメール送ってもらうなり、電話してもらうなりしてお互いにコンタクト取っていく流れにはなってますけど・・・・。」



ポン「ここの管理ページに入れるようにオーラスにアクセス権頂けませんか?!・・・システムの担当者の方と話をさせて下さい!うちがここに割り込めば、トイトイさんはアルバイト求人については完全ノータッチで行けるはずですよ!」




リュー「本当に全てオーラス興業がやってくれると思いますよ。人物を見て決めたいでしょうから、その時は面接会場をどっかに設けてしまえば問題ないと思います。今やネットで会議も出来る時代ですし。正社員採用ってなるとあれですけど・・・・・まだアルバイトやパートなら。ねぇ、にしまさん??」




にしま「・・・そっ、そうだな!!それはオーラスの事務所でやってもいいだろうし、多分OK出ると思います。上司に相談して解答させて頂きます。」




平場「それ、かなり人件費削減になるね・・・。」




にしま「もう正直な話、人事課は正社員採用の部分だけになりますので3人分も枠が要らないですね。平場さんが現場に戻れるかもしれませんよ♪・・・でも・・・平場さんのお仕事無くなっちゃいませんかね?それが俺心配なんです。」




平場「もぉ良いよ別に無くなっても(笑)さっき言った通りで、会社がそういう方向に向かってんだから。でも、もしそれで現場に戻れるなら個人的には嬉しいなぁ・・・・元々販売の仕事がしたくてこの会社に入ったんだ。にしまくんが居る会社なら信用も出来るし・・・本当にお願いしちゃおうかな・・・・・」




 平場さんはかなり乗り気でした・・・・。




にしま「もし上司の方に詳しいお話が必要でしたら、俺から詳しく話しますよ。システムの事ならこのポンが請け負います。」




平場「そうだね・・・それだと総務部に話をしないといけないな・・・・よし、にしまくん電話番号教えてよ♪後で必ず連絡するよ。」


それじゃあ♪



平場さんと笑顔で手を振って別れました。




 ・・・・・・・・・・・



 ・・・・・・・・・・



 ・・・・・・・・・・・





 クルッ!




 リューの方に振り返るにしま・・・・。




にしま「リュー!!・・・お前ってやつは!!ナイスだ!!ナイスすぎるぞ!!♪ポンもナイスだ!!!」



リュー「いやいや、にしまさんがお知り合いでよかったですよ。トイトイブラザーズに入り込めたらかなり大きいですよね。この辺りでは一番デカい複合施設ですからね!!」




ポン「はぁーい!!僕は求人ホームページの方に専念します!!まだ決まってませんが、もし決まれば忙しくなりそうですね!!にしまさん!!」




にしま「今日はまだ何も決まってないけど、なんとなく祝杯だ!リューの店で祝杯だ!!」




ポン「はぁーい!!いきましょー!!」



リュー「ありがとうございまぁーす!!」



 本当にたまたまなのですが、自分もお世話になった兄の友人が駅隣接の複合施設の人事関係の仕事をされていました。リューとポンのフォローがあり、なんとなくですが、上手く行きそうな気配がしました。




 リューも今自分の会社が大変な状況なのにこっちを手伝ってくれているので、恩返しをしなければなりません。今回の話が決まる決まらないは別として、今日はお金に糸目をつけずにリューの店で飲んでお金を落とそうと思いました。




リュー「・・・あー!しまった!チーの家に財布忘れた!!にしまさん、ポンさん申し訳ありません、僕一旦これで帰ります!」




 それを聞いたにしまとポンは一気に固まりました・・・・。




にしま「チーって・・・もしかしてチーさんの事?!昨日家に行ってたの?」




リュー「はいアリスママの店の、チーです。・・・帰り道でばったり会ったんで泊めて貰ったんですよ。しまったなぁ・・・今日期限で支払いしないといけない払込票を入れてたんですよ・・・・。」




にしま「お前、それ凄いなっ!!(羨ましい!!)チーさんのプライベートはオーラスの誰も知らないぞ(笑)」




ポン「いいですねぇ!!気を付けて!!」




リュー「にしまさん、ポンさん。これ俺が居る店ですんで!いつでも来てください!」



 リューから経営している店の名刺を渡されました。



 笑顔で別れて、みなみから借りている車に戻りました。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・





 ・・・・・・・・・・・・・・・・





 ・・・・・・




にしま「・・・・・トイトイブラザーズです。」




チュン「はぁ?!トイトイブラザーズ?!・・・でかしたぞにしま!!それ俺やハツモトが挨拶に行かなくても大丈夫なのか??」




にしま「はい!まだ確実に決まるかわかりませんが・・・・今日の所は私の知り合いの人事担当から連絡貰えるようになっています。」




チュン「よし分かった、こちらからもアプローチできるように企画書作成しないとな。帰ったら早速取り掛かってくれ。トイトイなら接待費使用を許可するから、詳しくは順子さんから聞いてくれ。頼むぞにしま。ポンは暫くにしまに預ける。ハツモトとハクをそっちに重点を置く用に俺から伝えておく」




 接待費・・・・・本当に営業マンっぽく、そして社会人っぽくなってきました・・・・。



 ・・・・・・




にしま「よしポン、事務所に戻るぞ。」




ポン「はぁーい!!」




 そういえばみなみって普段どういう音楽聞いてるんだろう・・・。ちょっと聞いてみるか・・・。




 カーステレオの電源ONしました。




 洋楽ロックの音楽が流れてきました。なかなかメロディアスで素敵な曲でした。


 (みなみが聞いていた曲はブログ版でのみ、聴く事が出来ます)




にしま「みなみが好きそうな歌だなぁ・・・・・」





ポン「はぁーい!!みなみさんいつもこれ聴いてノリノリですねぇ!!」

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