第6話 俺達のリーダー
きたのに連れられて、2ブロック先の繁華街ほぼど真ん中にあるきたのの経営する店に入るにしま、みなみ、ハクの3人。
「DORA」と書かれた看板を見上げる3人。
ハク「え?!・・何ここ?!・・・・凄い綺麗なお店だね!」
店は金色と黒色を使った、かなりインスタ映えする内装になっていました。
みなみ「いくら積んだんだよ(笑)」
高そうな金色のオブジェを見てつぶやきます。
にしま「これ何??・・・・・・」
スッと横に来るきたの・・・。
きたの「ガネーシャだ。商売繁盛だとよ。象牙の取り締まりが厳しくなって、その代わりに持ってこさせた」
ボーイ「いらっしゃ・・・え?!・・・社長!?・・・どうされたんですか?!」
きたの「バキョウは居るか?」
ボーイ「は、はいっ!!・・・」
入り口付近に居たボーイは駆け足で奥に走っていきました。
にしま「凄い綺麗だな。地面は大理石・・・・。」
みなみ「ここも金かけたなぁ・・・・。いくら使ったん?」
きたの「お前らに言えないほど使った。引くぞ(笑)貯金って大事だよなぁ・・・・。」
気付けばきたのは もう廊下で煙草を吸っていました。
暫くして色白でパーマをかけたスーツ姿の男性が走ってきました。
バキョウ「社長、すいませんお待たせしまして。・・・今日はどうされました?」
きたの「VIP使う。友達と飲みに来た。」
バキョウ「そうですか。分かりました、直ぐに用意いたします!」
店の奥のVIPルームに向かって歩き出す一行。
バキョウは歩き出す前に俺達の顔を一人ずつジッと見ていました。
顔を覚えようとしているのでしょうか。これもきたのが教育しているのでしょうか。
・・・・・・・・
・・・・・・・・
女の子「いらっしゃ・・・は?・・・みなみじゃん!!!」
みなみ「お、仕事してるな。」
一斉に座っていた綺麗なドレス姿のキャスト達が立ち上がります。
金髪の女「みなみー!!私も仕事頑張ってるよ!!」
茶髪の女「きゃー!!みなみだ!!私がつきたい!!」
長身の女「ちょっとみなみ!来たなら指名してよ!!」
急に店が騒がしくなります。他にもお客さんが山ほど居ましたが、なんだなんだと俺達の顔を見てきます。
待って・・・これ他のお客さんの邪魔になってないか?・・・・
みなみ「・・・だから来たくなかったんだよ。」
ハクがキョロキョロしながら話しかけます。
ハク「何?ここの女の子達は・・・全員みなみの知り合いなの?」
みなみ「知り合いと言うか、俺がこのきたのの店を紹介して彼女らに働いて貰ってる。」
にしま・ハク「え?!ここもなの?!」
この店もみなみの・・・オーラス興業の範疇でした・・・。
童顔から美人まで様々なジャンルの美しい女性達がこのお店にはたくさん居ました。
にしま「お前・・マジか・・・・。やっぱりきたのの仕事にも絡んでたか・・・。」
先程絡んできた男達にみなみが言い放った「どちらかというと感謝される立場」と言う言葉がなんとなく分かった気がしました。
何故なら、お世辞抜きで美しい女性達をこのきたののお店に大量に投入していました。その女性達を目当てにやってきたお客さんがこの店にお金を落とせば、そのまま直接きたのの店の売り上げに繋がるのです。
茶色のアンティーク調の扉を開けた先がVIPルームでした。革張りの高そうなソファーがあり、そこに私達は腰掛けました。
すると直ぐに高そうなウイスキーが運ばれてきました。
しかしこのVIPルーム、この繁華街でそこそこ広い個室でした。ピカピカで掃除もしっかりと行き届いています。
普通に来店して使うとなると、一体いくらかかるのでしょうか・・・。
バキョウ「社長、つけますか?今すぐなら3人はいけます。」
バキョウがその場に膝をついて聞いてきます。
きたの「みなみとにしま、どうする?・・・にしま、女の子誰がよかった?」
にしま「俺は・・・あの中ならだれでもいいよ♪♪贅沢は言わない♪♪」
みなみ「いや、駄目だ。他のお客さんについていた方が良い。俺達は客じゃないから。きたのの店に見学に来ただけだから。」
ちぇっ・・・・。この野郎・・・。
こんな時だからきたのに甘えようと思いましたが、よく考えたら女の子を呼んでもここでは一銭にもなりません。自分が楽しんだら間接的にきたのやみなみの仕事の邪魔をしてしまうことになるのです。
きたの「バキョウ、店の外で待ってるカンに全員引き上げるように言ってくれ。先程の騒ぎで警察が動いているだろうから。俺の事は良いから帰れと伝えてくれ。」
バキョウ「承知しました、私から伝えておきます。・・・私はVIPの入り口の付近に居りますので、何か必要でしたら私に声かけて下さい。失礼します。」
バキョウは一礼し、部屋の外に出ていきました。
バキョウ・・・・この異様な礼儀正しさが怖い男でした・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・
きたの「さっきは脅かして申し訳なかったな。『良く言って聞かせておく』から、俺の顔に免じて今回だけ許してやってくれ。」
良く言って聞かせる?・・・・・
お前、さっきのやつボッコボコにしたじゃねぇか・・・。
きたのは先程の謝罪の為に友人の俺達に頭を下げました。
ハク「・・・私は全然良いよ!さっきの人の顔を見た時に、なんとなくこうなるんじゃないかなぁって、思ってたから!あのお兄さんヤバい事してるんじゃないかってね!」
きたの「そうだよな、・・・分かる奴は分かるか。さすがみなみの会社の人間だ。みなみは一芸に秀でる人間を必ず傍に置いてる。」
みなみ「・・・そうか?」
みなみは首を傾げます。
ハク「私顔覚えるの得意だもん!きたのは顔がカッコよかったから見た時にすぐ分かったわ!(笑)」
きたの「・・・そういえば、お嬢ちゃんとは以前に会った事あるね。みなみのビルの喫茶店でウエイトレスしてたな。」
ハク「もぉハクって呼んでよ!・・・きたの!・・・あの・・・私もここで働きたいんだけど!」
少し驚くきたの・・・。
きたの「そうだなハク・・・じゃあそうするか。」
すぐさまみなみが割って入ります。
みなみ「お前はだめだ。ここの要員じゃない。」
きたの「残念だったな。」
ハク「残念!・・・てかこのお酒美味しいね!!乾杯もしてないけど飲んでよかった?!ごめん、もぉ私我慢できなくてさぁ!!(笑)」
横に置いてあるウイスキーをガブガブお茶のように飲むハク。
みなみ「もうウイスキーロック2杯目なのかよ・・・」
にしま「しかしきたの、凄いお店だな・・・。さっきずっとこの辺りを歩いてたけど、この辺りで一番煌びやかな店だ。この部屋、専用トイレまであるじゃねぇか。」
悪ガキ同級生が繁華街の一等地に店を構えているのです。こんなに差がつくものなのでしょうか?・・・・・・
きたの「正直、内装や設備はさっきのバキョウが仕切ってて、キャストの過半数はみなみが仕切ってる。俺はただ経営しているだけなんだよ。そう、社長と呼ばれているだけで、どこかの事務所の椅子に座ってるだけ(笑)」
にしま「そんなことねーよ。ここでやろうと思って動いたのはきたのだろ。他にも出店してるってさっき話しかけてきたカンという男から聞いた、大変そうだな。」
きたの「トラブルがそれなりに多いけどな、でもそれなりに上手いこと言ってるよ。結局俺は昔も今も仲間に恵まれてるよ。今もまだ俺が生きているってことはそういう事だ。」
2ヵ月前に柔道引退せざるおえなくなり地元に帰った事、面接試験後に工場で働いた事。これからみなみの会社にお世話になる事、共通の友人のひがしぐちが行方不明の事、うどんを食べた事・・・様々な話をきたのとしました。
きたの「にしま。」
にしま「え?」
きたの「ひがしぐちについては気の毒だけどな。でも・・・俺達みたいな地獄に落ちると決まっている人間は、次に向かう活力に変えて進んでいかなきゃならない。それがひがしぐちに対する礼儀だ。そういう精神にシフトしないととてもじゃないが、平常心を保っていられない。いちいち騒ぎ立てないといけなくなってしまうから。まぁ本音を言うとな・・・・残念だ、あいつは元々悪評が滅茶苦茶多い人間だったが、なかなか人間味のある良い奴だったと俺は思ってる。友達だしな。俺達に対しては誠実な方だったんじゃないか?・・・」
そうだなぁ、そう言われたらそうかもしれないなぁ・・・。
ハク「え?ちょっと待って!なんでみんなして地獄に落ちるの?!そんなのわかんないじゃん!」
きたの「ハク、いい奴っているだろ?俺達の事をいい奴だいい奴だと、言ってくれる優しい人間も居る。何故ならそれは友達だからだ。しかしだ、他人はそうはいかない。よく考えてみろ。蓋を開けてみるとこの中に良い奴なんか一人も居ない。ひがしぐちよりいい奴はこの世の中に五万と居ると思うが、実際身近のどこに良い奴が居ると思ってる?さっきのうちの社員見たか?カンやバキョウはどうだった、どう思ってるの?」
ハクは顎に手を置いて考えます。
ハク「普通・・・ではない!!変!!」
きたの・みなみ「その考えが普通。普通じゃなければ全員地獄行きが決まってんの。」
みなみと口を揃えて言います。
ハク「はぁ?それ言う練習してんの?!(笑)」
にしま「双子の様に同時に言うな(笑)確かに・・・・きたのの言う通りいい奴なんて一人も居ないかもしれないな。・・・でも悪いけど生まれつき可愛いキャラの俺だけは天国に行くわ(笑)お前らと違って!(笑)すまんな二人とも!地獄で頑張って(笑)」
ポンっと2人の肩に手を置く。
みなみ「お前のどの辺が可愛いんだよ!(笑)1回も思った事ねぇわ!」
きたの「なんでお前だけ天国なんだ!(笑)最後まで一緒だろ!なぁみなみ!」
みなみ「おう、抜け駆けは許さん!!(笑)地獄に行こう!(笑)」
夜は更けていきます・・・・・。
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きたの「しっかし野球では本っ当にお前らコンビにしてやられたわ!!にしまにはマジで3打席連続いかれたからな!大体にしまは昔から力が強すぎるんだよ!それでボール投げるのが怖くなって、中学からサッカー始めた!!野球選手生命奪っといて賠償もんだろ(笑)慰謝料よこせよ(笑)」
みなみ「馬鹿かお前は(笑)厳しい練習についていけなかっただけだろ!(笑)逃げやがって(笑)」
にしま「懐かしい!!小学校の頃か!!試合やったなぁ!!あの試合はさすがに痺れたわ!!」
ハク「え?!みんな野球してたの?!」
みなみ「やってたよ!にしまは野球だけじゃなくて色んなスポーツやってた!きたのは野球下手くそだったけど!」
きたの「やかましいわっ!(笑)みなみは内野、にしまは外野でポジションが違うだろ!ハク、こいつらそこら中にゴロゴロ居る野手と違って、俺は一応4番でエースだったからな!それだけは間違っちゃいけないから、きっちりと言わせてもらうぞ!!」
自信満々でその場に立ち上がり腰に手を当てるきたの。
ハク「4番の・・・エース?・・・・・・・それは何?・・食べれるの?」
ずっこけるきたの・・・・。
3人「はっはっはっは!!」
きたの「なんな・・・・普段からこんなにおもしれえのか!!(笑)この娘は!(笑)」
みなみ「ポジションで差別した罰だ!!(笑)いや正直だよ?・・・・・男ならショートだろ!!ショートが一番かっこいいに決まってんだろ!!」
にしま・きたの「お前が一番野球偏見が強いんだよ!!」
全員酔いが回り、野球を全く知らないハクはわけの分からない事を言い始め、周りの3人は腹を抱えて笑います。
きたの「住んでる地区が違って、チームは違ったけどこいつらの居るチームは本当に鬼だった!・・・結局・・最後お前らが全国行ったんだったっけ?・・・」
・・・・・・・
みなみ「そういえばにしまさ・・・覚えてるか?・・・田舎のチームだったが・・最後まで俺達に食らいついて向かってくる奴が1人居たな。名前忘れちまったけど。」
・・・・・・・
にしま「・・・・1人?・・・いや・・・2人居たな・・・。ああゆう熱い奴等と一緒のチームでやりたかったなぁ俺は・・・。」
ハク「ちょっと、私野球全然わかんないんだけど(笑)」
きたの「ハクは何が得意なの?」
ハク「何も無いよ!何も出来ない!」
みなみ「そうだな!確かにな!」
ハク「うるさいわねアンタは!!あの運転手覚えてたでしょ!!」
話は尽きず、更に夜は更けていきます・・・・・。
産まれながらにして夜行性の俺達に天国も、将来を明るく照らす光も必要ありませんでした。
店を出る前に、きたのは俺の肩に寄りかかりこう言いました。
にしま「・・・なんだよきたの、酔ってるのか?え?・・・」
そういえばお前・・・・今日は入社祝いだったな、おめでとう。別に参考にしなくてもいいんだが、・・・俺は仕事が理由なら、いつどこで死んでもいいと思ってんだ。
大人になった俺について来てくれる人間全員にそういう考えを持たせて仕事をやらせている。
残念ながらそこに居るハクなんかとは違って俺達は男だ。元々それくらいの事しか出来ないんだ。社会や自分の家族に対しても、その程度の事しか最終的にはやってやれないんだよ。もう分かっただろ?地元に戻った時に。・・・・儚くて不幸なもんだろ、男に産まれてしまったんだから。・・・だからこれで・・・「運の尽き」だと、にしまがこの先の人生のどこかでそう思うことがあったなら、その時が前を向いて正々堂々ぶつかる時だ。元々生まれつき運が尽きてるんだ、もぉそうなっちまったら思い切り前を向いて得体のしれないものに向かうしかねぇんだよ男っていうのはよ・・・。
・・・・・悪ガキ仲間からの最後のアドバイスだからな。この今の環境を生かすも殺すもお前次第だ。みなみと手を組んで、意地でも派遣で天下取れ。俺の店にも入れて貰わないといけないし、どこかで揉めたら連絡してこい。いつまでも俺がついてるから、な。
という事で帰れ。おやすみ。最後とは言ったが気が向いたらまた連絡してこい、次は朝までだからな。
にしま「きたの・・・・・。」
きたのの顔は真面目でした。子どもの頃と目が違う・・・・・。
暫く会っていないうちに、どれだけ身の回りで嫌な出来事があったのでしょうか・・・。
背中を向けて俺達に手を振ってくれました。
きたのは次は朝までと言いましたが、今もう・・・朝でした・・・・。
店の出入り口付近に車を停まっていた、幹部であるカンが俺達に目を合わせず会釈しすれ違う姿が見えました。
子どもの頃からきたのはイケメンで家は金持ちで、同じグループの俺やみなみ、ひがしぐちとは日常生活が違いました。なのでその部分を頼って慕っていた部分もあったし、恨んで軽蔑していた部分も当然ありました。
昔とやり方は違えど、今では別のグループでリーダーをしっかりやっていました。残念ながら俺もみなみも逆らえない部分があっただけで、全くきたのの事は尊敬していませんが、根っこの部分で異様に強く太く繋がっている事に対して、一切の抵抗はありませんでした。
みなみ「にしま!おせーぞ!帰って風呂入って直ぐ仕事だ!」
寝てしまったハクを背負うみなみが前方で叫んでいるのが聞こえました。
にしま「・・・・おう!!行こうぜ先輩!!」
みなみ「お?・・・なんか軽やかだな・・・新入り!!」
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