神様どうか願わくば。

虚現

夜行

拝啓、今は居なくなってしまった貴女へ


私と貴女の間には些細なことをきっかけで

別れてしまいましたね


もう12月ですそちらの寒さはいかがでしょうか。


とても情けなく思いますが私は今も…




『へぇーマジックやってんだ!! すごいねぇ‼︎』


目を輝かして笑ってくれた彼女に

僕は間違いなく天使を見た気がしたんです。


4月のどあたま、実家に偶々帰ってきていた僕は何を思ってしまったのか、酒を飲む事を覚えてそれが何よりも楽しいと思ってしまっていたので、金もないのに地元の夜の街に繰り出した。


子供の頃はなんだか怖く見えたこの通りも

成人済みの僕には日頃の生活の疲れを忘れさせてくれる幼い頃に行った遊園地のような

高揚感でした、


ポケットに金も入ってない財布とトランプ一つそれとなくなりかけのタバコで

単身乗り込んだのは割と新めのBAR


そうです。本当に偶々なんです

だって貴女の存在なんて知らなかったです。


入り口に通ずる階段を上がって2階にある店

気さくなマスターと1人のキャストの女の子

愛想よく営業してくれました。


マスターがもう1人女の子が居るって言って

もう1人の方を呼びましたね

その姿を見た時に私は一瞬で目が貴女にしか行かなかったのを覚えています。


『桜って言います。お兄さんなんて言うの?』


気さくな貴女は私に軽い自己紹介をしてくれました。


私はその音を一つ一つ逃さないように頭の中で名前を何度も繰り返し読んでいました。


『お兄さん聞いてる?緊張してるの?』


私はハッとして目線をすぐ逸らして、しまいました、そして意味もわからないことをずっと喋っていたと思います

今思えば、恥ずかしくて死にたくなりますけど…


『面白いね!何その四半世紀ぶりって

めっちゃ生きてるじゃん、何歳なの?』


私は緊張しながらも年齢と簡単な自己紹介を済ませました。


『あーね!そうなんだ!じゃああれだ私の一個下だ!高校も一緒じゃん!でも見た事ないなぁ』


まぁそりゃそうだろう、高校の時に貴女みたいな人を見たら多分一瞬で懐いちゃうから


『でもマジックって凄いなぁ 私不器用だから出来ないや なんか見せてよ!』


今まで趣味程度にやっていたしまぁオタクのところがあるから全然できる

でもね貴女は知らないと思うけど実はあれ

吐きそうなほど緊張してたんですよ


『えぇ!スッゲェもうそこまで行くと逆に怖い!』


貴女は予想に反して私のやる意味のないことに大層満足されたようでその時の喜んだ顔とか全部今でも鮮明に思い出します。


流れる時間が全部早くて貴女の一挙手一投足

全て足りない頭にぶち込んで芽生えたソレを

バレないように取り繕って、

その全部が久しぶりで、



嗚呼。私は貴女に全てを奪われたから

夜の世界の女性を美しい羽を持つ虫に例えて

蝶っていうみたいだけど

私から見たら貴女は蝶なんかじゃ勿体無いと感じていたから。

その美しい姿にその羽に魅了されるのも時間の問題だった。


だから貴女は誰がなんと言おうと

その時の私から見た貴女は、

間違いなく貴女は天使だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神様どうか願わくば。 虚現 @Uturoututu1945

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画