第5話 SPクエスト
突然の試験官から発せられた警告により、その場は群集心理により騒然となってしまった。逃げ惑う者たちがあちらこちらを駆けめぐり一斉に各出入口へと殺到する。この会場には、受験生十名と試験官の四名、二十名ほどの見学者の全部で計四十名近くいた。ほとんどが今回の『授けの儀』で新しく職をもらったばかりの子だったため、咄嗟の判断能力が低い者が多かった事が災いした。
俺は【回避】での回避能力と動体視力の上昇のお陰で、周囲の動きが手に取るように分る。逃げ惑う者たちを右に左に回避して、<クイック>が掛かった俊足でフィリスに近づき、手に持ったローブを放電している彼女へと巻き付けると、瞬時に<スリープ>をかけて彼女を眠らせた。
ローブには<マジックシールド>を付与していて、静電気対策の除去シートみたいな役割になってもらったわけだ。
眠った事でフィリスの身体から放っていた電気は消滅し、そして、ぐったりとなって俺に倒れ込んできた。<スリープ>がうまく効いたようで本当に良かった。受け止めた彼女は静かに寝息をたてているようだった。
避難誘導していたギルド職員が、全てが終わった後に慌てて駆けつけてくる。
「おい、大丈夫か? お前、何ともないのか? で、その子はどうなった? 」
まくし立ててくるギルド職員に、俺は大丈夫だと答え、フィリスの状況を伝えた。
「はい、俺はマジックシールドが使えるので。それと、この子は眠っているだけです」
どこか休ませる所がないかを聞いてみると、ギルドには保健室の施設が有ると言うので、俺はギルド職員にフィリスを任せる事にして、試験後の合格者説明会場になっている先の待合室へと向かう事にした。
合格者への説明会が終了すると、冒険者登録は完了し、一騒動はあったものの何とかG級ギルドカードを貰う事ができた。本日は三十人ほどが受けて不合格はフィリスを含め三人と言う事だった。あとの二人は模擬試験で泣き出してしまったようなのだ。剣などの強力な職業をもらったとしても、十歳というと、まだまだ子供なのだから、ある意味、仕方がないのだろう。再試験は何度でも受けれるのだから次は頑張ってほしいものだ。
後は、ギルドにて依頼を受注して達成させる事でお金を稼ぐだけだ。何とか先の目途がついてきたなって、ちょっとホッとした所で、自身のスキルボードのクエストを確認する事にした。
やはり、<※SPクエストリスト>の、
・クエスト001:冒険者ギルド試験を無事突破せよ(SP1)(済)
後ろに(済)マークがついていた。無事突破と言う事は、フィリスの事件も入っていたのだろうか? そしてクエストをクリアした事で、<保有
実はそれだけじゃなく、なんとクエスト001の下に数行増えているじゃないか! そこには紹介クエストが五つほど増えてた。
他のスキル一覧と一緒だとちょっと確認しづらいと思った俺は、そこでスキルボードのカスタマイズをする事にした。クエストの部分だけはスキルボードから隔離して別窓にしておく。これで、クエストのみを瞬時に確認できる事になった。今後、もっと見やすい方法があったら変えようとは思っているんだけど。
<保有
<※SPクエストリスト>状態絞り込み↑未↓済
・クエスト002:採取依頼のマホラ草五束を鑑定を使って達成する(SP1)【未】
・クエスト003:冒険者ギルドの依頼を三件達成する(SP3)【未】ボーナス
・クエスト004:冒険者ギルドの依頼を五件達成する(SP1)【未】
・クエスト005:王都の物見の塔の最上階まで自力で一気に駆け登れ!(SP1)【未】
・クエスト006:魔法少女を救え!(SP5)【未】
・クエスト001:冒険者ギルド試験を無事突破せよ(SP1)(済)
絞り込みも出来るようなので、紹介中の【未】は上部へ、(済)のクエストは下部へと降ろしたんだけど、もっとクエストが増えたら、済クエストは表示されないようにしようとは思っている。
クエスト002~004はギルド依頼に関するもので、クエスト003はボーナスになってのポイントアップってとこだろうか? これって、女神様の恩情ですかい。依頼はどんどん受けるつもりなんだから、一石二鳥でかなり嬉しいのだが、まぁ、それはいい。だが、005と006がどうも解せぬ。
・クエスト005:王都の『物見の塔』の最上階まで自力で駆け登れ!(SP1)
って、あの塔は東京タワー(333メートル)かエッフェル塔(312 メートル)ほどの高さが有るんだぞ! 俺を殺す気か?! まぁ、東京スカイツリーじゃなくて良かったわ!
この世界は日本のような科学技術の発達は無いのだけど、魔法科学の進歩は著しい。例えば、この『物見の塔』は、このハイラルド王国の建築技術が誇る王都最大のランドマークで、塔の最上階から王都が見渡せる最高の観光スポットであるだけでなく、塔の最上部には魔導船の発着場にもなっている。東京タワーと同じほどの高さを誇るこの塔には、もちろん魔導エレベーターが完備されているのだ。でっぷりと太ったお貴族様や大商人がこの塔の階段を登れるはずがないからだ。
もちろんそれを利用する者からは金を取るのだが、エレベーター利用での金銭であり、階段で登るのは無料である。
その階段を一気に駆け登れって……鬼か!!
東京タワーの場合は階段数はおよそ530段。外階段を最速の人は2分ほどで駆け登れるそうだが、この世界の階段は日本のように規則正しいわけじゃない。それに、俺まだ子供よ。十歳よ。
階段王に俺はなる!?………ならねーよ!
そしてだ、006の魔法少女を救えって何よ? 女神様ってば、オイタが過ぎませんか?
◇◇◇
ヴァルドール辺境伯は王都に構えた館を去り、自領への帰途につくため『物見の塔』にある魔導船の発着場へと向かっていた。彼はとても不機嫌であった。三男が壊れ職の役立たずだと知ってすぐに廃籍の手続きをとった。たまたま王都に来ていた事で、手続きはすぐに完了し、その日の内にアルスを追放する事となった。
だが、今は少し後悔しだしている。逆上して怒りの感情の赴くままに追放してしまったものの、後にそれを知った長男であるラッセルから
「父上、アルスはまだ十歳なのですよ。成人にも達していない子を着の身着のままで放りだすとは、親としてどうなのですか? 」
不運にも職に不具合があったとしてもだ、アルスが成人になって、自立できるまで待てなかったのかと、かなり強い調子で意見されてしまったのだ。次期後継者であったとしても本来だと当主である者に意見を言うなど許される事ではないのだが、さすがに辺境伯も冷静になった今になって、ようやく愚行であったのではないか? と思い始めていた。だが、それほどに女神様からの恩寵である職業への想いは人以上に強かったからなのだ。
そこで、アルスの行方を探させたのだが、執事長からの報告は、見つからなかったと言う事だった。すぐにでも保護できると軽く考えていた辺境伯は苦虫を噛みつぶしたような不機嫌な顔になった。
「王都の各ギルドにも壊れ職のような者が来たと言う報告はないそうです。早々に王都を出て他領へと向かったとしたら、大変言い難いのでございますが、探すのは困難かと思われます」
アルス様の職業表示ですと、もしかしたらギルドへの登録は難しいかと思われます。引き続き、別のルートも使っての各方面から捜索を行います。と言う執事長に辺境伯は頷くことしか出来ないでいた。
「ただ……。実は、これは、報告していいかどうか? 迷ったのですが。お耳に入れておいた方がいいかと思い……」
執事長は少し言い難そうに報告を続けた。
執事長は冒険者ギルドの職員から、少し気になる情報を入手したようだ。ギルドの職員はそう言った個人情報を他へ流すことは厳禁なのだが、それはそれ、世の中には口に出来ない裏事情と言うものが多々あるものなのだ。
そのギルド職員の話では、王都の端にある冒険者ギルド支局に第二種魔法使いではあるが型破りな少年がギルド登録をしに来たと言うのだ。
第二種魔法使い? 辺境伯はそれが何だと言うのだとそう思った。
「ギルド職員が言うには、その少年の登録試験における動きは、とても魔法使いとは思えなかったのだと。それはまるで勇者様のようだとの話でございます」
今年の『授けの儀』は当たり年だと言われている。勇者や聖女と言った最高クラスの職の者が何人も現れたと世間は大騒ぎになったとし、王城でもその噂で持ち切りだった事を思い出した。誰もが自領に取り込みたいとの策略を練っているのだろう。
「どいつも、こいつも」
辺境伯はホトホトつまらんとそう思うのだった。アルスの件もあって、勇者だの何だのとの話がとても面白くなかったのもある。もう話は最後まで聞くまでもない。型破りだと言っても、たかだか第二種魔法使いではないか。
「もういい! その話は、ここまでだ! 」
かなり強い調子で遮られたため、執事長はそれ以上の報告ができなくなってしまった。
「はい、申し訳ございません。アルス様の調査は引き続き行います」
だが、これを言わなくていいのか? と、執事長は熟考する。やはりこれは、ラッセル様の耳にだけは入れておこうと思う執事長だった。そして、ギルド職員には他へは絶対に漏らすなとのクギを刺すことも忘れずにだ。
その少年は平民にしては垢抜けした小奇麗な身なりをしており、かなり教育を受けているかのような貴族然とした知的な少年だったという。その少年の名前はショート。職業は第二種魔法使いであり、その容姿は金髪でエメラルドグリーンの瞳でアルスの兄であるラッセルに、それはとても似ていたとの報告だったのだ。
◇◇◇
その頃、ショートことアルスはどこに居たかと言うと、死にそうになりながら『物見の塔』の階段を必死の形相で駆け登っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます