第6話

敵軍の将、リナルディさんを焚きつけて、クーデターを起こす。代わりにわたしとメイドのエミーリア、それからエルネスト第三王子を加えた部隊で、国境の街に幽閉されたリナルディ将軍のご家族を助けに行くことになった。


先行して出たリナルディさんたち反乱軍によって、国境の街は混乱していている。正規軍の中でもどっちにつくか割れていて、統率が取れていない状況だ。


町外れの森の、忘れ去られたような古ぼけた小屋に、将軍の家族が閉じ込められていることは分かっている。森の木陰からそっと様子を見ると、門の前には正規軍の兵士が2人立っている。ちょうど交代の時間なのだろう、時計を気にしているけれど、代わりの兵士がやってこない。


時間まで働いたから帰ろうとする兵士と、次の立番が来ないと帰れないという兵士で揉めていたけど、さっさと帰っていった兵士を見て、何度も振り返りながらもう1人も去っていった。


「今よ!」


わたしはエミーリアと小屋に駆け寄ると、ドアをノックする。


「あの、リナルディさんのご家族ですよね。わたし、リナルディさんに頼まれて迎えにきました。開けてもらえますか?」


少しして、遠慮がちにドアが開いた。その手を取って素早くキスを落とす。


「初めまして、レティシアさま。フラヴィオくんもご無事そうで何よりです。リナルディ将軍は、この国を救うために立ち上がられました。すでに議事堂に向けてご出立です。将軍からお二人を保護するように言われております。着いてきていただけますか?」


「初めまして、私は隣国の第三王子、エルネストです。将軍の後顧の憂いを断つためにもご同行いただきたいのです」


難しい言葉を知ってて偉いねエルきゅん!


敵国に連れて行かれることに驚いた二人だったけど、王子が自ら迎えに来たことに心を動かされて、着いてきてくれることになった。


エミーリアが王城仕込みのメイド技術で二人の準備を済ませて、外に出ようとするとなんだか騒がしい。


「あかねさん、こっちだ!敵兵に見つかった!」


エルきゅんが手を引いて駆け出す。逃避行みたいだね。このままどこまでも連れていってよ!すっかりお姫さまになったつもりで走りだしたけれど、手芸部のわたしは200mも進まずに息が切れた。


エルきゅんがわたしを後ろにかばい、剣をかまえて敵兵と切り結ぶ。わたしを守って戦う凛々しい姿にちょっと泣きそうになる。すぐに応援に来た兵士たちによって、敵軍は退けられた。我が軍は強いんだから!


「あかねさん、ケガはない?」


エルきゅん天使が優しく手を取ってくれる。戦いの緊張で冷たくなっていた手に、温かさが戻ってきた。本当はもう大丈夫だけど、少し甘えて胸元にしがみついてみた。いい匂いがして、くんかくんか嗅いじゃった。


レティシアさんとフラヴィオくんを隊列に加え、わたしたちはお城へ戻った。最初は緊張していた二人も、エミーリアのおもてなしによって、くつろげるようになっていった。


しばらく経って、無事にリナルディ将軍が議事堂を攻め落とし、隣国に軍事政権が発足した報せが舞い込んだ。わたしとエルきゅんスイートハートが使者として、レティシアさんとフラヴィオくんを送り届けることになった。


戦いの影響で少し焦げた議事堂で、リナルディ将軍とレティシアさんはしっかりと抱き合って再開を喜んだ。幸せな光景にわたしも少し泣いちゃった。そんなわたしを優しくエルきゅんラブリーが肩を抱いてくれる。ドキドキして、胸が苦しいくらい。あれ、不整脈かな?


「あかねよ、君のおかげで私たちの国は救われ、私は再び家族とまみえることができた。返しようもないほどの恩を受けたことを、決して忘れない。いつでもこの国を訪ねてくれ。私たちは君を歓迎する」


わぁっと歓声があがった。みんなから手の甲にキスを浴び、幸せな気持ちがどんどん伝わってくる。嬉しくて涙がこぼれる。そっとエルきゅん愛しの君が涙をぬぐってくれると、気持ちが伝わってきた。


(またたく間に僕たち二つの国を救って、あかねさんってまるで伝説の聖女みたいだ。ああ、このままずっと一緒にいられたらいいのに)


ずっとお姉さんと一緒にいていいのよ。はあ…ショタからしか得られない栄養ってあるのね。なんとか欲望を心の中に押しとどめて、わたしたちは王城へと戻った。


王城では、凱旋のパレードが待っていた。戦争を終わらせ、隣国の新しい政権の立役者となったわたしは、道を埋めつくす民衆の歓声につつまれて挙動不審だ。


「あわわ、こんなに人が集まるなんて…わたし、まさかの壁サークルに?整列、そうだ整列してもらわないと」


うろたえて何かを口走るわたしの手をそっと握るエルきゅんダーリン。自然にキラキラエフェクトがかかってる。


「あかねさん、みんなに手を振ってあげて。みんなあかねさんの活躍を知って、讃えたいんだ」


ぎこちなく手を振るわたしとは違い、さわやかな笑顔を見せて、民衆に手を振るエルきゅん王子様


そうしてお城へ戻ると、王様との謁見が待っていた。


「素晴らしい活躍であった。あかね、何か望みはないか?あまりの活躍ぶりにどのような褒美を取らせてよいか、正直なところ迷っておるのだ」


「えっと、それじゃあエルきゅ、エルネスト王子とお突き合い…じゃないお付き合いをお許しいただけませんか?」


「うむ、実はエルネストからも同じ願いを受けておったのだ。ぜひこちらからお願いさせてもらいたい」


こうしてわたしたちは公式にお付き合いすることが決まった。

くちづけの聖女と呼ばれるようになったわたしが、のちにエルきゅんと本当の粘膜同士の接触を経て、鑑定EXが目覚めるのはもっとずっとあとのおはなし。


おしまい

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[完結]コミュ障のわたしには、鑑定スキルの発動条件がハードすぎる 伊東有砂 @takedainusa

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