第4話 人となり
それから、ああでもないこうでもないと、みなみと事務所内で暫く仕事についての話をしていました。結局その日は他の社員は誰も帰って来ませんでした。
チュンさんも長引いたのでそのまま家に直帰すると連絡が有りました。
みなみ「よーし、店閉めるぞぉ」
鍵をして事務所から退出する2人。
明日もまたここに来るのか・・・頑張るぞぉ・・・。
先程の話の中で、みなみが入社祝いで焼き肉を奢ってくれる事になっていました。今日は遠慮せずたくさん食べるぞぉ。焼き肉なんて何ヵ月ぶりでしょうか。柔道をしていた時以来行っていませんでした。
みなみ「こういう歓迎会や祝い事は本当はみんなですべきなんだけど、見事に今日全員居ないからな。まぁ、昼飯と同様2人で行こう。」
にしま「いいの?ありがとう。」
にしま(よーし・・・・俺の工場勤務二か月分のピンハネ代を焼き肉で返してもらうからな・・・・会計に驚くなよ・・・)
みなみ「いいよいいよ(笑)奢ってやるよ俺のポケットマネーで。」
にしま「それは元々俺の金だろ」
私はそのように思っていましたが、この業界はそんなもんだと言うのです。自分が昨日までの工場で勤務することで、オーラス興業にお金を落としている事を今日知りました。
それでも勤務時間数がそれなりにあった為、かなりの給料が出ました。
工場が日勤の週は朝9時から21時位まで(定時は18時)強制残業で働き、23時からは工場から少し離れた配送センターで仕分けの仕事を2時間~3時間ほどやりました。
工場が夜勤の週は、仕分けの仕事はありませんでしたが、18時から朝の9時過ぎまでの長いシフトでした。
詳しくは全く分からないのですが、このやり方は労働基準法大丈夫でしょうか。・・・・でもそれを完璧に守っていたら仕事が出来なくなるかもしれません。
日曜と祝日が休みでしたが、休日はランニングや昔兄とやっていたファミコン、好きな麻雀などをして時間を潰していました。
バイトは学生の頃に少ししていましたが、働くことが楽しかったです。働いて喜びを得る事もあったし、貢献していると手ごたえを感じた事もありました。
何より虚空で、力が有り余ってしまっていた毎日から抜け出すことが出来たのです。
体が疲れてはいましたが、気分は何故か物凄くスッキリしていました。
2ヵ月後にはみなみの会社で正式に働くことが出来るし、給料があるので自分の好きなものを買って食べることが出来るのです。両親や兄弟にも恩返しができるのです。
一度親父、妹、弟を連れてファミリーレストランに行きました。親父は昼からお酒を飲んでいました。そういう団欒、家族の嬉しそうな顔を見るのは何年ぶりだったでしょうか。
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
繁華街にある、焼き肉屋「チャン太」に到着しました。
市内へ遊びに来た時に何度か見かけた事がある焼き肉屋でしたが、ここで食事をするのは初めてでした。焼き肉のいい匂いが店外そこらじゅうに立ち込めていました。
引き戸を開けると・・・そこには・・・・・・
「いらっしゃいませー・・・・あら?みなみとにしまじゃん!」
聞いたことのある声だと思ったら、エプロン姿のハクが居ました。なんとここにもハクが居ました。
にしま「・・・え?!ハクってここでも働いてんだ?!喫茶店じゃないの?」
ハク「そうだよ!今日はオセロー終わりで直ぐにここだから。」
しかしよく働くなぁ・・・・。みなみあいつ・・何もせずに金が入ってくるじゃねぇか・・・・・。
大将「あら?みなみくん。いつもありがとう。」
厨房からわざわざ出て来て、大将が親しげに声をかけてきました。
みなみ「大将どうも。流行ってるねぇ。平日なのにほぼ満席。」
大将「ハクちゃんがうちに来てからね、ハクちゃん目当てでみんな来てくれてるんだよ。」
みなみ「そうですか・・・・それはよかった。」
大将「ちょうど一番奥の席空いてるから、使ってよ。ハクちゃん!みなみくん達を案内してあげて!!」
ハク「はーい」
声のする方を振り向くと、ハクは既にお盆におしぼりとお冷を載せて立っていました。
にしま「行動が早いな・・・・・」
奥の小さな鉄板を囲んで、みなみと二人で座りました。
ビールと、みなみがおすすめの肉を頼んで乾杯しました。
みなみ「お前さ、ここでも働いてるハクを見て、良いなぁみなみは何もせずに金が入ってくる・・・・って思っただろ?」
にしま「滅茶苦茶思ったよ。何故分かった?(笑)」
みなみ「俺はそういうのだけは直ぐに分かるんだよ(笑)でもな、信頼関係ってのはにしまが思っているより難しくて、なかなか作れないんだ。あんまりほったらかしにすると派遣先の仕事に来なくなってしまう事もあるんだわ。」
にしま「へぇーそんなもんなのか。給料貰えるんだから行くもんだと思ってたけど。」
みなみ「いくらか入ってくるお金で取引先で物を買ったり、こうやって派遣先の働きぶりを見に来たりな。」
にしま「そういう付き合いは増えるんだな。」
みなみ「よく現場に出てくれてる連中を集めて飲み会行ったり、たまに送迎したり悩み聞いてやったりな。植物みたいに水やりや餌やりが大変なんだよ(笑)じゃないとガチで直ぐに辞めちまう。派遣の会社なんかオーラスだけじゃなくて他にも山ほどあるだろう?最悪そっちに取られてしまうんだ。」
にしま「そういう事全然得意じゃないのに、よくやってるな(笑)」
みなみ「ホントだよ、滅茶苦茶無理してやってるわ(笑)心の中で『人の悩みを馬鹿にしている自分を責めながら』・・・・。でもな・・・・人数がそれなりに多くなると、それ以上に懐に入ってくるから、やらなきゃいけないよな・・・責任感も出て来るし・・・・。まぁ・・・じきに分かるよ。」
ビールを追加しようと呼び鈴を押そうとした所、ハクが肉を運んできました。
ハク「みなみ!今日私ここで終わりだからこの後飲みに行こうよ!私も久々に飲みたいわ!自分らだけズルいよ!」
みなみ「いいよ、その代わりちゃんと働けよ、今日も明日も明後日も。・・・あーあ、お前は元々うちで事務員で働く予定だったのに・・・・」
元々みなみは、ハクを事務方の正社員として会社に採用する予定だったと言っていました。
今現在事務のおばちゃんを1人雇っているそうですが、最近産まれた孫の面倒を見ることが忙しくなり、社員→嘱託→パートと雇用形態が変更となってしまい、事務の担い手がどうしても足りていない様子でした。
にしま「ハクもうちの会社で事務で働いたらいいのに。みなみと信頼関係できてるだろ。嫌な人間でも居ったんかな?・・・あの草水とかいう人?それとも、チュンさん?」
ハク「いやいや、凄くみんなよくしてくれてるよ!チュンさんも私が働いてると必ず声をかけてくるよ!草水さんは堅いけど父親に似てて、全然私の中ではOKよ、みなみは滅茶苦茶嫌いだろうけど(笑)オーラス興業で働くのもいいんだけど・・・・これはもう私の性格の問題だと思うわ。」
確かに誰が見てもハクはこの会社のカラーに合っているような気がしました。みなみや上司のチュンさんとの関係も良好で、しっかりと周りに対して働く姿勢をアピールし、見せています。他の人間の邪魔もしません。
一体ハクの何が問題なのでしょうか。
みなみ「・・・・飽き性な。」
ハク「そう!私ね!やってみて分かったんだけど、毎日同じ会社に行って全く同じ仕事をするのが無理みたいなんだわ!(笑)それでも1ヵ月位オーラス興業で事務してたんだよ一応ね!」
派遣は毎日違う現場に行くのです。毎日違うから気が晴れて続くそうです。
その月のシフトが出て、その新しい場所に行くのが楽しくてしょうがないそうでした。
にしま「なるほどなぁ。残念だな、でもそれで仕事が続くんならそれでもいいかも。新聞で見たけど最近直ぐに仕事辞めちゃう若者多いそうだから。」
ハク「みなみが私と結婚でもしてくれたらね!あの事務所で事務員でもいいんだけど!」
みなみ「なんで夫婦で同じ会社に勤めなきゃいけねーんだ、家でも会社でも一緒じゃねーか!何故24時間一緒に居なくちゃいけねーんだ!」
ハク「だって、ここの大将も夫婦で経営してるよ!」
みなみ「それは先代からの生業だからだ。それに俺が結婚したら嫁さんは働かせないけどな。・・・もう、その肉置いたら仕事に戻れよ、これからにしまに仕事を教えないといけないから。」
このタイミングで丁度他のお客さんに呼ばれてハクは入り口側に戻っていきました。
にしま「おい、良い話じゃねぇか。冗談かもしれないけど結婚してやれよ(笑)ハク綺麗だろ?いい奥さんになりそうだけど。」
みなみ「まぁ聞けや。・・・派遣の仕事をしてる人間の中で、ああいう飽き性人間は少なからず必ず居る。・・・・結婚しても飽きるだろ直ぐに。」
にしま「そこもそうなのかなぁ・・・・。」
煙草を吸いながら、ビールを飲む。
ここに食事をしに来ているお客さんもスーツ姿や作業着の人が多数いました。仕事帰りの人が多いと思われました。
みなみ「うちの会社はここのお客さんみたいに、様々な所に派遣してる。工場、サービス業からちょっとした接客業までな。ハクみたいな人間からしたら、1日として同じ日は無いし、楽しくてしょうがないだろうな。」
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