消えたプリン
風雅ありす@『宝石獣』カクコン参加中💎
第1話 犯人はこの中にいる!
ここは、都内にある、何でも屋【百花繚乱】の事務所。
ある日、事件は起きた。
「おい、誰だ?! 俺のプリンを食べたのは!」
部屋の中にいた他の四人が顔を上げる。
「プリンですか? いえ、僕は知りませんけど……」
黒髪で童顔の
「どうかしたのか?」
所長の
紅貴がきっと紫皇を睨んだ。
「俺が楽しみにとっておいたプリンがなくなってるんだ!
誰か食べただろう?!」
それまで机に向かって黙々と手を動かしていた
「お前のプリンなど知らん。そんなことより報告書は書いたのか?」
花月の冷ややかな物言いに、紅貴がきっと睨み返す。
「そんなことだと?! 俺は、三時のおやつにプリンを食べるために、依頼の仕事を三つも片付けたんだぞ?!」
紅貴の力強い主張に、花月が眉を寄せながら言い返す。
「仕事をこなすのは当たり前のことだ。だから、その報告書を早く出せと言っている」
「やだね。俺は、プリンを食べるまで報告書は出さない」
ふん、と紅貴が子供のように唇を尖らせる。
花月が苦々しい表情で何か言おうとした時、紅貴の背後から金髪の若い男が顔を出した。
「ちぃーっす」
「お前か?! 俺のプリンを食べたのは!」
紅貴は、ものすごい剣幕で金髪の男の胸倉を掴んだ。
金髪の男は驚いて、顔を引きつらせる。
「な、なんのことっすか。オレはプリンなんて食べていませんよ」
そこへ、花月が声をかける。
「
「あー……時計壊れちゃって」
琥珀と呼ばれた金髪の男は、悪びれた様子もなく答えた。
すると紅貴は、琥珀の胸倉をぱっと離して、部屋の隅へと向かう。そこには、机にうつ伏せて寝息を立てている白髪の男がいた。
「俺のプリンを食べたのはお前か?!」
紅貴の怒鳴り声を耳元で聞いた白髪の男は、びくりと肩を震わせて顔を上げる。
「…………ん、もうお昼ごはん?」
「
すかさず花月が鋭いツッコミを入れた。
白狐と呼ばれた白髪の男は、それでもぼーっとした顔のまま首を傾げている。
「まぁまぁ、花月も紅貴も落ち着け。誰かが食べたとは限らないだろう。まずは、よく探したのか?」
紫皇の落ち着いた言葉に、紅貴が口を開く。
「探すまでもない。証拠なら上がっているんだ」
紫皇が眉を寄せる。
「どういうことだ?」
「給湯室のゴミ箱に、空になったプリンの容器が捨ててあったんだ!」
紅貴は、部屋にいる全員の反応を見ながら言った。
しかし、花月は、それが何だ、とでも言いたげにふんと鼻を鳴らす。
「それがお前のプリンだという証拠でもあるのか。もしかしたら、他にも誰かがプリンを買ってきて食べただけなのかもしれない」
だが、紅貴は自信ありげに胸を張る。
「それはありえない。なぜなら、そのプリンは、
他の四人がぽかんとした顔をする中、琥珀だけがはっとした表情で反応をみせる。
「なっ、あのマリーアントワネットの?!」
夜兎が琥珀の様子に眉を上げた。
「琥珀さん、ご存知なんですか?」
「え……いや、知らねぇよ、んなもん」
琥珀は、どこか焦った様子で夜兎から視線を外した。
花月が腕組みをしながら溜め息をつく。
「だが、一日二十個も売られているのなら、それがお前の買ったプリンだという証拠にはならないな」
紅貴は、むっとした顔で花月に向かって言う。
「ふんっ、もちろんそれだけじゃないさ。俺は、そのプリンを買うために、開店時間よりも一時間早く店の前に並んでいた。そして、並んでいたのは俺だけじゃなかった」
紅貴は、部屋の中を歩きながら続けた。
「俺の前に母娘の二人組、後ろに五人が並んでいた。そして、プリンは、俺の次に注文した人で完売したんだ」
紅貴の説明を聞き、夜兎が驚いた表情で感嘆の声を上げる。
「四人目で二十個が完売って……皆さん、たくさん食べられるんですね~」
そんな夜兎とは逆に、花月は、何かにはっと気づいた表情で席を立つ。
「ちょっと待て。今日お前が遅刻してきたのは……仕事をさぼってそんなことをするためだったのか?!」
花月の非難する口調に、紅貴は負けじと反論する。
「サボってなんかいない。マリーアントワネットの限定プリンを五個買ってくるという依頼だったんだ。だから、ついでに自分の分も買っただけで……」
「それは本当だ。俺が紅貴に指示を出した」
所長である紫皇の言葉に、その場にいた皆が納得した。
紅貴は、皆に向かって声を張り上げる。
「だから、ここにいる誰かがマリーアントワネットの限定プリンを買って食べることなどできない!」
紫皇、花月、琥珀、夜兎、白狐に見守られながら、紅貴は続けた。
「つまり、犯人はこの中にいる!」
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