第11話 よ~そろ~
本日、月一の島へと渡る定期船が出る日だ。今回は魔導エレベーターを使い『物見の塔』へと上がる。やっぱり、こうじゃないとね。
定期船の持主はなんとフィリスの実家だった。フィリスの父親の運営するマードック商会だけがオリブ島への入港を認められた商会と言うことらしい。オリブ村から油を買い、代わりに日用品等をそこに持っていく、村との唯一の窓口でもある。
俺は魔導定期船の船長に乗せて貰う事の挨拶をしてから、エミリーたちと雑談をしていると、そこに見知った顔を見つけた。
「あら、ショート君じゃない。どうして君が? 」
そこにいたのはアンナ先生だった。そう言えば、アンナ先生は商会の専属護衛であるパーティーのメンバーって言ってたっけ。
「冒険者ギルドで知り合った奴が、ほら、あそこで話しているマルクスで、彼に誘われたんです」
マルクスは冒険者風の美丈夫と熱心な顔で話し込んでいる。
「あらあら、レックスってば、懐かれちゃってるわね」
レックスと呼ばれた男はアンナ先生の仲間で職業はマルクスと同じ剣士だと言う。レックスに対してのマルクスは、まるで大型犬がぶんぶんと尻尾を振ってるかのように見えるから、憧れの対象なんだろう。そのレックスと同じ職業になれたマルクス、それを誇らしげに報告しているのだろうか。
「そう言えば、フィリスは一緒じゃないんですか? 」
「ええ、あの
何を思ったか知らないけど、自分でやらないといけないんだ! って、急に意気込み出したと言うのだ。あんなに魔法使いを怖がってたと言うのに。彼女の中で色々と思うところがあったのだろう。
「何があったんでしょうね? 」
なんて、アンナ先生に聞いたら、お前が言うか? みたいな呆れた顔をされたんだけど、なんでだろう???
「あ、そうそう、紹介しとくわね」
アンナ先生はそう言うと、一人の男を呼んだ。その男は左眼に眼帯をかけていた。少しクセのある黒髪をわずかに前に垂らした渋めのイケ男。見るからにモテ男だと解る。
「カイル、あなたに会わせたい少年がいるって言ってたでしょう。彼がそのショート君よ。とても優秀な魔法使いで、その上、フィリスお嬢さんの騎士様ですのよ」
アンナ先生は俺の事を少しふざけ気味に彼に紹介する。
「紹介するわ。彼がうちのパーティー<蒼竜の翼>のリーダー、カイルよ」
「カイルだ。よろしくな」
カイルは片口を少し上げてのニヒルな笑みを浮かべて、俺に手を差し出した。俺は慌てて握手に応じながら、自己紹介をする。
「は、はじめまして。俺、ショートと言います。」
カイルは、あん? と、アゴに手をおいて、俺の顔をしげしげと眺めてくる。あまりにもじっと見つめてくるので、まさか、俺に惚れた!? って思えるほどだ。
「あの~、俺の顔に何かついてます? 」
そう言うと、カイルは、我に返ったようにハッとなって謝ってきた。
「悪い、悪い。いやね、昔、同じ顔を見たような気がしてね」
「そうなんですか? 」
「ああ、思い出すのも嫌なんだが、お前さんと同じ金髪でエメラルドグリーンの瞳、ほんとクソむかつく野郎でさ。貴族の息子ってだけでお高く止まったクソ野郎だったら、まだ許せたんだけどな」
カイルは、チッと舌打ちをしながらも、何故か懐かしそうに、そして少し楽しそうにも見えた。
「五年ほど前の話だ。俺が騎士科に居た頃のな」
カイルはその当時、目の怪我が元で片目を失明し、その事で退学を余儀なくされたと言う。
五年前、騎士科、金髪、エメラルドグリーンの瞳、貴族のクソ野郎? それって、兄貴じゃないか!? これ、やばいんじゃ? 世の中ってほんと狭いわと思うショート。絶対に気付かれないようにしないと、父上に殺されるわと真剣に恐怖してしまう。
「アルス、お前をこの家から追放する。女神様から見捨てられたお前の存在はこの家の災いでしかない。今後、ヴァルドールの姓を名乗る事を一切禁じる。もし、お前の口からその名を出せば、命は無いものと思え! 」
父親から浴びせられた、あの時の言葉が頭をよぎり、肝が冷える。
実は、そのそっくり系の兄が必死でアルスことショート及び父の隠し子ショートを探していることなど露ほど知らず、その上、「君の名は」(1952年)的、すれ違いをしている事も全く知らないショート君でした。
◇◇◇
今日の天気は快晴で風も穏やか、恰好の船出日和だ。オリブ村までは時間にして二時間ほどで到着する予定だそうだ。
甲板では船員たちによって、荷物の積み込み作業や出航準備で慌ただしく動き回っている。最後の点検が済むといよいよ出航となる。
マードック商会の商人たちと<蒼竜の翼>、そして俺とマルクスの三人を乗せた定期船は、ゆっくりと上昇して行き、一路オリブ島への航路をとった。
しばらくは快適な空の旅を楽しんでいたのだが、スキル【忍耐】によって上がった視力によってそれは見えた。遥か前方にわずかに見える小さな黒い点だ。その黒い幾つかの点が、どんどんと大きくなって、こちらに向かってくる。
「あれ、なんだ? 」
俺の言葉を聞いて、マルクスたちが反応する。
「ほら、あれだよ。あの黒い点だ」
マルクス達は何、何? どれ、どれ? って言いながら俺の指差す方向を見てはいるがよく分からないようだった。
俺はその時ハッとなる。ある事を思い出してしまった。そう何故か見ない事にしたあの一文だ。
・クエスト016:定期船でワイバーンを魔法で撃ち落とせ(SP5)【未】
あれって、あのワイバーンだよね。もしかして女神って俺に嫌がらせしてんの? まさか俺がダメダメ女神って心で思ったの気付いてた?
俺はその時、女神アリアが「ふふふ」とお茶目に笑っている姿が頭をよぎった。
俺は慌てて甲板に駆け出ると、そこには<蒼竜の翼>のメンバーの五人全員揃って空を見つめていたのだ。
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明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
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