第8話

「さぁて脱ぎましょうね~」


 彼女は悪戯っぽい笑顔を浮かべながら、ゆっくりと俺の上着を脱がそうとしてくる。


「本当に二人で入るつもりか?」


「もちおぉぉ~!それにしても、相変わらずすごい筋肉してますなぁ~」


 彼女は俺の体をじっと見つめたかと思うと、ためらいもなく両手で触ってきた。


「引き返すなら今のうちだぞ」


 俺が軽く牽制すると、彼女はニヤリと笑いながら肩を軽く叩いてきた。


「ぷぷっ、なんですか~恥ずかしいんですか~?」


 彼女のからかいに、俺はつい反論してしまう。


「別に恥ずかしいわけじゃない。ただ…」


 自分でもわかるくらい声がぎこちない。これじゃ、否定になっていないだろう。


 陸上を続けてきた俺は、性格的に負けず嫌いで、からかわれるとつい強がってしまう癖がある。こういうときにそれが裏目に出る。


「じゃあ、私も脱ごうっと!」


 彼女が軽い口調でそう言った瞬間、俺は慌てて目をぎゅっと閉じた。

 

 彼女は166センチと平均より少し高めの身長で、どこか余裕のある雰囲気を持っている。その上、よく食べるせいか健康的で…正直、出るところはしっかり出ている。

 だから、万が一視界に入ってしまえば、俺の自制心が危うくなるのは火を見るより明らかだった。


「ねぇ、なんで目を閉じてるの?」


 彼女がくすくすと笑いながら問いかけてくる。


「目に虫が入ったんだ」


「へぇ~、冬にねぇ~?面白いこと言うんだね~。まあ、まだ脱いでないから見ても大丈夫だけど?」


 その言葉に、俺は少しだけ安心して目を開けた。が、それは完全な罠だった。


「……っ!」


 目の前に広がったのは、彼女の裸同然の姿。思わず目を見開いてしまい、その光景がしっかりと脳裏に焼き付いてしまった。


「おまっ、嘘ついたのか!」


 俺は慌ててまた目をぎゅっと閉じる。


「お主もじゃろがい!虫が目に入っただなんて、そんな言い訳をしてまで私の裸が見たくなかったんか!」


「違う!まだ心の準備ができていないだけだ!」


「ほう~、それならいつまで待てばいいのかのう?」


「……10年後」


「待てるかい!さぁ、観念せい!」


 彼女は悪戯っぽく笑いながら飛びつき、下まで脱がそうとしてきた。


「わかった、わかった。今夜な」


「こ・ん・や?」


 彼女は数秒間、停止した。


「こんや・・・こんやかぁ~。言ったね?」


「あっあぁ」


「男に二言は?」


「ある」


「ならば再開でーす」


「ないですないです」


「ならばよし!ここは大目に見ますかねぇ~」


 すると彼女は服を着始め、俺は難を逃れた。

 逃れたのか・・・?


「じゃあ、私、後で入るから優斗は先に入ってて」


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る